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自分の書いた文章が試験問題で使われたらどうなるのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

センター試験が終わりました。twitterのTLで「自分の文章が試験問題で使われた」と言っている人がいたのですが、著作権はどうなっているのでしょうか?この機会にまとめてみました。

著作権法の関連規定は36条です。

(試験問題としての複製等)

第三十六条 公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

2 営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

要するに試験問題として文章を使う(複製する)場合は権利者の許可はいりません。そもそも、事前に著作権者の許諾が必要ということになってしまうと、試験問題の内容が世の中にばれることになってまずいので許諾不要との規定があるのは当然ともいえます。営利目的の試験の場合(たとえば、入社試験や予備校の模擬試験)には、補償金の支払いが必要ですが、そうでない場合は無料で複製できます。

なお、事後報告については、法律上は義務ではありませんが、慣習上行なわれているようです(日本著作権教育研究会による参考記事)。

そういえば、大部前になりますが、私のブログ記事を翻訳者の検定試験の問題として使用してよいかみたいな問い合わせがあったことがありました。別に断る理由もなくOKしましたが、大学入試問題とは違い、事前に許諾を取ってもそんなに影響力はないという判断なんでしょう。特にお金はもらえませんでした。「試験の問題として(無料で)使用してよいか」という話だったのかもしれません。

さて、問題となるのはいわゆる「過去問集」で、これは入学試験ではないので、別途、権利者の許諾を得る必要があります。これは、前記の日本著作権教育研究会が事務手続を代行してくれているようです(参考記事)。なお、この場合、著作権の制限規定は関係ないので、著作権者がNoと言えば複製できないですし、法外な利用料を請求される可能性もあります。通常は、試験問題に使われたからと言ってビジネスに悪影響があるわけではない(むしろ学生に自分の作品を知ってもらうきっかけになる)ので、権利者としては特に問題となるとは思えないので快諾すべきと思うのですが、世の中にはそうでない人もいるようです。

ということで、タイトルの「自分の書いた文章が試験問題で使われたらどうなるのか?」に対する答えは、1) 勝手に使われるのは拒否できない、2) 試験問題についてはお金はもらえない、3) 使用した旨の事後報告が大学から来る可能性が高い、4) 後で過去問集掲載のために出版社から許諾のお願いがきて多少の著作権料が得られる(法律的には拒絶することもできるが、受験生たちのためにも快諾することをお勧め)ということになります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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