ロシア太平洋艦隊の舞鶴訪問 素顔のロシア海軍とその今後
今月半ば、ロシア海軍太平洋艦隊の大型対潜艦アドミラル・ヴィノグラードフが京都府の舞鶴港に寄港した。日露の防衛交流が活発化する中、昨年に続いて海上自衛隊との合同海上訓練を行うためである。
そのヴィノグラードフが訓練終了後の19日に公開されるというので、筆者の住む千葉県から舞鶴まで遥々出かけてみた。
公開は午前の部と午後の部に分かれており、筆者が参加したのは午後の部であった。
昨年、ヴィノグラードフの同型艦アドミラル・パンテレーエフが同じ舞鶴で公開された際は、手荷物検査後に自由に艦上に上がれたそうだが、今回は約30人ずつのグループに分けられ、乗組員のエスコート(つまり監視)付きで艦上を見て回る形式となった。
さすがに全く自由に見て回らせるのは保安上の問題があるということなのだろうか。
ただし、乗組員たちはついてくるものの、うるさい事は一切言わず、それどころか見学者の1人が魚雷発射管の上によじ登ってさえ何も言わないのでこちらが慌ててしまったくらいだ。
厳しいのだか適当なのだか分からないこのあたりが実に「ロシア」だ。
さて、われわれ見学者に見せて貰えるのは、いわゆる上甲板とヘリ甲板だけで、艦内や格納庫は非公開である。
見て回った限りでは、1988年就役の艦だけにさすがにくたびれた感が強く、サビやペンキの塗りムラも目立った。
直前に韓国を訪問してきているので、メンテナンスからかなり時間が経っているという事情もあるだろう。
しかしヴィノグラードフは前述のパンテレーエフと並んで度々ソマリア沖海賊対処作戦にも参加している太平洋艦隊のワークホースであり、くたびれてはいるがしっかり現役で働いているフネ、という感はあった。
船は旧式化しているものの、それをきちんと整備して動かすだけの余裕はすでにロシア海軍には生まれてきているのだ。
さらに艦上を見て回っている際、射撃管制レーダーの側面に光学照準器が追加されているのに気づいた。
これはAK-630機関砲(元々は敵のミサイルに対する最終迎撃手段として装備されたもの)に水上目標を攻撃するための措置と見られる。
米海軍も最近、近接防御システムに同じような改修を施しており、このあたりは冷戦後、国家の直面する脅威が大きく変容したことを如実に示す光景と言えよう。
次に「中の人」たちに視点を転じてみよう。
エスコートについてきた乗組員達は一様に英語があまり得意でなく、このあたりは国際的な海賊対処作戦などに参加する際のネックになるかもしれない。
しかし、会話をしてみると態度は大変にジェントルで、かつての貧しく荒んだロシア軍というイメージはもう当たらなくなりつつあるように感じた。
制服もきちんと統一され、手入れが行き届いており、警備の海軍歩兵も垢抜けた新型迷彩服を着用していた。
このように、最近のロシア海軍も旧式艦とはいえ艦艇を活発に行動させたり、乗組員にまともな待遇を与える余裕が出てきたことは40分間ほどのヴィノグラードフ訪問で改めて確認できた。
問題は、艦艇の更新だ。
これまでロシア海軍は西部地域の艦隊の近代化を優先しており、太平洋艦隊ではこの20年間、目立った装備更新がほとんど無かった。
しかし2014年には新型原子力潜水艦やフランスから購入した強襲揚陸艦が太平洋艦隊に引き渡されることになっており、このあたりの事情も変わってきそうだ。
来年はどんな船が聖アンドレーエフの旗を掲げて舞鶴にやって来るだろうか。