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独占インタビュー:「ファインディング・ドリー」の監督、「ふたりめの子供を生むような体験だった」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
アンドリュー・スタントン監督(写真:Shutterstock/アフロ)

「ファインディング・ドリー」の勢いが止まらない。

「ターザン REBORN」や「インデペンデンス・デイ:リサージェンス」など超大作も制し、3週連続で北米1位をキープした「ドリー」は、この週末、ついに「ペット」に首位の座を譲る見込みとなったものの、現在までの北米興行収入は4億2,200万ドル。すでに「ファインディング・ニモ」の3億8,000万ドルを抜いており、アニメ映画の歴代最高成績を誇る「シュレック2」の4億4,200万ドルに追いつくのも目の前という状態だ。

ここまで人々に愛される映画を生み出したのは、1作目を監督したアンドリュー・スタントン。「ウォーリー」でも監督を務め、「トイストーリー」3作や「モンスターズ・インク」の脚本も手がけた彼は、ピクサーの大ベテランだ。2012年の「ジョン・カーター」では、ライブアクションの監督にも挑戦している。

CGアニメの製作プロセスは、伝統的なアニメと、かなり違う。脚本があり、それに従った絵コンテどおりに出来上がった映像を見て声優が声を吹き込むのではなく、声の演技と映像製作は、ほぼ並行して行われる。アニメーターたちは、声の演技をする俳優たちのビデオ映像も参考にしつつ、映像を作っていく。その間、ストーリーは変わり続ける。つまり、最終的にどんな話に落ち着くのかわからないまま、作業が進んでいくのだ。

そんな流動的な過程では、監督に対する絶大な信頼が、より重要になってくる。スタッフから信頼を集め、映画を見事に成功に導いてみせたスタントンと、彼の最高のパートナーを務めたプロデューサーのリンジー・コリンズに、製作の裏話を、L.A.で聞いた。

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「ファインディング・ニモ」が公開されたのは、2003年です。13年もたつ今、あえて続編を作ろうと思ったきっかけは、何だったのでしょうか?

アンドリュー・スタントン(以下AS):続編を見たいという声は、たくさん聞いたよ。でも、だからといって作らなきゃいけないとは思わなかったんだよね。それは、人が映画を気に入ってくれたということを意味するにすぎない。「ニモ」のために、僕はさんざん魚を見て研究したところで、すぐまたそれをやる気にもなれなかった。正直言って、しばらくは「ニモ」を見たくもなかったんだよ。製作中に、何度も見たから。だが、2011年に3D版が公開されることになって、久々に見ることになった。その時までに8年がたっていて、その間、僕はいろいろほかの作品を手がけたせいか、僕はとても新鮮な目で見ることができた。そして、ドリーのキャラクターについて、「彼女は解決していない」と感じたんだ。彼女というキャラクターの扉を、僕は閉めないままにしてしまっていると。

リンジー・コリンズ(以下LC):そう、あの時、あなたはそう言ったわね。そしてその後も、時々、それを口にした。そこから私たちは少しずつ「ドリー」の企画について話していったんだけど、秘密にしていたわ。絶対にやると決めるまでは口外しないのが、私たちの主義なの。

AS:時間がたちすぎているという不安はなかったよ。映画がヒットすると、みんな「すぐ続編を」「もう遅い」と騒ぐけれど、僕には「トイストーリー」の経験もある。「ニモ」のDVDは多くの家庭にあるし、「ドリー」も「トイストーリー」のようになれる可能性はあると思った。時間がたったからこそふさわしい時だというケースも、あると思うんだ。ワインをじっくりと寝かせるみたいにね。

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1作目は大ヒットしただけでなく、4部門でオスカーにノミネートされ、長編アニメ部門で受賞しました。そんな傑作の続編とあれば、当然期待も高まりますが、プレッシャーは感じましたか?

LC:プレッシャーは、いつも感じるわ。最低でも4年間はそれにどっぷり浸かって、ストーリーやキャラクターが頭から離れない状態になるんだもの。それはどの映画の時も変わらない。

AS:僕は「トイストーリー」で続編を経験しているから、自分が今やろうとしていることがどれほど困難なことか、十分認識していたよ。一度やっているからといって楽にはならない。どれくらい大変なのかを知っているだけに、もっときつかったりする。ふたりめの子供を生むみたいな感じ(笑)。

今作のテーマは、何でしょうか?

AS:僕はいつも、これはドリーがありのままの自分を受け入れる物語だと思ってきた。自分が何を伝えたいのか、はっきりとわかるまでには時間がかかったが、最後になって、これは、本当の自分を受け入れてあげなければ本当に幸せにはなれない、という話だと思ったんだ。

LC:ドリーは他人に優しいのに、いつも「ごめんなさい、私は物忘れが激しくて」と言うわよね。自分自身に対しては、他人にあげるような優しさをあげないの。どうすれば彼女がそうできるようになるのか、私たちは考えたのよ。そして、それを可能にできるのは彼女自身しかいないのだと思った。

AS:でも、そこに行き着くまでにストーリーは変わり続けている。僕は、最後の最後まで変更を加える。最高のストーリーを求めて。

LC:アンドリューはいつも、映画の10%か15%の要素を、最後の4、5ヶ月になって見つけるのよ。それより早く見つけることはないわね。そこまで出来上がってから、「なるほど、見えてきた。これだ。こうするぞ」と言うの。

AS:そして、たくさんの変更をする。スタッフは、その心構えができていないといけない。

LC:スタッフにとっては、とても大変なことなのよ。最後の最後になって、すごい変更作業があるんだもの。そんな彼らに対して、アンドリューは、「僕には正しいものが見えている。僕を信じて、やってくれ」と言うしかないの。

声の演技をする俳優たちも、全体像が見えないまま、いくつかのシーンをまとめ、何度かにわたって録音するのですよね。ドリーの声を務めるエレン・デジェネレスの場合は、今回、何回くらい録音セッションをやったのでしょうか?

LC:17回か18回かしら。1ヶ月に1回か、2ヶ月に1回くらい、3年間やったのよ。エレンはものすごく忙しい人だから、そんなに時間を費やしてくれたことに、本当に感謝するわ。普段なら、その声を誰がやるのかわからないまま映像のほうを先に進めて、しばらくしてから録音を始めたりするのだけれど、今回は、ドリーの声をやるのはエレンだとわかっていたので、まだそのシーンがはっきり決まっていない時にも、彼女にやってもらって、テストしたりしたのよね。彼女みたいに最高のコメディアンがやってもピンとこないのならば、そのシーン自体が間違っているわけなので、書き換える。そうやってテストし、これだと決めたものを、アニメーターに渡すの。録音する時は、ビデオ映像も録画していて、アニメーターたちは俳優のしぐさや表情を参考にしてアニメを作っていく。次にその俳優と録音セッションをやる時、前回録音したものがどんなアニメ映像になったかを見せると、すごく喜んでくれるわよ。「まるで私みたい」ってね。

今回初登場するタコのハンクは、どのようにして思いついたのですか?

AS:あれは、かなり早い時期に思いついたよ。脚本の初稿にも出てきている。ドリーには、「ニモ」の時のマーリンみたいな存在が必要なんだ。悲観的な人を横に出してくることで、彼女の特性が光る。それに、現実的な意味で、彼女が動き回るためには、助けてくれる人が必要なんだよね。あのタコは、その両方の目的を満たしてくれた。

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今回もトーマス・ニューマンがすばらしい音楽を作曲しています。

AS:音楽は、僕にとって、ものすごく重要な部分だった。最後に考えることではなかった。「ドリー」を作ると決めた時にわかっていたのは、ドリーの声はエレンじゃないとだめ、音楽はトーマスじゃないとだめ、ということだったんだ。「ニモ」で、トーマスの音楽は、キャラクターのひとりと言っていいくらい、重要な役割を果たしている。僕らはアーティストとして共感し合える関係だが、僕らが言葉で表現する方法は、実のところ、かなり違うんだ。だから、お互いに理解し合えるまで、徹底的に自分の思うところを説明することになる。彼は、とても細かいニュアンスまでわからないと、曲を書けないんだよ。

LC:アンドリューが「ここは強い感じで」と言うと、トーマスは、「強い、と言うけど、それは強制的な感じ?それとも軍隊的な感じ?」とか言うのよね。アンドリューがトーマスとミーティングしてきた後、アンドリューは、スタッフに、違った語り方をするわ。感情面や、そのシーンの雰囲気について、もっと細かく説明するのよ。

AS:トーマスに聞かれるから、僕は、それまで自分が考えていなかったような細かいことを自分で考え、口にすることになる。口にすると、もっと自分でもわかるものなんだよ。教師をやってみると、生徒に教えるから自分ももっと良くわかるようになるのと同じ。

エレンは、自分のトーク番組で長い間「ニモ」の続編をジョークのネタにしてきました。作られることがないからジョークにしてきたわけですが、いざ実現するとなったら、自分が主役だったとあって、さらに驚いたようです。そんな彼女の、最初に完成作を見た時の反応は、どんなものだったのでしょうか?

LC:彼女は最初から最後まで笑顔で、時に泣いていたわ。私たちはキャストを集めて、小さな試写室で一緒に見たの。誰かがワインを持ってきてくれてね。すごく素敵な体験だった。キャストは、それがどんな形に落ち着くのかをわからないまま、私たちを信用して、仕事をしてくれるのよ。だから、完成作をみんなが気に入ってくれた時、私たちは、最高に幸せな気持ちになるの。

「ファインディング・ドリー」の日本公開は16日(土)。

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L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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