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日本代表メンバー発表。いつもの名前に隠された新監督の意図

杉山茂樹スポーツライター

ハリルホジッチ体制になり初めての日本代表メンバーが発表された。メンバーは以下の通り(バックアップのメンバーを除く)。

【GK】川島永嗣(リエージュ)、東口順昭(ガンバ大阪)、西川周作(浦和レッズ)、権田修一(FC東京)

【DF】酒井宏樹(ハノーファー)、酒井高徳(シュツットガルト)、内田篤人(シャルケ)、吉田麻也(サウサンプトン)、水本裕貴(サンフレッチェ広島)、昌子源(鹿島アントラーズ)、森重真人(FC東京)、槙野智章(浦和レッズ)、太田宏介(FC東京)、長友佑都(インテル)、藤春廣輝(ガンバ大阪)

【MF】長谷部誠(フランクフルト)、柴崎岳(鹿島アントラーズ)、今野泰幸(ガンバ大阪)、青山敏弘(サンフレッチェ広島)、山口蛍(セレッソ大阪)、香川真司(ドルトムント)、清武弘嗣(ハノーファー)

【FW】本田圭佑(ミラン)、永井謙佑(名古屋グランパス)、小林悠(川崎フロンターレ)、岡崎慎司(マインツ)、大迫勇也(ケルン)、興梠慎三(浦和レッズ)、乾貴士(フランクフルト)、武藤嘉紀(FC東京)、宇佐美貴史(ガンバ大阪)

遠藤保仁の落選も、永井、宇佐美らの招集も想定内。チュニジア戦、ウズベキスタン戦のメンバー発表に、あまり驚くべき要素は見あたらなかった。アギーレが引き続き監督を務めていたとしても、この程度の変更は行なわれていたと思う。

ハリルホジッチは就任会見で「来日前、2週間ほど日本代表の試合を映像で見まくった」と述べたが、Jリーグの観戦までは難しかったはず。だとすれば、このメンバーは半分、技術委員会側で用意したものになる。ハリルホジッチはその席上で「3月の試合は、従来メンバーが中心になる」と述べたが、それは、自分の目で選ぶだけの時間が足りていないからだと解釈できる。

その一方で、ハリルホジッチはこうも述べている。「その後は選ぶメンバーは随時、入れ代わることになるかもしれない」と。自分の目でJリーグをたっぷり見た後、積極的にテストを行なおうとしているのだ。監督のセレクターとしての色が見えてくるのは、次回からになる。とはいえ、今回の招集メンバーから何も見えてこないわけではない。

代表チームはいま、世代交代のタイミングを迎えている。本来ならば、W杯終了後こそが、それに最も相応しいタイミングになるが、その半年後に行なわれるアジアカップを重視した日本は、そこで世代交代に踏み切らなかった。ベテランを切らなかった。遠藤、今野、長谷部など、2018年には大ベテランになっている選手をメンバーに加えてアジアカップに臨んだ。

そして今回、2018年W杯時に38歳になる遠藤が外れた。一方で、33歳になる長谷部、34歳になる今野は残った。

長谷部の場合は分からないではない。このメンバーの中で、長年に渡りキャプテン格でいた選手。現在もフランクフルトの一員として、ブンデスリーガで多くの試合に出場している。トップレベルを維持している選手だ。今野の場合は違う。アギーレジャパンではスタメンではなかった。イラク戦でいい働きをしたが、試合終了間際に負傷。そして、ガンバ大阪に戻っても、復帰したかに見えたが再度故障。いま現在、復帰をはたせずにいる。にもかかわらず今回、選ばれた。

ハリルホジッチは会見でこう述べた。

「故障者の中にも代表に呼び、こちらの考えを伝えておきたい選手がいる」

この言葉の対象者こそが、今野だったのだ。ハリルホジッチが期待を寄せている選手であることが推察できる。

世代交代の話題では、とかく誰が入るかに注目が集まるが、誰が去るかも欠かせない視点になる。日本は長年、同じようなメンバーで戦ってきた国。岡田ジャパン、ザックジャパン、そしてアギーレもその流れでアジアカップを戦った。しかもそのスタメンは、4試合とも不動というおまけつきだった。

一口に日本代表チームと言っても、主要メンバーとそれ以外とには、大きな差がある。そして主要メンバーの年齢は高めだ。アジアカップでスタメンを飾った選手の平均年齢は28歳強。これはブラジルW杯本大会に出場した32チームの中で最も高齢だったアルゼンチンに匹敵する。各国の代表チームが、順次、若手に切りかえを図っている現在なら、日本は最高齢チームになっている可能性が高い。

スタメンに30代の選手は3人。30歳を大きく超える大ベテランは、せいぜい1人。平均年齢で言うと26~27歳が、理想的なチームの姿だとされるが、その線に持って行こうとすれば必然的に、この先、メンバーの入れ替えを迫られる。知名度の高い何人かの主力は、去っていく運命にある。2018年の本番に30歳超で迎える前述の長谷部、本田、長友、岡崎等がその候補になるが、この従来の主要メンバーの、生き残りを懸けた争いは、いまひとつパッとしない若手の代表入りを懸けた争いより、興味深く見える。少なくともいまのところは。

その実質的スタートは、「選ぶメンバーは随時、入れ代わる可能性がある」という次回からになるとはいえ、今回、チュニジア戦、ウズベキスタン戦でパッとしないプレイを見せた選手は、次回の落選候補になるわけだ。これまで閉ざされていた門戸は、完全に解放された状態にあると言える。代表レースはいま、本当に久しぶりに面白い状況を迎えている。

だが、テストが増えれば、成績は出にくくなる。ハリルホジッチは「私は負けることが大嫌いだ」と言いながら、一方で、詰めかけた報道陣に向かってお願いした。「時間を下さい」という台詞(せりふ)を、就任記者会見で彼は何度となく口にした。

大仁邦彌サッカー協会会長は、どんな面持ちで耳を傾けていたのだろう。会長は、その冒頭の挨拶で「3ヵ月後(6月)には、W杯予選という本番が控えている」と言って、時間のなさを強調した。アギーレ解任会見でも、それを解任の理由にしていた。しかし、W杯予選は本番に違いないが、6月から始まるのはその最初のステージだ。どんなにドジを踏んでも、そこで敗退する可能性はほぼゼロ。むしろテストをするには、おあつらえ向きの環境と言いたくなるほどだ。

テストを怠り、「絶対に負けられない戦い」と称し、弱者相手にもガチガチのメンバーで戦い、そして最後に失速したザックジャパンの反省は、会長の言葉を聞く限り、全くできていない様子だ。

ハリルホジッチが頼もしく見えた理由でもある。2018年6月まで、3年数ヵ月。その時間の使い方を知っている新監督と、その辺りに疎(うと)い人に見える会長と。この差こそが、ブラジルW杯における、アルジェリアと日本の成績の差ではなかったか。2018年6月から逆算する目。我々に求められているのはこれだ。目の前の結果と、それはどう関係しているか。整合性は保たれているか。

ハリルホジッチよりも、目の前の勝利に酔いしれたがる日本人。危なっかしく見えるのはこちらの方だ。

メディアは、10月のブラジル戦にベストメンバーを送り込まなかったアギーレを、これでは盛り上がるものも盛り上がらないと、スポンサーの片棒担ぎのように一斉に叩いた。はたしてハリルホジッチの今回の「お願い」は、通じるのか。なんとも怪しい限りだが、いくら不評を買っても、アギーレのようなことさえなければ、解任の憂き目に遭うことはないだろう。日本サッカー協会に、そこまでの度胸はないはずだ。

これから3年3ヵ月、ハリルホジッチには、さらなる「余裕」を披露して欲しいものである。今野を今回、あえて選んだ理由もその一環だと、僕は好意的に見ている。(集英社Web Sportiva 3月20日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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