『ポケモン』などにも出てくる「メガトンパンチ」って、いったいどんな威力のパンチ!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
すごさを強調する言葉で「よく使うけど、実際どのくらいすごいかは忘れられている言葉」というものがある。
たとえば「超ド級」。
この「ド」とは、昔のイギリスの戦艦ドレッドノートのことで、軍艦の歴史を変える画期的なフネだった。
すると各国で、ドレッドノートを超えようとする戦艦が続々と作られるようになった。日本だと、戦艦扶桑(ふそう)や山城(やましろ)など。
それらを「超ド級」と呼んだわけで、つまり「画期的なものより、さらにすごい」というのが本来のニュアンスなのだ。
同じような感じでよく使う言葉に「メガトンパンチ」がある。
この名のパンチは、マンガやアニメでもさまざまに使われてきたし、特にゲームではよく出てくる。
『ポケモン』では、ミュウやエビワラーがメガトンパンチを出すし、『ストリートファイター』や『はじめの一歩』には、メガトンパンチの使い手が登場するし、『星のカービィ』にも『かちわりメガトンパンチ』というサブゲームがある。
メガトンは「重さ」と「エネルギー」の単位である。
すると、科学的に考えた場合「メガトンパンチ」とは、どんな威力なのだろうか?
◆1メガトン恐るべし!
メガトンの「メガ」とは「100万倍」という意味だ。
キロメートルやキログラムの「キロ」が「1千倍」を表すのと同じで、このような言葉を「単位の接頭辞」という。
ミリメートルの「ミリ」や、デシリットルの「デシ」など、単位の接頭辞にはいろいろある。
「メガ」=「100万倍」だから、1メガトンは100万tということになる。
つまり、100万tパンチ。
ただ、前述のとおりメガトンは「重さ」と「エネルギー」の単位だから、どちらの単位かによって威力も違ってくる。
まず、重さの単位だとしたら?
重さ10kgの荷物を持ち上げるには、10kgの力が必要なように、重さと力は科学では同じものだ。
するとメガトンパンチは「100万tの衝撃力を持つ」と考えられる。
史上最強のボクサーといわれたマイク・タイソンは、パンチの衝撃力が600kgだったという。
ってことは、『ポケモン』のミュウのメガトンパンチは、タイソンの170万倍!?
こんなパンチをミュウが放ったら、どうなるか?
打たれたのが体重100kgのポケモンなら、時速1900km=マッハ1.6で飛ばされる!
飛んでいく距離は30kmで、東京の新宿で殴ったら、横浜に落下。それほどのパンチということだ。
では、エネルギーの単位だったら?
これは、もっとすごいことになる。
エネルギーの単位としてのメガトンは「同じ重さのTNT爆薬と同じエネルギーを持つ」という意味で、核兵器の威力を表すのに使われる。
すると、ミュウのパンチは核兵器クラス!?
これを食らった体重100kgの相手は、時速3300万km=マッハ2万7千でカッ飛んでいく!
落下地点は……ありません。
地球の重力を楽々と振り切って、宇宙へ飛んでいってしまうからだ。
◆メガトン怪獣とは?
恐るべき「メガトン」だが、これを純粋に重さの単位として使っている怪獣がいた。
『ウルトラマン』に登場したメガトン怪獣スカイドンだ。
スカイドンはある日、宇宙から落ちてきた。
別に暴れるわけでもなく、ただ眠っているだけなのだが、ウルトラマンも科学特捜隊も放っておくわけにはいかず、どうにかして宇宙へ帰そうとする。
ところが体重が重すぎて、どうにもならない。
持ち上げようとしたウルトラマンが下敷きになったりするなど、笑ってしまうようなエピソードもあった。
ところが、このメガトン怪獣の体重が「20万t」という設定なのである。
充分に重いけれど、メガトンで表記すると「0.2メガトン」だ。
とても大きな単位を持ち出して、数字が小数という不思議なことになってしまう。
◆すごいのか、1京ダイン?
メガトンからは離れるが、「単位を名前にしているキャラ」には、いくつか興味深い例がある。
たとえば『ウルトラマンレオ』には、兄「ガロン」と弟「リットル」という兄弟怪獣が登場した。
リットルは、おなじみ体積の単位。ガロンも体積の単位で、1ガロンは3.79リットルだ。
兄弟の名前を体積の単位で統一し、兄のほうが大きな単位とは、2匹の両親もよく考えたものである。
しかし体積の単位だと考えれば、ひょっとして2匹には弟たちがいるのではないだろうか。
名前はおそらく「シーシー」と「ミリリットル」と「立方センチメートル」。
どれもリットルの千分の1だから、たぶん小さな三つ子ということか。
単位を使ったネーミングで印象深いのは、1976年に放送された『宇宙鉄人キョーダイン』だ。
主人公は兄弟のロボットで、兄のスカイゼルがジェット機に、弟のグランゼルがレーシングカーに変身する。
世界的なロボット工学者の葉山博士が建造した。
このキョーダインの力がものすごい。なんと京ダイン!
「京」は「兆」の1万倍で、数としては「きょう」ではなく「けい」と読む。
そして「ダイン」は力の単位。
兄弟で、力が京ダインだから、名前もキョーダイン。すばらしいなあ、葉山博士のネーミングセンス。
1京ダインはどれほどの力か?
数字で書くと100000000000000000000ダイン。
ものすごく強そうに見えるが、問題はダインという単位だ。
1gの物体を1秒間に秒速1ずつ加速する力が、1ダイン。
地上で物を落とすと、速度は1秒間に秒速10m(正確には秒速9.8m)ずつ速くなるから、1gの物体には千ダインの重力が働く。
逆に、1ダインとは千分の1g、つまり1mgの物を持ち上げる力ということだ。
蚊の体重は3mg程度だから、腕に蚊が止まっているとき、僕らは3ダインの力を出している!
刺されでもしない限り、まず気づきませんが。
つまり1ダインとは、人間には感知できないほど微弱な力なのだ。
だが、それほど小さなダインという単位にも、1京がつくと、すごいことになる。
1京ダイン=1京mg=10兆g=100億kg=1000万t。
おお、これほどの力があれば地球も安心だろう。
でも、だったら初めから「1千万t」と言ってくれんかな。宇宙鉄人イッセンマントン。
うーん、まあ、タイトルとしてはパンチに欠けるけど。
それにしても、このように非常に小さな単位と、とてもなく大きな数字を組み合わせるというのは、どうなのだろう?
たとえば、富士山の高さをmmの単位でいうと、377万6千mm。
日本の面積は37京8千兆mm²。
うーん、何が何やらサッパリわからん。
メガトン怪獣やキョーダインからわかるのは、物事にはそれぞれふさわしい単位がある、ということかもしれません。