韓国の「法相vs検察総長」の抗争は「大統領vs検察総長」に発展へ!
「生きるか、死ぬか」の韓国の法相と検察総長による権力抗争はボクシングに例えるならば、ノーガードの4回戦ボクサーの戦いのようだ。
第1ラウンドは尹錫悦検察総長の職務停止と懲戒請求に持ち込んだ秋美愛法相の、第2ラウンドは訴訟を起こし、職務停止の執行停止を勝ち取った尹総長のラウンドとなったが、明日(4日)、第3ラウンドの懲罰委員会が開かれる。
懲戒委員会委員長を務めることになっていた高基栄法務次官が尹総長の懲戒に反対し、突如辞任したことで開催が危ぶまれていたが、文在寅大統領がすぐに後任を据えたことで2日遅れの4日に開催の運びとなった。
懲戒委員会は法相と次官、法相指名の検事2人、法相が委嘱した弁護士ら3人の計7人で構成される。次官を除くと委員は秋法相が人選している。新任の李容九次官は非検察出身で、検察改革の急先鋒である「我が法研究会」所属の代表的な進歩派弁護士である。
懲戒は過半数の賛成で決定されるが、ほぼ全員が秋法相による人選なので懲戒は避けられそうにない。そもそも、懲戒委員会は秋法相の懲戒請求によって開かれるので委員会を強行する以上、また、尹総長を検事倫理綱領の違反、職務上の義務違反、職権乱用など様々な理由で懲戒委員会に掛けたわけだから「お咎めなし」の決定は考えにくい。
懲戒処分には解任、免職、停職、減給、譴責(戒告)がある。減給以上の重い処分となれば、文大統領の裁可が必要となる。譴責処分ならば、大統領は関与しないで済むが、解任や免職などの場合は大統領の決裁を仰がなければならない。
慣例上、法相から裁可を求められれば、検事懲戒法に基づき大統領は決裁しなければならない。それも自動承認がこれまでの慣例だ。拒否することも、罰を軽くすることもできない仕組みとなっている。
(参考資料:前代未聞の法相と検察総長の「仁義なき戦い」 文在寅大統領はどちらの手を上げるのか?)
来年7月の任期満了まで絶対に辞めない決意を固めている尹総長は、懲罰委員会でどのような処分が下されても「裁量権の乱用」を盾に法的手段に打って出る構えだ。法務部監察委員会でも全員一致で職務停止も懲戒も「不当」と認められ、また職務停止の効力停止を求めたソウル行政裁判所でも勝訴しただけに強気である。
重い処分ならば、当然訴える相手は懲戒の最高執行者である文大統領ということになる。仮に軽い戒告で済まされたとしても秋法相を相手に行政訴訟を起こすだろう。「検察の政治的中立を守るため、これまで一点も恥じることなく検察総長の任務を全うしてきた。違法・不当な処分に対し最後まで法的に対応する」と宣言しているからだ。
尹総長が強気なもう一つの理由は、過去に大統領を相手に民間人が起こした同様の訴訟で民間人が勝訴したケースがあるからだ。盧武鉉政権下でKBS社長に任命された鄭淵珠氏は李明博政権下で解任されたが、「解任は不当である」として2012年に李大統領を相手に訴訟を起こし、李大統領の裁量権乱用が認められ、勝訴している。
直近の世論調査では秋法相よりも尹総長を支持する声が圧倒的に多く、また次期大統領候補の1位に躍り出た尹総長の処罰は文大統領にとっては余りにもリスクが大きすぎる。
尹総長を支持する全国の検事が「反乱」を起こし、徹底抗戦すれば、大統領府、政府・与党の不正追及に拍車がかかる恐れがある。不正が発覚し、逮捕者がぞろぞろ出てくれば、仮に検察総長の首を挿げ替えても何の意味もない。来春のソウル、釜山2大市長選挙を前に致命傷になりかねないどころか、退任後の文大統領の「身の安全」にも関わってくる。
仮に懲戒請求が否決されれば、大統領としては尹総長の問題に関わらないで済むが、この場合は秋法相の責任問題が浮上する。
野党はすでに騒動を起こした秋法相の解任を求めていることから文政権としては何事もなかったでは済まされない。さりとて、与党代表時代に朴槿恵政権を引きずり下ろし、文政権誕生の最大の功労者である秋法相の首を切れば、秋法相を全面的にバックアップしている与党及び支持層である進歩勢力の離反を招く恐れがある。
どちらの首を切っても、レームダック(任期末期の権力喪失)の始まりのような気がしてならない。