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新型コロナストレスで人ごとでない…DVを防ぐ心身の不調チェックポイント

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
テレビを見る家族(画像はイメージです)(写真:アフロ)

DV(家庭内暴力)というと人ごとのように感じる方も多いと思います。でも「普段よりイライラするな」「ちょっとしたことでカチンとくるな」と思う方は注意してください。新型コロナウイルス対策で在宅勤務や外出自粛が続き、ストレスがたまった夫がDVを振るうようになった―というケースが出ているといいます。事態の悪化を予測するNPO法人が3月30日、DV被害の相談体制の確保などの要望書を国に提出しました。欧米ではすでにDVが深刻な問題になっています。

いま私が懸念しているのは、これまで問題がないように見えていた家庭で、新型コロナによる経済不安や勤務体制の変化により抑え込んできた不満が一気に噴出することです。「DV予備軍」とでもいえるでしょうか。こうした状態のサインに気づき行動修正することがDVを予防するために不可欠です。DVは身体的な暴力だけではなく言葉による暴力や無視なども含まれます。

これまでの潜在的問題が表面化

40代男性のAさんは、人事評価が下がり、給料が段階的に下がることが決まっていたところに新型コロナ問題が発生し、今後の雇用不安を抱えています。在宅勤務が始まり妻と顔を合わせる時間が長くなると、ちょっとした妻の態度が自分を馬鹿にしているように見えていら立ち、腹立ちまぎれに大声で怒鳴ったことで妻と会話がなくなり、家の雰囲気が悪化しているそうです。妻はこれまで給料の減額に不満を言ったことはありません。しかしAさんは「妻に悪い」という思いと「自分はふがいない」という思いを抱えて過ごしてきました。何となくうやむやにしてきた問題が、在宅勤務と雇用不安で一気に浮上し、険悪な雰囲気を生んだといえます。こうした雰囲気が家で過ごす子どもたちに影響しないかと心配です。

まだ暴力を振るうには至らない、でも家で始終イライラして家族にきつくあたってしまうという方は「DV予備軍」だと自覚したほうが良いでしょう。新型コロナ感染拡大は

  • 感染の不安
  • 経済的な不安・雇用不安
  • 将来への不安

という要素を持つストレス要因です。

ドアをバタン、はサインの一つ

こうした不安を抱え込んだまま過ごすことで、DVにつながりかねない心の不調を起こすことがあるのですが、大事なことはその最初のサインを見逃さないことです。心の不調のサインをいくつか挙げてみたいと思います。

こうした心の不調のサインに気づいたら、次のような身体の不調のサインがないかチェックしてください。

原案:海原純子、画像制作:Yahoo! JAPAN
原案:海原純子、画像制作:Yahoo! JAPAN

こうした心身の不調のサインが連続して見られるときは受診レベルですが、一時的でもこうした傾向が多いなというときは「ストレス予備軍」だと自覚して対策を立てていただきたいと思います。特にカッとしたり物にあたったりする方はうっぷんがたまっているサインですから、うっぷんに対処しないとDVなどに進む可能性があります。周囲に相談できる人を見つけ一人で感情をため込まないことです。

原案:海原純子、画像制作:Yahoo! JAPAN
原案:海原純子、画像制作:Yahoo! JAPAN

大きなストレス要因がある場合、それを乗り越えるためには次の3点が大きな柱になります。

  • 自分の感情をためこまないようにする
  • サポートシステム(仲間や支援してくれる人・団体)をもつ
  • 考え方やものの見方を柔軟に変える

うっぷんをためない

ふだん感情をあまり表現しない方は「表現する場」を作ることが大事です。うっぷんは不安や怒りなどを一人で抱え込むことでたまります。それを表現しないでいると、はけ口がなくなります。ためこまれたうっぷんはちょっとしたことがあると爆発します。これが暴力や暴言、物にあたるということに変わるのです。特に今回のようにストレスの素がウイルスという目に見えない場合、怒りをぶつける対象や適当な場がないことで身近な人にあたったりします。ヘイトスピーチなども同様にやり場のないうっぷんを特定の対象に向けてぶつけているといえるでしょう。

ここで身体は感情を表現する場でもあることを思い出してください。外出自粛で身体を動かせないことが、感情(うっぷん)をためてしまう要因になります。人混みではない近所を一人で決まった時間に定期的にウォーキングする、食料の買い出しに行く、など積極的に身体を動かす機会を作ることはうっぷん発散に役立ちます。インターネットを利用して、ストレッチなど自分に合ったものを見つけるといいと思います。音楽に合わせて声を出すことも有効です。私もYouTubeでジャズのスキャットのトレーニング動画を見つけて声を出したりしています。全身を動かしたり声を出したりして身体を使うことは心のレスキューだということを認識してください。そのうえで家庭内で抑え込んできた問題がある方は、これを気づきの機会とし、問題点を整理して家族と話し合うことがDV防止に役立つと思います。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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