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繰り返す肺炎、「入れ歯」が原因かも?

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

高齢者では肺炎を繰り返す方がしばしばおられます。年齢のせいだ、飲み込む力が低下している、など色々な見解がありますが、入れ歯の存在は意外に軽視されているように思われます。近年、入れ歯と肺炎の関連を示すデータがそろってきました。

入れ歯の着用率はどのくらい?

厚生労働省や日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という「8020運動」が始まって久しいです。

この「8020」が達成できているのは全体の約半数で、後期高齢者の残存歯の平均本数は15.7本です。ほとんどの人が何らかの補てつ物を着用しているとされています(1)(図1)。

図1.何らかの補てつ物を着用している人の割合(参考資料1をもとに筆者作成、イラストはいらすとやより使用)
図1.何らかの補てつ物を着用している人の割合(参考資料1をもとに筆者作成、イラストはいらすとやより使用)

入れ歯には、微生物が定着しやすいです。実は入れ歯の存在によって、肺炎を起こしやすくなっているのではないかというデータがそろってきました。

入れ歯で微生物が増殖

口の中をはじめ、身体には多くの細菌が棲んでいます。そのため、入れ歯は微生物が増殖しやすい「」のような役割になっています。

肺の「上流」にあたる口の中にうじゃうじゃと微生物が棲んでいる状態ですと、当然肺炎を起こしやすくなります。

実際にアメリカにおける10万人あたりの年間肺炎患者数を観察したところ、入れ歯を着用している人では、着用しない人と比べて9.33倍肺炎のリスクが高いことが示されています(2)。

また、肺炎で入院中の高齢者の入れ歯の細菌量を、介護施設入所者のそれと比較した研究があります(3)。これによると、肺炎の患者さんでは入れ歯に20倍の量の細菌が定着していることが示されました(図2)。不衛生な入れ歯が多い、ということです。

図2.入れ歯における細菌量(参考資料3より引用)
図2.入れ歯における細菌量(参考資料3より引用)

飲み込んでしまえば微生物は便から排泄されますが、高齢者の場合、入れ歯にたくさんの菌が棲んでいる状態が続くと、誤えんなどの影響もあって肺炎のリスクが高くなるというわけです。

肺炎を予防するための入れ歯に関する注意点

入れ歯は毎日洗浄する必要があります。入れ歯を毎日洗浄していないと、高齢者の肺炎のリスクが1.3倍高いというデータも存在します(4)。

入れ歯を着用している人は、うまく食べ物を咀嚼(そしゃく)することができない高齢者が多いため、誤えん性肺炎などのリスクが高いです。しかし、洗浄して適切に着用すれば、誤えんを減らすことができるので、むしろ「正しく使用した入れ歯は肺炎を減らす」という見解もあります(5)。

「今日は水洗いでいいか」と手を抜き始めると、だんだん入れ歯のお手入れの細やかさが失われ、いつの間にやら汚い入れ歯を毎日着用しているという事態に陥ります。

また、夜は入れ歯を必ず外して寝るようにしましょう。睡眠中は唾液の分泌が減少し、細菌が増殖しやすくなるため、入れ歯をつけたまま寝ると肺炎のリスクが2倍以上高くなることが分かっています(6)。

(参考)

(1)厚生労働省. 歯科疾患実態調査(2016年). (URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17.html

(2) Alzamil H, et al. JDR Clin Trans Res. 2021;8(1):23800844211049406.

(3) Twigg JA, et al. J Med Microbiol. 2023;72(6). doi:10.1099/jmm.0.001702.

(4) Kusama T, et al. Sci Rep. 2019;9(1):13734.

(5) Takeuchi K, et al. Int J Environ Res Public Health. 2019;16(4):554.

(6) Iinuma T, et al. J Dent Res. 2015;94(3 Suppl):28S-36S.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本感染症学会感染症専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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