Yahoo!ニュース

グループCカーマニア必見のイベントが11月、鈴鹿で開催。近藤真彦が優勝した伝説のポルシェも!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ロスマンズ・ポルシェ962 【写真:MOBILITYLAND】

8月27日(土)28日(日)に鈴鹿サーキットで開催された「SUPER GT」第6戦「インターナショナル鈴鹿1000kmレース」に懐かしいレーシングスポーツカー「トヨタTS010」が登場した。土曜日の前夜祭で片山右京によるデモンストレーション走行が予定されていたが、残念ながらこの日はスタート直前に原因不明のトラブルに見舞われ、懐かしいV型10気筒の甲高いエキゾーストサウンドをコース上で聞くことはできなかったが、同マシンは世代を超えてファンの目を惹きつける存在感があった。

トヨタTS010 (1992年)鈴鹿1000kmレースでの展示
トヨタTS010 (1992年)鈴鹿1000kmレースでの展示

ルマンや鈴鹿を彩ったグループCカーが集結

「鈴鹿1000kmレース」を始めとする耐久レースをかつて戦っていたクルマといえば、FIAによって定められた競技車両で「グループC」というカテゴリーに属したレーシングカー、通称「グループCカー」だ。伝統の「ルマン24時間レース」などでもお馴染みのマシンに「おおおっ」と反応するのは40代以上の男性が大半を占めるだろう。

そんな「おっさんホイホイ」なイベント「SUZUKA Sound of Engine」が11月に鈴鹿サーキットで開催される。昨年は5月に開催された同イベントだが、ヨーロッパで盛んなクラシックイベントが落ち着き、ヨーロッパで動態保存されている貴重なマシンが鈴鹿に来やすい秋の開催となった。2回目となる「SUZUKA Sound of Engine」の目玉は大集結する豪華な「グループCカー」の数々。80年代から90年代の前半、4輪モータースポーツの世界を彩ったモンスターマシンの走行は想像するだけでワクワクする。

1991年、JSPC鈴鹿1000kmレース【写真:MOBILITYLAND】
1991年、JSPC鈴鹿1000kmレース【写真:MOBILITYLAND】

「F1」や2輪の「WGP」など、世界最高峰のトップカテゴリーの人気には劣るが今でも根強い人気を誇る「グループCカー」。40代以上の男性なら小学生の頃、プラモデルを作ったり、こういったレーシングカーがデザインされた筆箱や文房具を持っていた人も多いに違いない。

グループCカーが放つ強烈な魔力

1000馬力を超えるモンスターマシン、最先端技術を結集したプロトタイプカー。よくこんなフレーズが「グループCカー」を語る時に枕詞として用いられる。かつて凄まじいレーシングカーが自動車レースの舞台で世界の覇権を争った時代があった。

「グループCカー」とは1982年にFIA(国際自動車連盟)が定めた競技車両規定に基づいて作られたスポーツカーである。最近モータースポーツを見始めたファンに「グループC」のレギュレーションを分かりやすくザックリと説明すると、レースで使用できる燃料の総量と最低重量、燃料タンク容量が決まっているだけで、エンジン形式なども問わず、自由な発想でレーシングカーを作って耐久レースを戦ってくださいねという規定だった。

マツダ767B 【写真:MOBILITYLAND】
マツダ767B 【写真:MOBILITYLAND】

自分たちの独自の発想でレーシングカーを製作し、参戦できることから、多くの自動車メーカー、コンストラクターがそれぞれのイズムを盛り込んだマシンで参戦。燃料の総量が決められ、レースにおける「燃費」が重要となることから、「燃費」を争う「グループCカー」のレースは1970年代のオイルショック後ということで自動車メーカーがレース参戦の大義名分とするには絶好の材料だったのだ。

耐久王と呼ばれたドイツの「ポルシェ」が「ポルシェ956」を参戦させ圧倒的な強さを誇ると、イタリアの「ランチア」、イギリスの「ジャガー」、ドイツの「メルセデス・ベンツ」、そして日本からは「マツダ」「トヨタ」「ニッサン」が次々に参戦。「グループCカー」の代表的なレース「ルマン24時間レース」の優勝をかけて、何から何まで他を圧倒するための強大なエネルギーをマシン作りにつぎ込んだ。

自動車レースの代表といえば「F1」を思い浮かべる人が多いと思うが、同じ時代の「F1」は車体をチーム(コンストラクター=車体製造会社)が作り、エンジンを自動車メーカーが供給するというスタイル。それに対して「グループCカー」のレースは自動車メーカーが社内の総力を結集してマシンを作り上げる「ワークス体制」で参戦したレースである。自動車レースの歴史を振り返っても、これほど多くの成熟した自動車メーカーが躍起になって、社運をかけて戦った時代は他にない。

そんな舞台に登場した「グループCカー」はエンジン形式も車体のフォルムも何もかもが多種多様で、それぞれのメーカーの創意工夫の証が詰め込まれている「個性」の強いクルマばかりだ。全てをコンピューターで演算し、シミュレーションである程度の裏付けを付けて製作に入る今の時代のレーシングカーとは一線を画す。まさに、じゃじゃ馬、モンスターであったからこその魅力が詰まっているといえよう。

個性的なマシンが鈴鹿に集結

「グループCカー」にはそれぞれの個性があり、それぞれの魅力がある。そんんな中、11月の「SUZUKA Sound of Engine」には国内外から数多くのグループCカーが登場し、15台のマシンによるデモレース開催も予定している。

そんな中で注目はルマン24時間レース(91年)を制し、日本の「グループCカー」の代表的存在でもある「マツダ787B」。今回は日本の国内選手権「JSPC(全日本スポーツプロトタイプカー選手権)」を戦っていた仕様のマシンが鈴鹿を走行する。走るたびに世代を超えて感動を呼ぶ、甲高く、美しい音色のロータリーエンジンのサウンドは必聴だ。

マツダ787B(JSPC仕様) 【写真:MOBILITYLAND】
マツダ787B(JSPC仕様) 【写真:MOBILITYLAND】

また、海外からは「ポルシェ」の対抗馬として歴史を変えることになった「ジャガー」が登場。1987年の「シルクカット・ジャガーXJR8」が鈴鹿を走る。のちに1989年のルマン24時間を「シルクカット・ジャガーXJR9」で制することになる「ジャガー」。タバコブランドの「シルクカット」カラーには懐かしさを感じる人も多いことだろう。

タイサン・スターカード・ポルシェ962【写真:MOBILITYLAND】
タイサン・スターカード・ポルシェ962【写真:MOBILITYLAND】

そして、マニアックな1台としては「ポルシェ962」の中でも現在の「SUPER GT」の前身である「全日本GT選手権(JGTC)」を走り、優勝した「タイサン・スターカード・ポルシェ962」が鈴鹿を走る。「グループC」規定が変更となったために出場の舞台を失った「ポルシェ962」にナンバーを付けた公道仕様車が存在したことから、「GT(グランドツーリングカー)」のレースカーとして登録し、出場した型破りなGTマシンだ。当時は鈴鹿でJGTCは開催されていないため、鈴鹿を走るのは初めてではないだろうか。このマシンは、現在「SUPER GT」のチーム監督として活躍する近藤真彦がGTドライバーとして優勝した貴重なマシンとしても知られる。

時空を超えて鈴鹿に集められる歴代の「グループCカー」たち。強烈なダウンフォースを発生させるために考えられた知恵の詰まったフォルムを眺め、今も走行可能な状態にメンテナンスされる繊細なエンジンの轟音を聞くだけでも、特別な時間になることは間違いない。

【走行予定のグループCカー】

(2016年8月30日現在)

マーチ83G・シルビアターボC(1983年)

ポルシェ962LMロスマンズ(1986年)

シルクカット・ジャガーXJR8 (1987年)

ポルシェ962C・クレマー・レイトンハウス(1988年)

マツダ767B(1989年)

マツダ787B(1991年)

ニッサンR92CP(1992年)

ニッサンNP35(1992年)

タイサン・スターカード・ポルシェ962(1994年) など

開催日:2016年11月19日(土)/20日(日)

場所:鈴鹿サーキット国際レーシングコース

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事