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なぜアメリカで銃規制は進まないのか:数字から読み解く

前嶋和弘上智大学総合グローバル学部教授
ラスベガス銃撃事件近くでの追悼集会(写真:ロイター/アフロ)

 ラスベガスでアメリカ史上最悪の銃撃事件が起こったが、一方で抜本的な規制が進む気配は全くみえない。こんな悲劇の中、なぜそうなのか。銃をめぐる複雑な状況がその背景にある。これを数字から読み解いてみたい。

(1)逆相関する銃と殺人事件

 まず、前提としてアメリカ国内の銃の数はとてつもなく多い。アメリカ国内の銃の数は2009年の段階で推定3億1000万丁であり、その後の増加を考えると3億2000万の人口よりも多いと考えられている。展示販売で売買されることも一般的だ。こんな国は世界にはない。銃による死者(殺人と自殺、誤使用を含む)は3万人を超え、この数も極めて多い。さらにアメリカ国内の銃は急激に増えている。

 しかし、驚くことに、増え続ける銃の数と、殺人件数との相関はわかりにくい。いや、むしろ逆相関している。表1で示した通り、ATF(アルコール・タバコ・火器爆発物取締局)によると、アメリカ国内の銃の製造量は2007年ごろまでは400万丁を超えることは多くなかったが、その後、急増しており、2013年には1000万丁を超えた。人口比の殺人事件数が最低となった2014年の国内製造数はやや減ったものの、900万丁以上と高止まりしている(1)。

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 一方、表2のように、FBI(連邦捜査局)によると、アメリカの10万人中の殺人件数は90年代半ばから2014年まで減り続けた(2) 。同年には4.5人と57年間で最も低い数字となった(58年前の1957年は4.0)。その後、増加傾向に転じ、2015年には4.9人、2016年には5.3人と7年ぶりに5人を超えたが(3) 、それでもかなり低い率ではある。

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 銃がなかったらさらに殺人件数は減っていたかもしれない、という疑問は残るものの、それでも「銃が殺人件数を増やしている」とは断言しにくい。

 全米ライフル協会などの銃規制反対派は「銃が増えれば安全になる」という論理をいつも展開しているがその根拠となるのが、この銃の販売数増加と殺人率の低下である。自衛のためなのか、2012年1月のコネチカット州のサンデーフック小学校や2016年6月のフロリダ州オーランドなどでの乱射事件の直後の銃の販売は急伸した(4) 。

(2)銃規制の動き

 銃規制の動きはどうだったのだろうか。購入者の身元の調査などのバックグランドチェックなどを課した「ブレイディ法」や拳銃の弾倉装填数の制限などを決めた「アサルトウェポン規制法」(いずれもが時限立法で、1994年から2004年)は、銃所持の野放し状態から規制へ向けて踏み出したという象徴的意義は大きかった。ただ、導入直後は犯罪率が大きく改善したものの、延長されなかった後もさらに犯罪率が減り続けたことともあり、その効果は何とも断言しにくい。それよりも長期的な銃増加と近年の銃事件の低下の方が目立っている。

 殺人事件数が減ったのは規制の影響が長続きしたという解釈もできるが、それにしても銃そのものは急増している。「ブレイディ法」なら非正規の業者からの購入や、「アサルトウェポン規制法」なら購入後の改造も容易な機種が発売されていたため、いずれの法も様々な抜け穴だらけだった。私自身は本音で釈然としないところもあるが、NRAの指摘の「銃で自衛する人が増えたため、殺人事件が減った」のも一理あるのかもしれない。

(3)「銃による自殺者」>「銃による殺人」

 上述のようにアメリカの銃による死者は3万人を優に超える。しかし、これも驚くのだが、その内訳は、銃による殺人よりも銃による自殺の数が圧倒的に多い。アメリカの銃による死者の数は例えば2014年の場合、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によると、3万3594人が亡くなっている (5)。ただ、この中では自殺が2万1386人と全体の6割以上を占めており、殺人は3割強の1万1008人となっている(残りの数は銃を使った意図しない事故や使い方の誤りによる死など)。なお、自殺総数4万2826人のうち、銃によるものが約半分であることは何とも言えない悲しい数字ではある。

 銃がなかったら自殺は減っていたかもしれないが、それでも立証するのは難しい。

(4)「メディアの社会構築」

 一方で銃の乱射事件についての報道は、メディアはどうしても過熱化する。それは今回のラスベガスの事件やフロリダ・オーランドでの事件など、動機がはっきりしない大量殺人という社会的病理を反映した事件であるため、世界的に注目を集めてしまっている。

それもあって「犯罪が増えている」と認識している人は多い。ピューリサーチセンターの2015年春発表の調査のように犯罪数が減っているにもかかわらず、犯罪数が増えていると思っている人の数が増加している(6) 。

 象徴的な事件が目立つため必ずしも「誤っている」とは断言しくいが、事件は減っているため、「誤認」といってもいいかと思われる。メディアで伝えられた情報が現実の認識をややゆがめている「メディアの社会構築」といえるかもしれない。

(5)「銃規制」の日米の差

 そもそも日本人が考える「銃規制」とアメリカのリベラル派が考える「銃規制」とはかなりの差がある。「アメリカの規制はなぜ進まないのか」という疑問を常に私たちは持っている。日本人が考える「銃規制」とは銃が全くなくなったような一種の「刀狩り」のようなものを意味していることが多い。もちろん徹底的に銃がない方が安全なのは言うまでもない。

 銃による犯罪が深刻であることは間違いないため、徹底した規制をかければ可能かもしれない。現代版の刀狩りである。しかし、ただ、徹底した規制を現在行なっても、結局その規制に従うのはまともな人である。その規制の網を破って密輸するのがギャングなどの組織犯罪とすると、どれだけ効果があるかどうかはわからない。

 今回のラスベガスでの事件の場合、事件の全容がわからないため何とも言えないが、犯罪に使われる銃は、ギャングなどの組織犯罪がもたらすケースが非常に多いのは言うまでもない。

 銃を規制すると、そもそもすでに人口以上の銃がある。そこから考えると、莫大な国家予算を揺るがすような想像を超えるような徹底した規制が必要になる。その社会の中でもし、規制が徹底された場合、どうなるか。規制反対派の頻繁な主張は「まともな人たちがそれに従って銃を放棄しても、ギャングが非合法で銃を持ち込む」「治安はなかなか改善されない」というものである。

 確かに一理はある。トランプ大統領の公約である米墨国境の壁がなかなか実現できていないように、そもそも国境がないような場所が米墨国境などにはあり、海外から持ち込まれることもあるため、銃だけの規制にとどまらない。同じ規制として例を出すのは正しくないかもしれないが、禁酒法時代と同じである。当時は海外から持ちこまれたり、「薬用アルコール」としてバーボンが規制から外れてしまっていた。これと似ているかもしれない。

 部分的な規制はあっても根本的に銃をなくすような抜本的な解決は上のデータからも、アメリカの現状をみると不可能といえるであろう。今回の事件を経て、民主党側が現在急いで提出した銃規制法案は上述の「アサルトウェポン規制法」の考え方に近いものであり、殺傷能力の高い銃火器を規制しようというのが狙いである。象徴的には意味があるが、連射装置の「バンプストック」の規制も小手先に過ぎないかもしれない。ただ、新しい規制についても、「アサルトウェポン規制法」や「ブレイディ法」がどれだけの効果を示したか、上述のように断言しにくいため、導入にはかなり難航するであろう。

 今回の事件で規制が進むことはおそらくあり得ない。

(1)https://www.atf.gov/resource-center/docs/undefined/firearms-commerce-united-states-annual-statistical-update-2017/download

(2)https://ucr.fbi.gov/crime-in-the-u.s/2014/crime-in-the-u.s.-2014/tables/table-1

(3)https://ucr.fbi.gov/crime-in-the-u.s/2016/crime-in-the-u.s.-2016/

(4)https://www.bloomberg.com/graphics/2016-gun-sales/

(5)https://www.cdc.gov/nchs/data/nvsr/nvsr65/nvsr65_04.pdf

(6)http://www.pewresearch.org/fact-tank/2015/04/17/despite-lower-crime-rates-support-for-gun-rights-increases/ft_15-04-01_guns_crimerate/

上智大学総合グローバル学部教授

専門はアメリカ現代政治外交。上智大学外国語学部英語学科卒、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(北樹出版,2011年)、『キャンセルカルチャー:アメリカ、貶めあう社会』(小学館、2022年)、『アメリカ政治』(共著、有斐閣、2023年)、『危機のアメリカ「選挙デモクラシー」』(共編著,東信堂,2020年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)等。

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