JRCはJASRACの独占状態を打ち崩せるのか
「放送分野の楽曲使用料徴収、JRCが4月から参入へ」というニュースがありました。「JASRACに挑むJRC新規参入」とサブタイトルが付いています。この動きは、JASRACに、そして、日本の音楽産業にどのような影響があるのでしょうか?
そもそも、日本の音楽著作権管理団体はJASRACだけではありません(日本音楽著作権管理団体という名前から国の機関のような印象がありますがそれは過去の話です)。現在では、著作権管理団体は登録制になっており、今回話題になったJRC(ジャパンライツクリアランス)、イーライセンス、ダイキサウンド等が活動しています。ただし、現実的には、JASRACの”ほぼ独占"状態になっており、市場の約98%を独占しています。
ところで、YAMAHAが主導したボーカロイド楽曲専門の著作権管理団体もありましたが、残念ながら2015年3月末で事業終了のようです(サイト情報)。
さて、JASRACの事実上の独占状態が崩されることは当面はないでしょう。しかし、まったくの独占状態と競争がある状態は全然違います。競争があり、顧客に選択の自由があることで、市場原理によって、サービスの質が向上していくことは言うまでもありません。
ただし、著作権管理団体間の競争は、通常の私企業間の市場原理とはちょっと違います。著作権管理団体は二種類の顧客、すなち、利用者と権利者(作詞家・作曲家・音楽出版社)を相手にしなければいけません。他の団体より著作権利用料を極端に安くしたりすれば利用者は喜びますが、権利者は別の管理団体に移ってしまうでしょう。各音楽管理団体は効率性(中抜きをどれくらい減らせるか)、公平性、透明性等で勝負しなければなりません。
もうひとつの違いは包括契約です。売上や店の規模から算定した料金を払えば、逐一どの楽曲を使ったかを報告しなくて済むという仕組みです。こういう仕組みがあると、一番大きいJASRACが有利になってしまいます。包括契約は公平性、透明性の点で問題なしとは言えませんが、妥協案としてしょうがなかったと言えます。利用する楽曲を逐一報告する事務手続が大変であったからです。しかし、ITにより、この条件は変わりつつあります。
以降は私見になりますが、CD、ネット、デジタルカラオケ、放送局等どの楽曲を使用したかをシステム的に管理しやすい領域(つまり、包括契約に頼らなくてもすむ領域)では、だんだんと市場原理が効いてくると思います。
ライブハウスにおける生演奏はちょっとやっかいですが、スマホ等で演奏する楽曲を逐一入力することはまったく非現実的というわけでもありません。米国では既にこのようなシステムがありますし、日本で江川ほーじん氏が同様のシステムを実現しようとしています。
一番やっかいなのは飲食店等でBGMとしてCDをかけている場合で、こればっかりは営業担当者が店に行って包括契約をしてもらって料金を徴収するしかないので、JASRAC以外が行なうのは難しいんじゃないかと思います(まあ、放送局側で権利処理している有線放送やインターネットラジオ等を使えばよいのですが)。
いずれにせよ、少しずつではありますが市場原理によって音楽著作権管理の世界が変わりつつある兆しとして今回のニュースを評価したいと思います。