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トカラ列島近海、4日間で200回超の地震が発生:南海トラフ地震や火山噴火との関係は?

巽好幸ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

 2021年4月9日夜から、鹿児島県のトカラ列島近海で地震が相次ぎ、12日までに有感地震が200回を超えた。これまでに震源近くの鹿児島県十島村の悪石島では震度4を5回観測しており、13日朝にも震度3の揺れがあった。トカラ列島の近海ではこれまでにもしばしば群発地震が発生し、2000年10月には震度5強が1回、5弱が2回の強い揺れに見舞われている。

 トカラ列島周辺は日本でも有数の火山密集地帯であり、火山噴火との関連も危惧される。またこの地域の地下にはフィリピン海プレートが沈み込み、同じプレートの活動によって起きる南海トラフ地震との関係も心配だ。

トカラ列島群発地震の背景(巽原図)
トカラ列島群発地震の背景(巽原図)

 今回の「トカラ列島群発地震(仮称)」は、これまで同地域で起きた群発地震と同様に、悪石島の南西20〜30km周辺の地下約20kmの深さで起きている。現時点での最大のものはマグニチュード5.2である。気象庁の解析によるとその発震機構は、北東―南西方向に圧縮軸を持つ「横ずれ断層型」のようだ。

南海トラフ地震との関連

 専門家の中にも、今回の群発地震と南海トラフ地震との関連性を指摘する者もいる。トカラ列島を含む南西諸島には、フィリピン海プレートが琉球海溝から沈み込んでいる。南海トラフ地震が想定される四国・紀伊半島・東海地方沖でも、同じプレートが南海トラフから沈み込んでいる。このフィリピン海プレートの運動によって、海溝近傍の陸側(フィリピン海プレート表面までの深さが10km程度の領域)にあるユーラシアプレートの変形が進んで歪みが蓄積し、これが限界を超えると海溝型巨大地震が発生するのだ。

 このようなフィリピン海プレートの沈み込みの伴う海溝型地震は当然ながら琉球海溝でも起きる可能性はある。しかし、今回の群発地震はこのような海溝型地震とは別物のようだ。海溝から約200km離れた場所(プレート表面までの深さは80〜100km)で、震源の深さ20kmの横ずれ断層型の地震が起きていることから、海溝型地震ではなく、いわゆる「直下型地震」である。

 このような直下型地震と海溝型地震の因果関係は、科学的には認められていない。したがって、今回の群発地震を南海トラフ地震の前兆と考える根拠はない。

火山活動との関連

 今回の群発地震発生域の近傍には、口之島、中之島、諏訪之瀬島の3つの活火山がある。また震源に近い悪石島も、現時点では1万年前以降の火山活動が認められないために活火山に指定されてはいないが、比較的新しい火山島であることは間違いない。また、この地域の約150km北方には、「鬼界カルデラ(薩摩硫黄島火山)」がある。この火山で起きた7300年前の超巨大噴火では、火砕流が南九州縄文文化を壊滅させ、火山灰は関東地方にまで達した。このような火山密集域で起きた今回の群発地震は、火山活動との関連性も気になる点だ。

 これまでにも、群発地震の発生が火山噴火に繋がった例がある。1989年伊豆半島東方沖群発地震では、地震活動の開始から9日目に最大規模の地震(マグニチュード5.5)が発生し、その4日後に海底火山の噴火が起きた。この群発地震はほとんどが地下2~3kmで起きたものであり、マグマが地下へ貫入したことが原因だと考えられている。

 一方で今回のトカラ列島群発地震は地下20km程度の深さで発生しており、マグマ溜まりから地表へ向けたマグマの移動によるもの、すなわち噴火の切迫性を示すものとは考えにくい。

 しかしながら、地下深部20kmの領域でもマグマが存在する可能性は十分にあり、このような深部のマグマが上昇する可能性は否定できない。しかも、このような深部からのマグマの上昇は、大規模な噴火を引き起こすことも考えられるため、今後の推移を注意深く見守る必要がある。

 また、九州から南西諸島北部にかけては、過去に超巨大噴火を起こした火山が並び、さながら「巨大カルデラ火山銀座」の様相を呈している。しかしながら、それぞれの火山ではほぼ独立して火山活動を起こすため、火山噴火の連動や、今回の群発地震がこれらの火山活動を誘発する、もしくはその前兆であるとは考えにくい。

群発地震を引き起こす原因

 まだ十分な観測データが揃っているわけではないので、今回のトカラ列島群発地震の原因については不明な点が多い。しかしながら、この地域がフィリピン海プレートの沈み込みの影響を強く受ける西南日本にあって、以下のように特異な地点であることは重要であろう(図を参照)。

  • 「トカラギャップ」と呼ばれる、水深が1000mを超える海峡をなすこと
  • 「奄美海台」と呼ばれる海底台地が沈み込んでいる地域であること
  • 南西諸島から九州の大陸側に「沖縄トラフ」と呼ばれる窪地が走り、現在海底の断裂が進行中であること

 この地域の地震活動、火山活動に密接に関連すると考えられるこれらの変動現象について、今後新たな知見が得られることを期待する。

ジオリブ研究所所長(神戸大学海洋底探査センター客員教授)

1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学海洋底探査センター教授などを経て2021年4月から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

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