ベールに包まれたシンガー・Uru アーティストも惚れる透明感のある声、その向こう側にあるもの
YouTubeでの圧巻のカバーが話題を集め、デビュー
そのシンガーの歌をYouTubeで初めて聴いたのは、確か2014年か2015年だったと思う。彼女はJ-POP、ロックの名曲をカバーしていた。いつもモノクロの画面の右端で、ヘッドフォンをして歌う彼女の顔はマイクで隠れ、右半分しか観る事ができず、世界観を統一した神秘性を纏ったシンガーだった。そんな事より、とにかくその歌である。歌だけで勝負というか余計な情報は与えず、その声だけに聴き手が集中できるよう、練りに練った戦略だったのかもしれない。でもそれが奏功した。最初に聴いたのは確か徳永英明「レイニー・ブルー」とスピッツ「ロビンソン」だったはず――心がざわざわしてきて、感情が静かに揺さぶられた。
激しく揺さぶられたのではなく、でも静かなざわざわ感は、いつの間にか大きくなって、心の全部を感動という温かな感情で覆っていた。そしてその美しい余韻は、抜群の心地よさを与えてくれた――それがUruの歌、声との出会いだった。オリジナル曲へのリスペクトを忘れず、ピアノと自身のコーラスを重ねるというシンプルさで、その歌の良さを100%伝えつつも、でもしっかりと自分色に染める事ができる正真正銘のシンガーだ。そして、2016年6月14日、100曲目のカバー、スキマスイッチ「奏(かなで)」を配信したUruは、翌6月15日にメジャーデビューを果たした。YouTubeとSNSですでに大人気だった彼女。まさに大きな期待と注目の中、歌う場所を、メジャーというフィールドに変え、老若男女、あらゆる世代の人に歌を伝えるべく、歩き始めた。
曲の輪郭をハッキリと浮かび上がらせる、稀有な声
ネットで大人気だったといっても、まだまだ彼女の存在を知らないリスナーはたくさんいた。しかしその素顔、素性など、ネット上でもヴェールに包まれていた部分はメジャーデビュー後もそのままで、でもその歌声を一度でも聴いたリスナーは、確実に心を撃ち抜かれていった。その歌、声の良さが伝わるのに、時間はかからなかった。それは映画、テレビの作り手も同じだ。メジャーデビュー以来、彼女の作品はドラマや映画、CMのタイアップに数多く起用された。昨年10月にリリースした3rdシングル「フリージア」は、人気アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第2期エンディングテーマに起用され、自身が作詞を手がけ、その人間の叙情的な部分を映し出した言葉とメロディとが絶賛され、アニメファンからも支持を得る事に成功した。彼女の、どこか影も内包したような透明感ある声の音色は、倍音が多く、それによって曲の輪郭がよりハッキリとして、登場人物の心情や、例えば商品が持つコンセプトなどを鮮やかに映し出し、聴き手に届けてくれる。だから映像との相性が抜群なのだろう。きっと、色々な人の心に宿る“想い”を、真っ直ぐに聴き手に届ける事ができる、そんな稀有な歌声の持ち主なのだ。
『コウノドリ』の主演・綾野剛は「Uruの唄には命が寄り添っている。『コウノドリ』を照らす光」と絶賛
そんな彼女の声が、さらにお茶の間に広がっていったのは、現在オンエア中の人気ドラマ『コウノドリ』(TBS系/12月22日最終回)の主題歌「奇蹟」の存在が大きい。この番組のプロデューサーはUruの起用理由を「なんといっても、美しい歌声です。彼女のあの歌声の美しさは、気高いまでの優しさを感じさせてくれ、『コウノドリ』で描かれる女性の、母親の、生まれてくる小さな命を、優しく包み込んでくれるぬくもりある愛情や思いに寄り添ってくれると思いました。そんな言葉に出来ない感情を描いていくこのドラマでは、彼女のあの歌声が、それを視聴者に伝えていく力になってくれると思い、主題歌をお願いすることにしました」と語っている。主演の綾野剛も「Uruの唄には命が寄り添っている。呼吸するように、産声をあげ、心を宿します。「奇蹟」を通して、喜びと不安と希望と現実を、力強い唄声で、ご家族に寄り添い届けてくださいました。ドラマ『コウノドリ』を照らす光です」と、彼女の声を絶賛。壮大だが優しく繊細なバラードを豊かな表現力で歌い、制作サイド、出演者が届けたい想い、視聴者が感じた想いを包み込んでくれる。そしてずっと寄り添ってくれているような感覚を与えてくれ、ドラマの世界観と主題歌とがまさに「奇蹟」のようにマッチングしている。
「奇蹟」はUruが歌詞を書き下ろしたものだが、デビュー以来自身で詞も曲も手掛けたものから、提供してもらったもの、テーマに沿って制作したもの、ビートが強いポップからミディアムテンポのものから様々なタイプのバラードまで、あらゆる音楽と対峙してきた。彼女はデビュー後ソングライターとして、シンガーとして、ものすごいスピードで進化を続けている。それを証明してくれるのが12月20日に発売される1stアルバム『モノクローム』だ。シングルの他に、ライヴで披露されCD化が待たれていた作品、未発表の新曲など全14曲が収録されていて、濃密にして爽やか、鮮やかな色を放つ一枚になっている。
back number清水依与吏、UVERworld・TAKUYA∞も驚くその歌、声、表現力
『コウノドリ』を観、「奇蹟」を聴いてUruのファンになった人は、家族への感謝の気持ちを綴った「娘より」や、子供の成長を描いた「すなお」は、その世界観にスッと入る事ができるはずだ。またこのアルバムの初回盤Aには、デビューライヴ音源とMUSIC VIDEOが、さらにタイプBにはYouTubeカバーからのセレクション+新曲カバーが収録されていて、Uruが作り出す一曲一曲の“歌の表情”を堪能する事ができる。カバー盤に収録されている「ハッピーエンド」について、back numberの清水依与吏は「ただ透き通ってるだけじゃなくて、言葉を伝える上で重要な「濁り」がちゃんとあって。Uruちゃんの声は、寒い寒い冬の朝に曇った窓ガラスみたいな感じ。瑞々しくて、触りたくて。これも確かに僕らが作った「ハッピーエンド」。でもこれは僕らの知らない、優しくて切なくて新しい「ハッピーエンド」」と絶賛。同じく「THE OVER」についてUVERworldのTAKUYA∞は、「Uruさんに「THE OVER」をカバーしてもらい、とても澄んだ歌声で新たな色をつけてもらいました。僕たちの楽曲を、女性アーティストの方にカバーしてもらったのは初めてです。優しくて儚い、「THE OVER」。ぜひ多くの方に聞いて頂きたいです」と、カリスマボーカリスト達からも大きな注目を集めている。テクニックだけではなく、声そのものが持つ質感、存在感と相まって“歌の表情”を作り出し、だからこのアルバム全体が先述したように、鮮やかな色を放つ一枚になっているのだ。
ここまで透明感を感じさせてくれる声も珍しいが、でもその奥に湛えた哀しみや影、鋭敏な何かを微かに、でもしっかりと感じさせてくれながら、汚れのない透明感を作り出しているのが、Uruの声だ。だから感情が静かに揺さぶられるし、アルバム『モノクローム』が、どこまでもドラマティックに仕上がっているのだ。