アトピー性皮膚炎の子供の皮膚にいる黄色ブドウ球菌の秘密とは?最新の研究で分かったこと
【アトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌の関係 - 最新の研究結果から】
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下と免疫の異常によって起こる慢性の炎症性皮膚疾患です。子供の25%がアトピー性皮膚炎を発症すると報告されており、かゆみを伴う湿疹が特徴的な症状です。アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚には、黄色ブドウ球菌という細菌が高い割合で存在することが知られています。健康な人の皮膚での黄色ブドウ球菌の存在率が約10%であるのに対し、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では70%にも上ります。
最近の研究により、黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因の一つであることが分かってきました。黄色ブドウ球菌は、アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚で増殖し、炎症を引き起こすことが明らかになっています。黄色ブドウ球菌を標的とした新しい治療法の開発が、アトピー性皮膚炎の症状改善につながる可能性があります。
【黄色ブドウ球菌に対するT細胞の反応の違い】
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では、黄色ブドウ球菌に対する免疫反応、特にT細胞の反応が変化していることが今回の研究で明らかになりました。T細胞は白血球の一種で、体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を認識し、排除する役割を担っています。
研究チームは、黄色ブドウ球菌に感染したアトピー性皮膚炎の子供、感染していないアトピー性皮膚炎の子供、そして健康な子供の3つのグループを比較しました。その結果、黄色ブドウ球菌に感染したアトピー性皮膚炎の子供では、皮膚の炎症を引き起こすIP10やTARCというタンパク質が増加していることが分かりました。一方で、黄色ブドウ球菌に感染したアトピー性皮膚炎の子供の血液中のCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞は、感染していないアトピー性皮膚炎の子供や健康な子供と比べて減少していました。
CD4陽性T細胞は、他の免疫細胞を活性化し、感染防御に重要な役割を果たします。CD8陽性T細胞は、感染した細胞を直接攻撃し、排除します。これらのT細胞の減少は、黄色ブドウ球菌に対する免疫応答が適切に機能していないことを示唆しています。
これらの結果から、黄色ブドウ球菌に感染したアトピー性皮膚炎の子供では、皮膚の炎症を促進する物質が増える一方で、感染を防御するT細胞の働きが抑制されていることが示唆されました。
【新しい治療法の可能性 - 黄色ブドウ球菌ワクチン】
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚で黄色ブドウ球菌が増殖することを防ぐことは、症状の改善につながる可能性があります。そこで注目されているのが、黄色ブドウ球菌に対するワクチンの開発です。
これまでにも黄色ブドウ球菌ワクチンの開発は試みられてきましたが、十分な効果が得られていません。その理由の一つが、T細胞の反応を適切に誘導できていないことだと考えられています。今回の研究で明らかになった、黄色ブドウ球菌に感染したアトピー性皮膚炎の子供のT細胞の反応の特徴は、新しいワクチン開発のヒントになるかもしれません。
アトピー性皮膚炎の患者さんに特化した黄色ブドウ球菌ワクチンが開発されれば、感染を防ぎ、症状を改善できる可能性があります。ワクチン開発には課題も多いですが、将来的な新しい治療法として期待されています。
以上、アトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌の関係について、最新の研究結果をご紹介しました。黄色ブドウ球菌がアトピー性皮膚炎の症状に関わっていることが明らかになり、新しい治療法の開発につながることが期待されます。
参考文献:
Clowry J. et al., Distinct T cell signatures are associated with Staphylococcus aureus skin infection in pediatric atopic dermatitis. JCI Insight. 2024;9(9):e178789. https://doi.org/10.1172/jci.insight.178789.