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ハリルホジッチ監督はどんな基準で日本代表選手を選ぶのか?プロのスカウティングとは。

小宮良之スポーツライター・小説家
Jリーグの視察に訪れたハリルホジッチ。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

プロのスカウティングとは?

<ハリルホジッチ監督が大あくびしていた>

Jリーグ初視察となったFC東京対横浜F・マリノスのミックスゾーンでは、そんな噂が話題になった。

ハリルホジッチが何を感じたのか?

それは推し量るしかないが、あくびをしようと憮然としていようと、世界を戦ってきたレベルの指導者は、慧眼を持っている。それは高度なフィルターのようなものだろう。素人が何百回見ようとも、決して見極められないプレーの本質が見える。

レアル・ソシエダで20年近く強化部長、育成部長、ヘッドコーチ、戦略スカウト担当などを歴任したミケル・エチャリに筆者はスカウティングを師事しているが、彼もたった一つのプレーで選手の質にほぼ断定的な評価を下した。

例えば2013年のJリーグ、柏レイソル対ベガルタ仙台という試合。FWの工藤壮人は前半にほとんどボールに触ることがなかった。しかしワンプレーで彼は工藤の評価を固めた。以下が当時のスカウティングリポートである。

「前半はチーム状況からほとんどボールを触れていなかったが、一度だけ見せたクロスをあげたシーンに目を瞠る。その直前のDesmarque(マークを外す動き)とキックの精度にただならぬ雰囲気が出ていた。ボールをコントロールする方向や身のこなし、シュートの流れまで止まることがなく滑らかで、大いなる才能を感じる」

この選手は高いレベルでも実力を出せるか、そのイマジネーションがプロのスカウティングの基本にある。50cm範囲のボールの置き方、わずかな体の角度、それによるスピードやインテンシティや精度の違いをきっかけにディテールへと入っていく。走行距離や奪取回数など数字で打ち出せることなど、一流のスカウティングにおいてはほとんど意味がない。

ジエゴ・コスタが発掘されたとき

近著「王者への挑戦状」でも書き記しているが、プレミアリーグで得点王を争い、今や世界トップレベルのFWになったジエゴ・コスタも、名人芸的スカウティングによって発掘されている。

17歳の時に参加したサンパウロで行われたユースの大会で、ジエゴ・コスタは運命的な出会いをした。コリンチャンスのホームスタジアム、トーナメントはまだ一回戦でメインキャストが揃っていなかったが、今や世界的な代理人になったジョルジュ・メンデスがスタンドに座っていたのである。ただジエゴ・コスタはこの試合、画期的な記録を残したわけではない。むしろ相手選手とやり合い、肘打ちをして退場を宣告され、国内リーグ4ヶ月出場停止処分を受けている。

ところが、他の選手目当てできたメンデスは原石を掘り当てた気分だったという。

「欧州だ。まずはポルトガルでプレーしないか?」

即座に誘いの言葉をかけている。それは腕利きエージェント、メンデスらしい瞬発力だった。目の前の選手の圧力に屈せずにボールを運べる力強さとそのシュート精度に惚れ込んだという。

ハリルホジッチは、どんな基準で日本代表選手を選出するのだろうか?

走れる選手。

そんな見え透いた基準であるはずはない。

これは一興である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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