Yahoo!ニュース

中国の激烈な対米批判「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
中国国旗とアメリカ国旗(写真:ロイター/アフロ)

 2月20日、中国政府は「米国の覇権・覇道・覇凌とその害」という報告を発表した。中国の本気度を表しており、今後の米中覇権競争を示唆する。日本の対中政策にも参考になるかもしれない。

◆2月20日に公開された中国の対米批判

 今年2月20日、中国外交部のウェブサイトに「美国的霸権霸道霸凌及其危害」(米国の覇権・覇道・覇凌とその害)という中国政府の見解が掲載された。「覇道」は「横暴」に近く、「覇凌(はりょう)」は「いじめ」の意味である。米国に対する批判の凄さは尋常ではなく、怒りがほとばしっている。約6400字の内容は以下のような構成になっている。

   序言

   一、やりたい放題の政治的覇権

   二、好戦的な軍事覇権

   三、ペテンや力ずくで奪い取る経済覇権

   四、独占と抑圧の科学技術覇権

   五、扇動的な文化覇権

   結語

 日本語に訳すと1万字近くになるので、ざっくりと「何が言いたいか」を概括して以下に示す。

◆序言

 米国は2つの世界大戦と冷戦を経て世界一の大国となり、誰はばかることなく他国の内政に干渉し、覇権を求め、覇権を維持し、覇権を乱用し、他国政権を転覆させ、地域紛争を扇動しては、世界各地で戦争を起こしてきた。米国は自国のルールだけが世界のルールであるとして、世界の平和と秩序を乱し人類を苦しめている。

 本報告書は、政治・軍事・経済・金融・科学技術・文化の覇権を濫用する米国の悪行を見抜いて、人類が平和と安定を取り戻すことを目的としたものである。

◆やりたい放題の政治的覇権

 米国は自国の価値観と政治システムに従わすべく、「民主主義の促進」という名目を掲げて、「カラー革命」や「アラブの春」を扇動し、多くの国に混乱と災害をもたらした。キューバへの61年間にわたる敵対的な封鎖にしても「私に従う者は栄え、反対する者は滅ぶ」というやり方を貫いてきた。

 米国は私利私欲を最優先し、国際社会において国際法よりも国内法を優先している。米国は盟友関係を口実にして国際社会における派閥を形成し、アジア太平洋地域における「インド太平洋戦略」、「ファイブアイズ」、「日米豪印・クワッド」、「米英豪・オーカス」など、数多くの閉鎖的で排他的な小さなサークルを形成しては、地域諸国に選択を迫り、地域を分断し、対立を扇動している。

 米国は他国の民主主義を裁く権限が自国一国にあるという横暴さを勝手気ままに発揮している。

◆好戦的な軍事覇権

 米国の歴史は暴力と拡大に満ちている。1776年の独立以来、米国はインディアンを虐殺し、カナダに侵入し、メキシコ戦争を発動し、米西戦争(スペインとの戦争)を扇動し、ハワイなどを併合した。第二次世界大戦後は、朝鮮戦争・ベトナム戦争・湾岸戦争・コソボ戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争・リビア戦争・シリア戦争を引き起こし、軍事覇権を拡大した。近年、米国の年平均軍事予算は7000億ドルを超え、世界の総軍事費の40%を占め、2位から16位までの国の軍事予算の総額に匹敵する。世界に800の軍事基地を持ち、159ヵ国に17.3万人の米軍を配置している。

 国連加盟190ヵ国のうち、米国の軍事的介入を受けていない国は3ヵ国しかない。米軍の覇権は人類に非人道的な惨劇をもたらし続けている。

 2001年以来、テロ対策の名の下に米国の戦争と軍事作戦により、90万人以上が死亡し、そのうち約33.5万人が民間人で、数百万人が負傷し、数千万人が避難民と化している。2003年のイラク戦争では、20万人から25万人の民間人が殺され、100万人以上が家を失ったままだ。

 米国は世界中で3700万人の難民を生み出している。2012年以降、シリア難民だけでも10倍に増加している。アフガニスタンでの20年間におよぶ戦争はアフガニスタンを荒廃させ、合計4.7万人の民間人と、6.6万から6.9万人に及ぶ兵士や警察が、9・11と無関係であるにもかかわらず関係していたという理由で米軍によって殺され、1000万人以上の避難民を生んだ。おまけに2021年の「アフガンからの大敗走」の末、米国はアフガニスタン中央銀行の資産約95億ドルを凍結し、赤裸々な略奪を行ったままだ。

◆ペテンや力ずくで奪い取る経済覇権

 米ドルの覇権は、世界経済の不安定性と不確実性の主な原因だ。2022年、連邦準備制度理事会は超緩和的な金融政策を終了し、積極的な利上げ政策に転じたため、国際金融市場の混乱とユーロなどの多くの通貨の急激な下落が20年ぶりの安値に達し、多くの発展途上国は深刻なインフレ、現地通貨の下落、資本流出に見舞われた。

 米国は経済的脅迫手段を用いて競争相手を抑圧している。20世紀80年代、米国は日本経済の脅威を排除するために日本を利用しコントロールして、旧ソ連と対峙させ、覇権的な金融外交を行使し、日本と「プラザ協定」に署名し、円高を強制し、金融市場を開放させ、金融システムを改革させた。プラザ合意は日本経済の活力に大きな打撃を与え、その後日本は「失われた30年」を迎えた。

 米国の経済・金融覇権は地政学的な武器になっている。米国は、一方的な制裁と「ロングアーム管轄権」を精力的に駆使し、国内法を使って特定の国、組織、または個人に制裁を科す一連の大統領命令を発行した。統計によると、2000年から2021年にかけて、米国の対外制裁は93%増加した。その結果、世界人口の半数近くが影響を受けている。米国は公権力を利用して商業競争相手を抑圧し、通常の国際商取引に干渉し、自由市場経済を破壊している。

◆独占と抑圧の科学技術覇権

 米国はハイテク分野で独占抑圧と技術封鎖を行い、他国の科学技術の発展と経済発展を阻止抑制してきた。

 20世紀80年代、米国は世界一になった日本の半導体産業の発展を押さえつけるため、「301」調査など、日本を不公正な貿易国と指定すると脅迫し、報復関税を課して日本に「日米半導体協定」に署名させるなどの措置を取り、その結果、日本の半導体産業はグローバル競争からほぼ完全に撤退した。市場シェアは50%から10%に低下するに至っている。

 米国は科学技術問題を政治化し、武器化し、イデオロギー化し、中国のファーウェイなどに適用し、国際的に競争力のある中国のハイテク企業を抑圧している。

 米国はまた、中国に対する科学技術人材においても同様の手段を用いて中国人研究者を抑圧し迫害している。

 米国は民主主義の名の下に科学技術覇権を維持している。「チップ聯盟」や「グリーンネットワーク」など科学技術においても「小さなグループ」を形成し、「ハイテク」に「民主主義と人権」のラベル付けをして、科学技術を政治化・イデオロギー化し、他国に技術封鎖を課す口実としている。こうして中国の「5G製品」を駆逐するために、科学技術覇権を維持しようと手段を選ばない。

 米国は科学技術覇権を悪用し、サイバー攻撃や盗聴を無差別に実行している。その対象は競争相手国だけでなく同盟国にまで及び、元ドイツ首相のアンゲラ・メルケルや複数のフランス大統領などの同盟指導者でさえ、無差別監視の対象になっていたことは周知の事実だ。「プリズムゲート」、「Bvp47」・・・などの悪名は世界に轟いている。ウィキリークスウェブサイトの創設者であるアサンジが米国の監視プロジェクトを暴露したことは説明するまでもないだろう。

◆扇動的な文化覇権

 米国の文化覇権は「直接介入」から「メディア浸透」や「世界の拡声器」へと移行し、他国の内政に干渉する際には、米国主導の欧米メディアに頼らせることによって国際世論を扇動する。

 2022年12月27日、TwitterのCEOであるイーロン・マスクは、すべてのソーシャルメディアが米国政府と協力してコンテンツを検閲していると述べた。

 米国国防総省はソーシャルメディアを操作している。米国は報道の自由においてダブルスタンダードを持っていて、他国のメディアを暴力的に抑圧している。米国は社会主義国家を転覆させるために文化覇権を乱用し、米国の価値観で世界を染めるため主要なラジオやテレビのネットワークに巨額の政府資金を注ぎ込み、数十ヵ国の言語で報道し、昼夜を問わず社会主義国への批難を植え付ける扇動工作を行っている。

 米国は虚偽の情報を流すことによって他国を攻撃する武器としている。それによって国際世論に影響を与えることに専念している。

◆結語

 米国のこうした単独覇権主義、唯我独尊主義、倒行逆施(無理強いした)覇権的慣行は、国際社会からの批判と反対をますます強く引き起こしている。しかしそれに染まってしまった目には真実が見えない。

 各国は互いを尊重し平等に扱うべきだ。対立ではなく対話、同盟ではなくパートナーシップを通じて、国際交流の新しい道を切り開かなければならない。中国は常にあらゆる形態の覇権主義と権力政治、そして他国の内政への干渉に反対してきた。米国は傲慢と偏見を捨て、覇権といじめを放棄すべきだ。(概要紹介ここまで。)

===

 以上だ。

日本の半導体が沈没した原因日本の失われた30年などに関しては共鳴する部分もあるが、「いや、それはあなたも同じでしょ?」と言いたい部分もある。

 もし筆者が中国に渡航しても、中国政府が筆者を逮捕することがなければ、中国の主張にも一理あると認めよう。中国政府が今も真相を認めない『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』を筆者が書いていることと、中国を批判する論考を展開しているという理由によって、中国の領土内に降り立った瞬間、逮捕するのではないか?

 筆者にしてみれば、それが、この報告の是非を判断するクライテリオンだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

遠藤誉の最近の記事