日本国債下落の理由
5月9日のニューヨーク外為市場で、ドル円があっさりと100円を突破し、10日の東京市場では101円台をつけ、13日には102円台に乗せてきた。
麻生太郎財務相は11日に、主要7か国(G7)財務相・中央銀行総裁会議終了後の記者会見で、100円を突破している円安に関し、G7会議では「100円突破がどうのこうの(との議論は)一切なかった」と述べた(ロイター)。日銀の金融緩和や円安についても「批判的な意見はなかった」そうである。
日銀の黒田東彦総裁は、G7会議の席上で金融緩和策の狙いや波及効果などについて各国に説明。大規模緩和の導入で、長めの金利や資産価格のプレミアムに働きかける効果等が期待できると主張していたとか。円安により資産価格のプレミアムに働きかけは確かにあったが、長めの金利は13日に0.7%台に上昇しており、どうやら上昇するように働きかけた格好となったようである。ただし、黒田総裁はこの長期金利に対して、跳ねることは予想していないし、そうならないとの考えを示したそうである。現実にはすでに0.8%まで跳ね上がっているようだが。
5月13日の長期国債先物(債券先物)は、10日の欧米市場での国債の下落や、円安などを受けて大幅下落となり、一時143円割れに。つまり4月5日に乱高下した際につけた143円10銭という直近の安値を割り込んでいる。
4月4日の異次元緩和を受けて翌5日には銀行などの国内投資家などから大量の売りが持ち込まれ、それにより債券先物は2度のサーキットブレーカーが発動し、143円10銭まで急落した。ただし、この日のうちら145円台を回復し、その後の債券先物はやや落ち着きを取り戻していた。
ところが5月10日のドル円の100円突破をきっかけに再び債券相場は下落し、10年債利回りは0.8%台に上昇し、債券先物はチャート上も大きな節目になった思われる143円10銭も割り込んできた。
5月10日は日本国債のみならず、ドイツ国債の利回りは1.38%近辺に上昇、フランス10年債の利回りも1.96%近辺、オランダ10年債利回りは1.70%近辺、オーストリア10年債利回りも1.77%近辺に上昇、英国債の10年債利回りも1.90%と、それぞれ利回りが大きく上昇し、米国の10年債利回りも1.90%近辺に上昇していた。
PIMCOのビル・グロース氏は、すべての債券の強気相場は終えんを迎えたとの見解を示したそうだが、ドル円の100円突破や日米英独等の長期金利の上昇の根底には、欧州の信用不安の後退があろう。それを示すものとして、たとえばイタリアの長期金利の低下、さらにはギリシャそのものの長期金利の低下もあった。一時7%台にあったイタリアの長期金利は4%割れ、一時30%台にあったギリシャの長期金利は10%割れとなっている。ギリシャのサマラス首相は13日に、来年の早い時期に国債を発行し、国際資本市場への4年ぶりの復帰を目指す考えを明らかにした(ロイター)。
日本国債の下落が欧米の債券下落を招いたのかどうかは不透明ながら、ここにきての日本国債の下落の背景にも注意を払う必要がある。そもそものきっかけは長期金利の低下を促すことを目的とした4月4日の黒田日銀の異次元緩和にある。たしかに4月5日に長期金利は一時0.315%まで低下したが、その後の長期金利はむしろ上昇している。国債の発行額の7割強も日銀が買い込むことによる国債の流動性への影響が懸念材料となり、これは池の中のクジラに例えられた。
日銀のリフレ政策が本当に効果があれば、2%の物価上昇が可能となり、それに先んじて長期金利が上昇しているという見方もあろう。しかし、多くの債券市場参加者は2%の物価上昇には懐疑的である。ただ、欧州のリスク後退を背景とした円安がアベノミクスで急加速し、欧米市場の株高も手伝い東京株式市場も急激な上昇となっており、こちらの動向にはある程度、目を向けざるを得ない。
買いが手控えられるなか、流動性の薄くなっているマーケットに多少なりまとまった売りが入ると大きく変動する。それが5月10日の債券の下落であり、それに海外要因も加わり債券先物は13日に143円10銭の節目を割り込んだのではなかろうか。ここを割り込むことで、債券相場はチャート上もあらたな動きをみせることが予想される。
5月10日の欧米の国債市場の動きもこれまでとはやや異なるように思われる。簡単に言ってしまえば、リスクオンの動きなのかもしれないが、ここにきて「超低金利時代の終焉」(拙著の電子書籍のタイトル)の兆候があらためて出てきたのかもしれない。