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メルペイ後払い 限度額が突然「100円」に? 背景にAI与信の判断あり

山口健太ITジャーナリスト
メルペイ後払い「限度額」の引き下げが話題に(Webサイトより、筆者撮影)

メルペイの後払いサービスにおいて、利用限度額が突然「100円」などに大きく下がったとの報告がSNS上で相次いでいます。メルペイによれば「AI与信」の仕組み上、あり得るとのことから、意外な落とし穴として注意すべき点になりそうです。

20万円あった限度額が100円に

メルカリの子会社が運営する後払いサービス「メルペイスマート払い」は、メルペイのiD決済やコード決済に加えて、Mastercardバーチャルカードにも対応しており、ネットやリアルの幅広いお店で後払いによる買い物ができるのが特徴です。

メルペイスマート払い(アプリ画面より、筆者作成)
メルペイスマート払い(アプリ画面より、筆者作成)

メルカリの売上金を返済にあてられるなどの機能があり、すでにクレジットカードを持っている人の利用も増えているとのこと。清算方法は翌月一括払いの「翌月払い」のほかに、リボ払いに相当する「定額払い」があり、後者を申し込むと指定信用情報機関の1つであるCICに情報が登録されます。

毎月の利用上限金額は、メルペイが決めた限度額の枠内で設定できます。この枠は「予告なく変動する可能性がある」と説明されており、過去にも変動したとの報告をSNS上で確認できますが、5月1日からこうした報告が急増しています。

5月1日から限度額についてのツイートが急増(Twitterアプリより、筆者作成)
5月1日から限度額についてのツイートが急増(Twitterアプリより、筆者作成)

特徴として、それまで20〜25万円の枠があったにもかかわらず、突然「100円」や「1万円」などに大きく下がったとの報告が続出しており、これまで延滞することなく返済してきたとの声も多いようです。

原因として、システムの不具合や、最近話題の「不正利用」対策ではないかと疑う声もありますが、メルペイに確認したところ「誤動作ではなく、また不正利用の観点とも異なり、メルペイスマート払いの利用限度額の定期的な見直しによるもの」(メルペイ広報)との回答でした。

メルペイ社内でもユーザーから多数の反応があったことは把握しているようですが、限度額が大きく変わった背景として、メルペイが運用している「AI与信」における与信ロジックに見直しがあったことを挙げています。

「詳細はお伝えできませんが、当社では、お客様に安心・安全にサービスをご利用頂くため、返済能力調査を精緻化する取り組みを行っております。その一環として弊社内のデータと法令に基づき提供される指定信用情報機関のデータ等を基に定期的に与信ロジックの変更を実施しています」(メルペイ広報)

その結果、これまでメルペイスマート払いで延滞などをしていない場合でも、別の要因によって限度額が「20万円から100円」などに大きく下がることはあり得る、というのがメルペイの回答といえます。

そもそもAI与信とは何なのでしょうか。メルペイは2021年4月に施行された改正割賦販売法に基づく「認定包括信用購入あっせん業者」の第1号として認定を取得。メルカリの利用実績など独自のデータから与信審査をすることが特例で認められています。

割賦販売法が改正され、AI与信が可能に(メルペイ提供資料)
割賦販売法が改正され、AI与信が可能に(メルペイ提供資料)

従来型の与信審査では「年収」や「勤続年数」といった属性情報を用いるのが一般的でした。筆者のような個人事業主はこの手の審査で不利になりがちでしたが、AI与信であればメルカリでの買い物実績など別の観点からも評価してもらい、審査に通る可能性が広がります。

国内後払いサービスごとの与信方法の違い(メルペイ提供資料)
国内後払いサービスごとの与信方法の違い(メルペイ提供資料)

その代わり懸念されるのが、借りすぎや多重債務といった問題です。もともと割賦販売法では、利用者の支払い能力を超える与信枠を設定することを禁じていました。さらに改正法に基づいた新しい業者には、「延滞率」を適切に管理し、定期的に報告することを求めています。

このように、認定制度や登録少額制度においては、与信限度額の算定方法が画一的に定められている包括支払可能見込額調査とは異なり、与信審査手法については各社に裁量を与える一方で、延滞率の管理状況を監督すること等により、過剰与信防止を図ることとしています。

割賦販売法(後払分野)の概要・FAQ(METI/経済産業省)

こうした法律上の要件を背景に、メルペイのAIはさまざまなデータを随時参照し、限度額を急に引き下げたり、ときには引き上げたりする場合があると考えられます。

未払い率は低い状態を維持しているという(メルペイ提供資料)
未払い率は低い状態を維持しているという(メルペイ提供資料)

急すぎる限度額の変更に不満の声

メルペイ側の事情は分かりましたが、ユーザーの立場で考えると「昨日まで十分に余裕のあった限度額が、ある日突然100円になる」というのはあまりにも急な印象があります。メルペイスマート払いの落とし穴として注意すべきでしょう。

与信の仕組み上、どういう「落ち度」があったのかは開示されないこと、サポートに問い合わせても定型文の「テンプレ」回答しか得られないことも、火に油を注いでいるようです(この点はメルペイ社内でも課題として認識しているそうです)。

過去の事例から、限度額が変わるのは毎月1日ではないかとの見方もありますが、メルペイ側はあくまで「定期的に見直す」とだけ説明しており、さまざまなケースに対処する選択肢を残しています。

メルペイの判断で与信枠が増減することはやむを得ないとはいえ、AIによる突然の一方的な変更に抵抗を覚える人が多いのも分かります。SNS上に多数の不満や懸念が投稿されれば、サービスとしてのイメージダウンは避けられないでしょう。

昨今の経済情勢から、連休をメルペイスマート払いで乗り切ろうとしていた人も少なくなかったようです。限度額を大きく引き下げる場合には早めに予告するなど、利用者に準備のための時間を与える方法があればとも思うところです。

追記:

5月19日、メルペイスマート払いから「限度枠の更新予定のお知らせ」が届くようになりました。次回の予定は「2022年6月1日頃」となっています。

こうした「お知らせ」を送るに至った背景について、メルペイ広報は以下のようにコメントしています。

「メルカリ・メルペイでは、お客さまにより便利にご利用いただけるよう、新たな機能の追加やサービスの改善を行なっております。

今後も、今回のご案内の反響を鑑みて、継続的に事前のお知らせを行っていく等対応してまいります」

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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