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「わたし、定時で帰ります。」でも模索…キャリア女性の結婚・子育ては闘いなのか?

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
リモートワークは助かるが、子どもを見ながら仕事できるかという問題も(写真:アフロ)

手足口病など、夏風邪が流行する季節になりました。仕事と看病で苦心する保護者は多いでしょう。様々な事件が起きて緊張が続き、社会全体にも息苦しさがあります。今回は、大反響ドラマ「わたし、定時で帰ります。」中でも模索され、筆者も会社勤め時代に直面した「キャリア女性の結婚や出産、子育ては闘いなのか」というテーマを考えます。

子育ては闘い?(子育て支援NPOサイトに連載した「アラフォー初めてママのときどきドキドキジャーナル」より)

●子どもの病気で有給休暇がなくなる

子育て中の皆さんには「あたりまえ」なことかもしれませんが、2歳の子が病気になって保育園から呼ばれたらこんな状況になります。まず上司に半日看護休のお願い。救急外来、近所のクリニック、保育園と電話をかけまくり。お迎えに行って抱っこで連れて帰り、ゼリーやジュースなど口当たりのいいものを買い込みます。娘は体調のせいで不快なのでしょうか、居間でおもちゃバスケットをひっくり返し、洗面所でいたずら。ママは片付けながら翌日の病児保育を予約し、クリニックと薬局に連れて行き、それでも具合が悪く夜間小児科に行きました。

夜に熱が上がったので、体をふいて着替えさせ、座薬を入れると眠りました。しばらくすると苦しそうにママの体にのってきます。枕元に用意していた麦茶を飲ませたり、体温を測ったり。ママも神経を張りつめて、ほとんど眠れません。朝、娘に何か食べさせようと並べても「いらない」。抱っこしていたら、うとうとし始めたので夫に任せて出かけようとすると、大泣きして追いかけてきます。「ママがいいー」「ママと、かいしゃいくー」とサンダルをはき始めました。

そうだよね、ママがいいよね。具合が悪いんだもの。甘えたいよね。だけどママ、会社に行かないと出勤日数が足りなくなるの。本当に、熱があって大泣きしている2歳の娘をおいて行かなきゃいけないのかな。何のために?

1歳のころはもっと病気が多くて、いつもこう考えていたけれど、日々を生きるのに精いっぱいなので答えは先送り。小さい子の病気って、日数がかかるんです。娘と密着しているママもうつります。母娘で手足口病や胃腸炎になり、救急外来に駆け込んだことも。看護休暇や有給休暇の残りを数えるのが習慣になりました。

●アラフォー初めて親には重労働

きょうだいや双子ちゃんのママもいるし、もっとがんばっているおうちもありますが、仕事ばっかりしてきたアラフォー初めてママには重労働…。「だれかに任せてママは完全にお休み」という日は、産後から1日もありません。でもかわいいので、愛情が深ければ深いほど、ママは心身を削ってしまうのです。サポートしてくれる身内がいればいいけれど、自分が高年齢出産なら祖父母も高齢。遠方で体も弱いとなると、援助はあきらめざるを得ません。

子育てって、闘い。そう感じる親は、筆者だけでないと思います。だけど、「子育てと仕事の両立が大変で」なんてぐちると、「子どもに恵まれて、仕事もあるのに、ぜいたく」という意見もありますよね。働く女性にとって、子育てをする以前に、結婚して、妊娠してというところから、闘いのようになってしまうのです。

筆者も、そうでした。仕事は不規則で転勤・異動が多く、初めての部署でゼロからスタートの繰り返し。目標とする仕事のため、もうひとふんばりすると35歳を過ぎ…。夫も転勤が多く、結婚して同居できたら37歳。すぐに赤ちゃんができると思いこんでいましたが、高年齢になると妊娠率は下がるし、流産は増えます。筆者も流産を経験し、やっと妊娠しました。その後、夫が海外に単身赴任してしまったのですが…。

●独身の人にも負担感がある

こつこつと仕事をしてお店を持ったり、専門職として活躍したりしている友人からも、「やりがいはあるけれど、気づくとアラフォーになって、結婚したくて」という話を聞きます。結婚する相手がいたとしても、余裕のない職場にいれば、妊娠するのも気をつかいます。だって妊婦やママが増えたら、仕事が回らないと思う人もいる。

本当なら同僚の妊娠を喜びたいけど、けんせいしあうような雰囲気になることも。自分が高年齢だったらもっと切実。タイミングをはかったり、不妊治療に通ったりする人も増えました。妊娠しても流産しやすい初期には言えないので、安定期に入って発表するまで何かあったらどうしようとはらはらします。

2人目のタイミングもそう。産休・育休を取ったり、子どもが病気をしてしょっちゅう会社を休んだり、1人でも大変。2人目がほしい、できた、と言ったら「えーっ?」という反応をする同僚もいるかもしれません。筆者も独身のころは、仕事で成果を出すのが一番という価値観でした。でも気持ちは複雑で、子育て中の同僚のかわりに夜勤や休日出勤をしたときは、「こうやって自分の仕事が増えると、結婚したくてもできない」と思ったことが。単純に「子育て中の人をみんなで支えよう!」とは言えない立場もあります。

●うかがいあいでなく多様性尊重を

こういう現実を見るたびに、「少子化になるよね」と実感します。結婚して、授かって、産んで、育てて、仕事もしてという人は恵まれている「少数派」。子どもがいる人もいない人も、それぞれの立場の人がゆとりをなくしてしまっています。「家庭がある人はうらやましい」「そんなこと言ったって、子どもの世話は大変なんだから」「仕事があっていいね」。なんとなく、顔色をうかがいあうような空気があるのではないでしょうか。

本当ならどれがいい、悪いということはなく、「子どもがほしい、なかなかできない」「子育て中」「1人が好き」「子どもとの時間を大事にしたくて会社をやめた」などいろいろな生き方があるのが自然です。どんな生き方でも尊重しあえれば、もうちょっとずつゆとりが生まれると思います。全体の空気がゆるめば、子どもを産んで育てるという流れも、つかみやすくなるのかなと期待してしまうのです。

このコラムを書いた後、娘は4歳ごろまで病気が多かったです。看病のため筆者の遅刻・早退が増え、職場に居づらくなって20年勤めた会社を退職しました。こうした時、キャリアを削って時短勤務や退職を選ぶのは、母親のほうが多いのが現実です。

最近も、社会の空気が張り詰め、様々な事件が起きています。結婚や子育てをする以前に、生きにくさを訴える人は少なくありません。筆者は会社から独立後、ハンディや働きづらさのある人をどうやって支援するか取材・研究し、自分自身も模索しながら子どもと向き合っています。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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