つみたてNISA初となる「米国ETF」が認可 黒船来航になるか
長期の積み立て投資を支援する非課税制度「つみたてNISA」の対象商品として、4月27日に米国のETFが加わりました。
金融庁によれば、つみたてNISAとしては初めての事例とのこと。投資信託とは何が違うのか、また何が狙いなのかを探りました。
コストはわずか年0.03%
つみたてNISAでは金融庁が認めた金融商品を買うことができますが、制度上は「投資信託」と「ETF(上場株式投資信託)」に対応しています。
しかしETFは大和証券が取り扱う7本のみであり、多くの証券会社では投資信託のみを取り扱っています。実質的には「つみたてNISA=投資信託」と理解している人が多いのではないでしょうか。
そのつみたてNISA対象商品のリストに、ちょっとした異変が起きました。4月27日に「iシェアーズ・コア S&P 500 ETF」が追加されたのです。
これはニューヨーク証券取引所傘下のNYSE Arcaに上場する米国のETF(ティッカーシンボル:IVV)で、資産総額は約42兆円と米国第2位の規模を誇っています。
金融庁に経緯を聞いてみたところ、「運用会社であるブラックロックから届け出があり、つみたてNISAの基準を満たしていたので認可した」(金融庁)とのこと。外国籍のETFであることや、外貨建てであることは、特に問題ではないそうです。
気になるのは投資信託との違いです。ブラックロックの投資信託としては「iシェアーズ 米国株式(S&P500)インデックス・ファンド」があり、2022年8月にはつみたてNISAにも対応しています。
注目したいのはコストの違いです。特に新しいNISA制度では非課税保有期間が無期限になるため、長年にわたって持ち続けることを考えればコストは低いに越したことはありません。
これを見据えたコスト引き下げ競争では、「SBI・Vシリーズ」「PayPay投信」「Tracers」などが話題になっており、それを定番の「eMAXIS Slim」が迎え撃つ構図になっています。
これらの投資信託の実質コストは年0.1〜0.2%程度と十分に低くなっていますが、グローバルで鍛え上げられたIVVの経費率は年「0.03%」と、さらに低いのが特徴です。
新NISAの枠である1800万円をフルに使った場合、単純にかけ算すると、年0.15%なら毎年2万7000円のコストがかかるところが、年0.03%なら5400円で済む計算になります。
つみたてNISA 「ETF」はなぜ少ない?
これだけを見ると、新しいNISAの開始を前にして、いよいよ黒船が来航したかのような印象を受けるところですが、いくつか問題もあります。
まず、現時点ではこのETFをつみたてNISAで取り扱う証券会社がなく、誰も買うことができません。
楽天証券とSBI証券に確認したところ、つみたてNISAでは投資信託のみを取り扱っており、「ETFを取り扱う予定はない」(両社広報)としています。
どうやって売るつもりなのかブラックロックにも聞いてみましたが、「金融庁に届け出をして受理された段階であり、現時点で公開できる情報はない」(ブラックロック・ジャパン広報)との回答でした。
また、つみたてNISAとETFはそもそも相性が悪いとの指摘もあります。投資信託なら毎月100円から「金額」を指定して買うことができますが、ETFは売買単位(口数)で指定するため毎月金額が変わり、積み立て投資に向いていないというものです。
金融庁としては、投資信託とETFのどちらかに誘導するといった意図はないものの、こうした特徴からETFの活用が進んでいない現状は認識しているようです。
証券会社が新たに対応する可能性はあるのでしょうか。SBI証券では一定のニーズがあることは認めつつも、「つみたてNISAでETFに対応するには大きなシステム開発が必要になる」(広報)とのこと。
つみたてNISAの現状については、「投資信託は長期・積立・分散投資に適した商品であり、政策目的を果たすためのラインナップとしては、現状でも十分にカバーされていると考える」(広報)としています。
低コスト競争に期待
今回はあくまで「つみたてNISA」の話であり、一般NISAでは国内、海外のETFを含め、問題なく投資することができます。
また、2024年からの新しいNISAではつみたてNISAと併用できる成長投資枠が1200万円分あるため、これを使えば株式やETFにも非課税で投資できる見込みです。
その場合でも、米国ETFはドル建てであり、投信積立でポイント還元のあるクレジットカード決済も使えないなど、ややハードルは高くなります。
さらに厳密にコストを比べるなら、複利効果を得るために分配金を再投資する手間や、外国税額控除(一般NISAでは非対応)など、いろいろと考えることは増えます。
そのため、現時点での仕組みを前提にするならば、面倒なことを丸投げできる投資信託のほうが多くの人に向いている印象があります。
一方で、SBIアセットマネジメントがブラックロックのETFを活用した「SBI・iシリーズ」の投資信託を拡充。ブラックロック・ジャパンはつみたてNISAについて投資家向けの意識調査を実施するなど、関心を高めていることもうかがえます。
そういう意味では、新NISAに向けてまだまだ面白いことが起きるのではないかと予感させるのが今回の動きといえそうです。