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W杯史上初!PK戦に備えてGKを交代させたファン・ハール(オランダ)采配の妙

斉藤健仁スポーツライター

◇W杯史上初!延長戦のロスタイムにGKを交代

世界中を驚かせた交代劇だった。それもそのはず、ワールドカップ(W杯)史上、初めての出来事だった。

7月5日、2014年ブラジルW杯の準々決勝、オランダの猛攻を最後までコスタリカが止め続け、0-0のままで迎えた延長後半ロスタイムのこと。

最後の、3つ目となる交代枠を残していたオランダのルイス・ファン・ハール監督(次期マンチェスター・ユナイテッド監督)は、グループリーグからゴールマウスを守り続けてきたGKヤスパー・シレッセン(オランダ・アヤックス)に替えて、GKティム・クルル(イングランド・ニューカッスル)を投入。明らかに、PK戦を見据えてのGKの交代だった。

実はW杯、ユーロ(欧州選手権)といった主要大会を通じてオランダにとってPK戦は分が悪かった。W杯では1998年大会の準々決勝ではブラジルにPK戦で敗れ、ユーロでは通算4回PK戦になったが1回しか勝ったことがなかった(2004年ユーロ準々決勝で初めてスウェーデンに勝利した)。

また正GKシレッセンはオランダ代表で16回のPKをすべて決められており、コスタリカは決勝トーナメント1回戦のギリシャ戦のPK戦で5本のPKを成功させているデータもあり、ファン・ハール監督は、決してギャンブルではなく、前もって用意していたプランを遂行したというわけだ。

「どの選手にも個別の特性やスキルがあって、我々は、クルルがペナルティーキックを止めるのに最も適した選手だと考えていたし、シレッセンよりもPK戦では良い記録を持っていた。PK戦になったら起用するという話はクルルには話していた。彼はより長いリーチをもっており、それはシレッセンにはないものだと考えていた」(ファン・ハール監督) 事実、シレッセンは身長187cmであるが、クルルはそれより6cm大きい身長193cmだった。

まさしく、この交代が的中する。「ずっと試合に出られなくて、チャンスだと思った」というクルルは、手を下に構えて、足幅を狭く細かく動かす姿勢から、少し前に出ながら左に飛んで、コスタリカの2人目、5人目のキックを止めた。クルルがコスタリカの5人目のシュートを止めたとき、クルルの元にベンチから真っ先に駆けつけたのがシレッセンだった。チームの団結力、一体感を象徴しているシーンだった。

結果、PK戦に4-3で勝利したオランダは、2大会連続となるベスト4へ進出を決めた。「PK戦の練習をしてきました。PK戦は準備をしてきたチームの方が有利に働くと考えていた。クルルに替えたことは最善の判断だった。それをクルルが証明してくれたと思う」(ファン・ハール監督)

1分の出場でクルルがヒーローとなったが、名将ファン・ハール監督はシレッセンに対する敬意も忘れていなかった。「117分に、シレッセンは相手のシュートをセーブした。コスタリカにとって唯一のチャンスをシレッセンが止めなければ、すべて水の泡になっていた。準決勝の先発は間違いなくシレッセンである。彼がオランダの第一GKであることには変わりはない」

[国際映像]オランダ 0 - 0 コスタリカ(PK 4-3) 準々決勝

初優勝を目指すオランダは、7月9日(日本時間10日)に準決勝でアルゼンチンと対戦する。

◇MOMは今大会3度目となるコスタリカGKナバス

イタリア、イングランド、ウグルアイと同じ「死の組」だったグループDを首位で通過したコスタリカは、史上初のベスト8に進出し、しかも5戦負けなしでW杯を去ることになった。

相手に対する素早いチェックと5バック気味のラインコントロールで強豪国の攻撃を抑えて大会を大いに盛り上げた。オランダと戦った準々決勝も、13のオフサイドを誘って零封し、PK戦にまで持ち込んだことは特筆に値するだろう。

またオランダとの準々決勝のMOMは、好セーブを連発したコスタリカのGKケイラー・ナバス(レバンテ)が選出。実に、今大会3度目のMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)だった。「ここで去るのは残念だが、僕たちはこの大会で一度も負けなかった。それを誇りに思う」(GKナバス)

GKケイラー・ナバス(コスタリカ)は下記の3試合でMOMに選出

グループリーグ

6月24日 コスタリカ 0-0 イングランド

決勝トーナメント1回戦

6月29日 コスタリカ 1-1(PK5-3) ギリシャ

準々決勝

7月5日 オランダ 0-0 コスタリカ(PK3-4)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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