「おじいちゃんのノート」対コクヨの特許問題について
X(ツイッター)において「"おじいちゃんのノート"で親しまれる東京・中村印刷所の"水平開きノート"に対し、コクヨが同じ機能を持った商品を新発売。印刷所の代表が不安を吐露」という事件がありました。
2016年に、祖父が完全に水平に開くノートを開発して特許も取ったのに売れなくて困っているという話しをツイッターに投稿したところ、「おじいちゃんのノート」としてバズって売行き激増という事例があったのですが、先日、コクヨが同じような機能のノートを販売し、開発主(祖父)が当惑しているというお話です。
既に元投稿にコミュニティノートが付いていますが、一応、ここでも解説しておきます。
この"おじいちゃんのノート"については最初に話題になった2016年1月に記事「"おじいちゃんのノート"の特許を分析する」を書いています。この特許(5743362号)は、ノートそのものの(物の)特許ではなく、ノートの生産(製本)方法の特許です。特許権の範囲は「特許請求の範囲」の請求項の記載で決まります。図面や明細書の記載は直接的には権利範囲は関係ありません。この特許の出願書類の図面(タイトル画像参照)には水平に開くノートの構造が書かれていますが、それが特許権の範囲に含まれるとは限りません。
請求項1の記載は以下のとおりです。
2種類の接着剤を使用する点が特徴になっている方法特許です。この生産方法を使ってノートを製造すると、この特許権を侵害することになります。そもそも、この特許の審査過程において「水平に開くノート」のアイデア自体は既に世の中に知られていたため、ノートそのものを物としては特許化できず、製法に絞って特許化したという経緯があります。
一方、コクヨの商品(現時点で特許出願されているかどうかは不明)はというと、公式ページを見る限り、少なくとも2種類の接着剤を使用する製法になっているようには思えません。当然、製品化前には既存特許権の調査がされているはずですので、特許権問題はクリアーされている可能性が高いでしょう。
一般に、「XXXの特定の実現形態の特許を取った」場合に、発明者が「XXXの特許を取った」かのように思ってしまっているケースはたまにあります。
また、X(ツイッター)では、大企業が零細企業をいじめるのはひどいと言った「お気持ち」投稿も見られますが、コクヨの人も別に他人の技術にフリーライドして楽して製品化したわけではなく、3年以上にわたる苦労をされて独自技術での製品化にこぎ着けたわけなのでそこに文句を言ってもしょうがないでしょう。
なお コクヨのページには「ページの端に力をかけて引っ張ると外れる可能性があります」と書いてあります。仮にの話ですが、2種類の接着剤を使うことで、「おじいちゃんのノート」がこの問題を解決できているのならば、そこを差別化ポイントにすれば固定ファンも付くかもしれません。そもそも、ノートは紙質などの個人的なこだわりが強い商品ですので、機能が同じだから一斉に切り替えるかというとそうもならないように思います。
ところで、奇しくもつい先日に特許権侵害の判断法に関するYouTube動画をアップしておりますので、ご参考まで。