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新型コロナへの懸念は弱まるも、海外情勢や原材料不足への不安継続…2022年5月景気ウォッチャー調査

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
ウクライナ情勢も直接的、間接的に景況感の足を引っ張る(写真:ロイター/アフロ)

現状は上昇、先行きも上昇

内閣府は2022年6月8日付で2022年5月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DI(※)は前回月比で上昇、先行き判断DIも上昇した。結果報告書によると基調判断は「景気は、緩やかに持ち直している。先行きについては、緩やかな持ち直しが続くとみているものの、ウクライナ情勢や中国におけるロックダウンに伴う影響も含め、コスト上昇等に対する懸念がみられる」と示された。

2022年5月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比プラス3.6ポイントの54.0。

 →原数値では「よくなっている」「ややよくなっている」「悪くなっている」が増加、「変わらない」「やや悪くなっている」が減少。原数値DIは52.6。

 →詳細項目は全項目が上昇。「飲食関連」のプラス9.4ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外。

・先行き判断DIは前回月比でプラス2.2ポイントの52.5。

 →原数値では「よくなる」「やや良くなる」「変わらない」が増加、「やや悪くなる」「悪くなる」が減少。原数値DIは51.3。

 →詳細項目は全項目が上昇。「製造業」のプラス4.1ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「小売関連」「住宅関連」以外。

現状判断DI・先行き判断DIの推移は次の通り。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

現状判断DIは昨今では海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化を受け、基準値の50.0以下を示して低迷中だった。2020年10月では新型コロナウイルスの流行による落ち込みから持ち直しを続け、ついに基準値を超える値を示したものの、再流行の影響を受けて11月では再び失速し基準値割れし、以降2021年1月までは下落を継続していた。直近月となる2022年5月では新型コロナウイルス流行への懸念は薄らぎを見せていることから、景況感は上向いている。

先行き判断DIは海外情勢や消費税率引き上げによる景況感の悪化から、昨今では急速に下落していたが、2019年10月以降は消費税率引き上げ後の景況感の悪化からの立ち直りが早期に生じるとの思惑を持つ人の多さにより、前回月比でプラスを示していた。もっとも12月は前回月比でわずかながらもマイナスとなり、早くも失速。2020年2月以降は新型コロナウイルスの影響拡大懸念で大きく下落し、4月を底に5月では大きく持ち直したものの、6月では新型コロナウイルスの感染再拡大の懸念から再び下落、7月以降は持ち直しを見せて10月では基準値までもう少しのところまで戻していた。ところが現状判断DI同様に11月は大きく下落。

直近の2022年5月では新型コロナウイルスのオミクロン変異株にかかわる国内外情勢への懸念は和らぎを見せる一方で、原油価格の高騰、半導体をはじめとする原材料や部品の供給不足、ロシアによるウクライナ侵略戦争や中国でのロックダウンに対する不安はあることから、景況感の上向き方は限定的なものとなっている。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2022年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2022年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

昨今では新型コロナウイルスの影響による景況感の悪化からの回復期待で少しずつ盛り返しを示していたが、流行の第三波到来が数字の上で明確化されるに従い景況感は大幅に悪化。今回月の2022年5月は新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響による新規感染者数はワクチン接種の進展などで減少を示していることで、全体では前回月比でプラスを示している。

なお今回月で基準値を超えている現状判断DIの詳細項目は「住宅関連」「製造業」以外。

続いて先行き判断DI。

↑ 景気の先行き判断DI(~2022年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2022年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている先行き判断DIの詳細項目は「小売関連」「住宅関連」以外。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の猛威への不安は和らぎを見せており、とりわけ「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」では強い期待が数字となって表れている。他方、半導体を中心とした部品や原材料の不足、原油価格の高騰、そしてロシアのウクライナ侵略戦争への懸念が「住宅関連」や「製造業」「非製造業」を中心に、足を引っ張っている。

現状の安心感の高まりと先行きへの不安と

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして地域ごとに細分化した内容を公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に関する事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・2月頃は、まん延防止等重点措置で夜は本当にがらがらの状況だったため、今と比べると相当の差がある。今は夜の客が随分あり、先日は2年ぶりに学会が開催されるなどイベントも多くなってきている。特に夜の客が少しずつ戻ってきたため、売上も随分助かっている(タクシー運転手)。

・ゴールデンウィークは県外客や帰省客が増え、土産を購入する客が多く見受けられた。ゴールデンウィーク後は、平日夕方以降の食料品売場のにぎわいや休日の複数名での来店もみられ、ショッピングなど外出に対する抵抗感が薄れている(百貨店)。

・夏に向けて祭りやイベントの開催等、日常生活が少しずつ戻りつつあるが、電気・ガスの料金値上げや、原材料の価格高騰による食料品の値上げなどにより消費意欲が減退している(商店街)。

・小売の現場では食品の値上げが増えてきており、需要の減少につながっている。家庭用品も4月の家庭紙を手始めに、原料、物流コストの上昇を理由に値上げが続いている(スーパー)。

■先行き

・飲食時の人数制限解除も発表され、徐々にウィズコロナが浸透し始めてきている。インバウンドの人数制限も段階的に解除との方向性が発表され、適度な注意をしながらも、ある程度は自由に旅行ができる雰囲気が出てきているので、旅行市場の拡大が期待される(旅行代理店)。

・今月は自粛ムードからの開放感があり、夏に向けても同様の傾向が続くと予想される。夏休みは少し遠出の旅行を計画したり、積極的にレジャーを楽しむ傾向が予想され、関連商材の動きが期待される。イベントなどで集まる機会も増えるなど、多くの関連需要に期待している(百貨店)。

・販売は堅調だが、低価格帯の商品を選択するケースが増えている(通信会社)。

・製品原価の高騰で、店頭陳列品のほぼ全てが値上げとなっている。しかも、現在の在庫完売後の次の入荷が未定の状況である。ウクライナ情勢や中国のロックダウン及び半導体不足等が影響し、供給が圧倒的に不足している(家電量販店)。

新型コロナウイルス流行の影響は感染者数の減少で和らぎを見せているようだ。夏に向けた期待の声も聞こえる。他方、先行きを中心に原材料不足への懸念は強いままで、ロシアによるウクライナへの侵略戦争や中国のロックダウンの影響を指摘する声も。

企業動向でも原材料不足への影響が多々見受けられる。

■現状

・Web媒体、紙媒体共に、広告売上は前年を上回っている(広告代理店)。

・すべての仕入価格が上昇しており、この先更に上昇機運にあるため、価格転嫁のタイミングが難しい(精密機械器具製造業)。

■先行き

・海外からの部品や半導体の供給なども、今よりは改善されると思われ、完成車メーカーの生産も増えていくと考えられる(輸送用機械器具製造業)。

・資機材高騰局面が継続しており、ウクライナ情勢に起因した資機材価格への悪影響が更に大きくなる見通しである。特に民間発注案件では資機材価格の高騰分を請負価格に転嫁する交渉が難航するケースがみられ、プロジェクトベースで採算が悪化する可能性が高い(建設業)。

原材料費の高騰・不足が大きなマイナス要素となっている状況。ただし改善に向かうのではとの観測もある。

雇用関連では興味深い動きが見られる。

■現状

・新規求人数は増加傾向にある。特に卸売、小売、飲食の伸びが大きい。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着き、インバウンド受入れ再開を見越した人員確保が進んでいる(職業安定所)。

■先行き

・ゴールデンウィーク以降も求人数は増加しており、求職者からの問合せも増加している(人材派遣会社)。

家計動向関連や雇用関連では現状や先行きに関して不安視する向きも多々あるが、雇用関連に関しては楽観視する意見が圧倒的。企業の求人動向はその企業における先行きを見越した上で判断された結果であることを考えると、企業側では今後景況感がさらに改善されるという認識が支配的なのかもしれない。特に企業がインバウンドへの期待を寄せているとの意見は注目に値する。

リーマンショックや東日本大震災の時以上に景況感の足を引っ張る形となった新型コロナウイルスだが、結局のところ警戒すべき流行の沈静化とならない限り、経済そのもの、そして景況感に大きな足かせとなり続けるのには違いない。恐らくは通常のインフルエンザと同等の扱われ方がされるレベルの環境に落ち着くのが収束点として判断されるのだろう。あるいは社会様式そのものを大きく変えたまま、強引な形で鎮静化という様式を取ることになるかもしれない。世界的な規模の疫病なだけに、ワクチンなどによる平常化への動きを願いたいものだが。

さらにロシアによるウクライナ侵略戦争や中国のロックダウンは日本が直接手を出して状況を改善できる類のものではない。景況感の悪化を押しとどめ、改善へと向かわせる間接的な対応を、関係各方面に望みたいものである。

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※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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