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90回目のル・マン24時間レース!歴史を彩った名車たち(1)〜欠かせない英仏ブランド〜

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ベントレー・スピード8(写真:ロイター/アフロ)

2022年6月11日(土)から12日(日)にかけてフランスで開催される「ル・マン24時間レース」はいよいよ90回目の記念大会となる。「世界三大自動車レース」に数えられる有名な耐久レースを彩ってきた名車、名ブランドを一挙に紹介していく企画記事。まず第1回はル・マンで名を馳せ、一大ブランドになっていった自動車メーカーを見ていこう。

ル・マン24時間レース
ル・マン24時間レース写真:アフロスポーツ

初期のスター集団「ベントレー」

1923年から始まった「ル・マン24時間レース」は来年でいよいよ初開催から100年目を迎える。その歴史はフランスとイギリスの自動車を使った戦いから始まり、世界中の人々の関心を集めていった。フランス車以外で最初に優勝したのが1924年(第2回大会)のウイナー「ベントレー」だ。

ベントレー・スピード6【写真:DRAFTING】
ベントレー・スピード6【写真:DRAFTING】

今では英国の高級車ブランドとして知られるベントレーは、元々はル・マンでの優勝により、その名声を轟かせていくことになったのだ。1930年に撤退するまで5回もの優勝を飾ったベントレーは「ベントレー・ボーイズ」と呼ばれたワークスドライバーたちを擁し、銀河系軍団とも言えるスター揃いの選手たちは初期のル・マンのヒーローたちだった。

中でも1929年、1930年と連覇したベントレー・スピード6は初期を代表する名レーシングカーとして知られ、24時間で走行した距離は3000kmに迫るまでになったのだ。

ベントレーはロールスロイスに買収され、1930年を最後にル・マンから撤退。以後、高級車ブランドになっていくが、市販車に「ミルザンニュ」や「アルナージ」といったル・マンのコーナー名を冠した車名が存在したのは、彼らの原点がル・マン24時間にあるという表れと言える。

ベントレー・スピード8
ベントレー・スピード8写真:ロイター/アフロ

ベントレーはフォルクスワーゲングループになった後、同じグループ傘下のアウディの対抗馬として仕立てられた「ベントレー・スピード8」で2003年にル・マンで優勝している。それ以来、イギリス車はル・マンで総合優勝を果たしていないが、今もなおドーバー海峡を超えてイギリス人たちがル・マンに大挙して来場するのは、フランス車vsイギリス車の対決構図が生まれた初期の頃から続く伝統でもあるのだ。

スポーツカーの基準を作った「ジャガー」

ベントレーが築いたル・マン挑戦のスピリットを第二次世界大戦後に引き継いだのが英国の「ジャガー」だ。風洞実験を行うことで生まれた流麗なボディ、4輪ディスクブレーキなど当時としては革新的な技術を採用し、ル・マン24時間レースをジャガーが席巻したのは1950年代のこと。ジャガー・Cタイプジャガー・Dタイプの走行距離は4000kmを突破。新世代のスポーツカーのスタンダードはル・マン24時間を通じて生まれていったと言える。

ジャガーDタイプ
ジャガーDタイプ写真:ロイター/アフロ

今では電気自動車にも力を入れるなどブランドイメージを先進的かつスタイリッシュなものにシフトしているジャガーだが、そのブランド躍進の原点はベントレー同様にモータースポーツにあったのだ。

ジャガーは1980年から90年代にル・マン24時間レースに再び挑戦し、グループC規定のジャガー・XJR-9ジャガー・XJR-12で優勝を果たしている。

ジャガーXJR-12【写真:DRAFTING】
ジャガーXJR-12【写真:DRAFTING】

今のところジャガーがル・マンに復活するというニュースはないが、SUVの「F-PACE」に1988年の優勝周回数394周にちなみ394台の限定車を発売するなど、ル・マンに絡めた施策を行うあたり、ジャガーブランドがいつの日かル・マンに登場する日はあるのではないかと思ってしまう。

母国フランスの意地「ルノー」と「プジョー」

ル・マン24時間レースで優勝したいならば、母国フランス出身のドライバーを起用するのが定石と言われる。事実、ドライバーの総合優勝回数はフランス人ドライバーが最も多いのだ。

しかし、フランス車の優勝は意外にも多くなく、「マトラ・シムカ」と「プジョー」の3回がフランス車の中では最も多い優勝回数となっている。ドイツの「ポルシェ」が19回、「アウディ」が13回も優勝しているのからすると圧倒的に少ない数字だ。現在はF1にも参戦する「ルノー/アルピーヌ」に至っては1回しか優勝がない。

ルノー・アルピーヌA442B【写真:DRAFTING】
ルノー・アルピーヌA442B【写真:DRAFTING】

1978年に優勝を飾った「ルノー/アルピーヌ」のA442Bは市販車のA110でラリーや耐久レースで活躍したアルピーヌのレース精神が注ぎ込まれた名車であり、ル・マンで培われたV型6気筒のターボエンジンの技術は後にルノーF1のワークス活動に転用されることになった。

ルノーはスポーツブランドとしての「アルピーヌ」でF1に参戦するほか、「トヨタ」の対抗馬としてハイパーカークラスに参戦しているが、中身はLMP2クラスとほぼ同等のマシン(オレカ・ギブソン)であり、フランス人の応援対象として参戦しているにすぎない。

プジョー905【写真:DRAFTING】
プジョー905【写真:DRAFTING】

一方、1990年代、2000年代に優勝したフランス車「プジョー」は100年目の節目となる2023年のル・マン制覇に向けてハイパーカークラス参戦計画を進行中だ。当初は今年から復帰し、トヨタの最大のライバルとなると見られていたが、コロナ禍の影響で開発が遅れてしまい今年の参戦を断念した。

1990年代前半には当時のF1と同じ3.5L自然吸気エンジンを使用する規定下で「プジョー905」を投入し、トヨタと対決。近未来的なデザインで登場した初期型から、レースでの効率を考えたEvoモデルへと劇的に進化をし、初優勝を狙ったトヨタを苦しめたのだった。

プジョーが来年から投入する予定の奇抜なハイパーカー【写真:PSA】
プジョーが来年から投入する予定の奇抜なハイパーカー【写真:PSA】

2023年には再び「プジョー」と「トヨタ」の対決が実現するわけだが、他にも「ポルシェ」「アウディ」「フェラーリ」など数多くのメーカーがライバルとして登場予定。手強い外国のライバル車がいるからこそ光り輝く、母国フランス車の意地。その対決構図こそがル・マン24時間レースが長く続いてきた理由ではないだろうか。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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