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人の集中力が金魚以下の時代、動画サービスは高級レストランとスナックに二極化する

藤代裕之ジャーナリスト
IVS2016Springのセッション「広がるネット動画ビジネス最前線」

「人の集中力が金魚を下回る」。ベンチャー企業の経営者らが集まるイベント「Infinity Venture Summit(IVS)2016 Spring Miyazaki」(インフィニティ・ベンチャーズLLP主催)でネット動画ビジネスのセッションが行われ、動画元年といわれサービスが乱立する中で、視聴者をどう獲得していくのか。サービスの特徴や動画市場の将来について議論が行われた。

ファイブの菅野圭介社長(31)が「人間のアテンションスパンは下がる一方。2000年は12秒だったが、13年になって8秒ぐらいになった」というマイクロソフトのリサーチを紹介して始まった。他の登壇者は、AbemaTVの卜部宏樹副社長(29)、Viibarの上坂優太代表取締役(32)、SHOWROOMの前田裕二社長(28)。

AbemaTVはマスメディアを目指す

サイバーエージェントとテレビ朝日とのジョイント事業で行われているAbemaTVは、Netflixなどのように特定のコンテンツを目的に視聴するサービスではなく、テレビのように受け身で見られるサービスとなっている。

卜部副社長は「FacebookやTwitterは、これがあるから見に行くわけではなく、何かあるから見に行く。競合になるサービスを探したがなく、受け入れられるか心配だったが、5月3日までに累計200万ダウンロードを突破した。キーポイントは無料、24時間編成、プロダクトクオリティ、コンテンツラインナップ。熊本地震でも24時間で放送できる体制が生きて、熊本からどんどんアクセスが増えていく状況が見えていた。しっかりしたメディア、マスメディアになっていきたい」と述べた。

視聴者は優しいおじさん

一方、生配信サービスSHOWROOMは、ニコ生やツイキャスと比べられる。すべてのコンテンツがライブでアーカイブはない。『仮想ライブ空間』をキャッチコピーに視聴者側も可視化されているのが特徴。秋元康や小室哲哉と協業しており、参加者が雑誌のグラビアを飾ることもある。マスメディア志向のAbemaTVと異なり、一部に知られ熱烈なファンがいるマイクロインフルエンサーである視聴者との関係が重要だ。

前田社長は「物販はファンの親密度で売れる。出演者から「そのバッグ似合うと思うよ」と言われて喜んだり、視聴者が「この場でいくらまで売ろう」という一体感を持つことがある。視聴は最低一時間以上。一日15時間配信している人がいたら、頑張って見る。一緒にいる感じ」。視聴者層は「優しいおじさん」と呼ぶ、M2層(35歳から49歳)の人が多い。

スナックとしてしぶとく生きる

AbemaTVの視聴は、ニュースは10分ぐらい見て離れるユーザーが多いが、ニュースを見た人は他のコンテンツに流れる。一方、韓国アイドル番組の場合は一直線で来て、帰っていく。視聴者層は30代が中心。「麻雀は長時間張り付いている。10代、20代向けに作ったが、麻雀が人気で平均年齢を上げているのではないか疑惑がある」。

前田社長は動画市場は、テレビのザッピングのような受動と好きな人、好きな番組を見に行く能動に分かれ、高級レストランとスナックの二極化が起きると予測。「abemaTVは高級レストランで、SHOWROOMはスナック。スナックでは自分を受け入れてくれるママとの関係性が重要。スナックとしてしぶとく生きていくのが戦略」と述べた。

出演者と視聴者の関係を重視する前田社長が「動画の評価指標が変わっていくのではないか」と問いかけると、卜部副社長は、AabemaTVのTwitterのシェア機能が、番組の動画一部が自動で付くためコメントなどが共有できるため使われていることを紹介。菅野社長も、動画広告配信プラットフォーム「モーメンツ」で、MixChannelに配信した動画広告がTwitterで拡散した事例を紹介した。

コンテンツ制作も伸びる

動画制作のプラットフォームViibarには3000人のクリエイターが登録。AbemaTVのコンテンツも制作している。上坂社長は「動画コンテンツマーケットが伸びているので、制作も伸びている。登録しているクリエイターには、ハワイ在住で1千万円稼いでいる人や大学時代から登録し卒業後は会社をつくった人もいる」と話した。

参考:You Now Have a Shorter Attention Span Than a Goldfish(TIME)

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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