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南海トラフ地震臨時情報、今回の「注意」情報が残したもの #専門家のまとめ

関口威人ジャーナリスト
防災を考える親子(提供:イメージマート)

 8日に初めて発表された南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)は、目安である1週間で特段大きな地殻変動がなかったなどとして15日に呼び掛けが終了しました。

 巨大地震に対する備えの再確認になった一方、水の過剰な買いだめや旅行のキャンセルなどの反応が少なからずあり、今後に課題を残しました。

 臨時情報のシミュレーションを盛り込んだ防災本の編集協力経験がある筆者として、「次」につながる教訓をまとめました。

ココがポイント

▼震度6弱の揺れでけが人が10人発生した宮崎県では、河野知事が引き続き地震や津波への「警戒感」と備えを呼び掛け

南海トラフ臨時情報終了、日頃の備え「消費しながら買い足すローリングストックを」…宮崎知事呼びかけ(読売新聞オンライン)

▼和歌山県白浜町では宿泊キャンセルによる損失が5億円分に上り、大江町長が支援を求めて政府に陳情へ

「コロナ以上のマイナス」観光地に痛手…残された課題『巨大地震注意』呼びかけ終了(テレ朝news)

▼目立った地殻変動は確認されなかったものの、南海トラフ地震の想定震源域では着実にひずみがたまっているとの指摘が

「南海トラフ巨大地震引き起こすひずみ 着実に蓄積」専門家(NHK NEWS WEB)

▼今後よりレベルの高い「巨大地震警戒」が発表されたら、沿岸エリアの住民に1週間の事前避難が求められる

もし「巨大地震警戒」が出たら、「注意」で求めない事前避難も(朝日新聞デジタル)

エキスパートの補足・見解

 今回はお盆シーズンにかかったこともあり、書き入れ時の旅館などに大きな損失が出ました。今後は観光施設が迷わず営業の適否を判断したり、キャンセルを受け入れたりできるよう、情報を出す国による支援策と地域での綿密な計画策定が必要でしょう。

 「次の震災」は必ずやってくると言われます。一方で日向灘の地震が必ずしも南海トラフの巨大地震にはつながっていないという歴史や、最近では「30年以内に70〜80%」という確率の算定方法に疑問も指摘されています。今回のような注意情報が頻発して「オオカミ少年」状態となることに加えて、地震研究や防災活動に対する不信感が増せば、制度が意味を失ってしまいます。

 関係者はこの制度の啓発と改善を一層進めるとともに、市民もただ単に「与えられる」情報とするのではなく、自分たちで「生かす」制度としなければならないでしょう。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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