小室圭さんと眞子さまに提案したい「国際弁護士」のこんな生き方
地位を捨て
[ギリシャ・レスボス島発]眞子さまとのご婚約問題が社会の厳しい批判にさらされている小室圭さんは「国際弁護士」を目指して米国に留学中です。筆者はギリシャ・レスボス島での取材で、地位を捨て難民支援活動を続ける2人の「国際弁護士」に会い、心が洗われました。
新聞社の社会部記者が長かった筆者は弁護士と言えば海外の企業法務を扱う「渉外弁護士」よりもプロボノ(社会貢献)活動に力を入れる無欲の「社会派弁護士」をイメージしてしまいます。圭さんはどちらの弁護士を目指しているのでしょう。
英王室はチャリティー(慈善)活動に存在意義を見出そうとしています。眞子さまと圭さんもお2人で額に汗してチャリティー活動に力を入れれば、日本の皇室も新たな一歩を踏み出すことができ、国際的なイメージアップにつながるのではないでしょうか。
弁護士資格を取得したあと、弱者のために汗を流して働けば、批判も和らぐはずです。
筆者がレスボス島で会った2人の「国際弁護士」はともに33歳。1人は国際協力団体オックスファム(Oxfam)のマリオン・ブシュテルさん。フランスで弁護士をしていましたが、2017年に辞め、ギリシャを旅しました。その時、トルコ沿岸に近いキオス島で難民支援のボランティア活動に参加しました。
「報道では難民問題を知っていましたが、厳しい状況を自分の目で見て欧州連合(EU)市民として何かしたいと強く思うようになりました」。ブシュテルさんはオックスファムのアドボカシー(弱者の権利を代弁する人)として1年間レスボス島で働いています。
「放っておけなかった」
もう1人は英国出身の弁護士フィリップ・ウォーシングトンさん。6年間、国際法律事務所に勤務していましたが、100万人を超える難民がEU域内に押し寄せた15年の欧州難民危機で「もっと社会の役に立ちたい」と決意し、レスボス島にやって来ました。
ウォーシングトンさんは16年に結成された「レスボスの欧州弁護団」の常駐メンバーです。実は呼びかけ人の1人であるドイツ人弁護士のコルト・ブルーグマン氏と筆者はその時、トルコのイズミルからレスボス島に向かう途中に知り合い、集会を取材させてもらいました。
「アフリカでの出来事なら寄付をして済ませることができたのかもしれませんが、欧州でこのような事態が起きているのを放っておくことはできませんでした。責任を感じました。難民申請については素人だったので、レスボス島での支援活動をオーガナイズしています」とウォーシングトンさん。
2人の話では、昨年夏には1万1000人に達したレスボス島の難民はギリシャ本土への移送が進み、モリア難民管理センター(収容人員3100人)の4892人を含めて6902人が滞在しています。サモス島やキオス島など他の島を加えた総数は1万4804人です(ギリシャ政府まとめ)。
「レスボスの欧州弁護団」を含め15人の弁護士が難民の申請手続きをサポートしています。ウォーシングトンさんはこう解説します。
「インタビューの際、どの点を強調したら良いのか、難民はプロセスとフレームワークを全く理解していないのが最大の問題。法的アドバイスを与えることで不利益を被るのを避けるのが私たちの活動の狙いです」
米国のイラン制裁再開でアフガン難民激増
レスボス島に逃れてくる難民は少し前までシリア、イラク、アフガニスタンが25%ずつを占めていましたが、今ではアフガン難民が75%と断トツで多くなっています。シリアやイラクの難民がどうして減ったのかは「分からない」とウォーシングトンさんは言います。
アフガン難民が多くなったのは、イスラム原理主義武装勢力タリバンがアフガン南部で支配地域を拡大し、難民が増えたのに加えて、「米国がイランへの経済制裁を再開したことが大きい」(ブシュテルさん)そうです。
イランでは多くのアフガン移民が働いていましたが、米国の制裁で急激に経済が悪化したため、イラン政府はアフガン移民を大量に国外退去処分にしました。先のエントリーで紹介したアフガン南部ウルズガン州出身の自動車整備工メイサムさん(20)もイランで自動車整備をしていました。
難民認定までの道のり
難民認定まで気が遠くなるぐらい長い道のりが待っています。
ゴムボートに乗った難民はレスボス島をはじめギリシャの島々に到着すると、それぞれの難民管理センターで登録を済ませ書類に赤いスタンプ(レッドカード)を押してもらいます。このレッドカードを持つと、島内を自由に行き来できるようになります。
1人当たり月90ユーロを引き出せるプリペイドカードが支給され、野菜や果物を売店で買うことができ、働くことも許されています。しかし実際に国際支援団体の通訳などとして働いている難民はごくわずかです。
16年3月のEU・トルコ合意に基づき、出身国が安全かどうか、出身国とトルコの関係が良好かを判断して問題がなければトルコに強制送還されます。トルコへ強制送還される難民の数は実際には限られており、昨年12月は11人、合意が結ばれて以降1806人にとどまっています。
次に医師の診断で「弱者」と認定されると書類に青いスタンプを押してもらえます(ブルーカード)。今度はギリシャ国内を自由に移動できるようになり、レスボス島のような島々からギリシャ本土に移送されます。本土に移送されるまでに要する期間は半年から1年です。
レスボス島にはギリシャ陸軍の軍医1人が派遣され、この役割を担っていましたが、昨年10月に辞めてから医師がいない状態が続いています。新しい医師が派遣されてくるのは今年2月の予定です。
以前は難民申請のインタビューは島内で行われていましたが、島内の難民管理センターは非常に混み合うため本土で行われるようになりました。ギリシャ本土では現在、アテネやテッサロニキなど3カ所で難民管理センターを建設中です。
しかし難民認定までの道のりは長く、結果が分かるまで2年待ち、すなわち2021年まで待たなければなりません。
「EU・トルコ合意でギリシャの島々にやって来る難民の数は激減しましたが、欧州難民危機の時は1~2日で本土に移送されていたのに、逆に島に引き留められる期間は長くなりました。ケンカなどの問題が起きるのは難民の数が収容能力をはるかに超えているからです」とウォーシングトンさんは言います。
難民支援のためEUからギリシャに巨額の資金が提供されていますが、ブシュテルさんによると、その資金がどのように使われているのか、透明性が低く、追跡して検証するのは非常に難しいそうです。
レスボス島に到着する難民の3分の1が18歳未満です。保護者がいない場合、ギリシャ政府が代わりに面倒を見ますが、十分に保護されていないのが現実です。難民孤児570人がホームレスになったという報道もあります。
難民孤児が売春、労働搾取、人身売買組織のネットワークに搦めとられてしまうことは少なくありません。ギリシャの難民状況を数字で見ておきましょう。
ギリシャへの難民流入数は――。
2017年、海路2万9718人、陸路6592人、合計3万6310人
2018年、海路3万2494人、陸路1万8014人、合計5万508人
(筆者注)アフガン難民は米国によるイラン制裁の再開で増えたとみられ、アフガンから駐留米軍が撤退すると難民がさらに増える恐れがあります。
ギリシャで現金の支給を受けている難民の数は――。
6万3000人(17年4月以降では9万9945人)
島々からギリシャ本土に移送された難民の数は――。
昨年12月3600人。(16年6月以降で合計4万2345人)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から住居としてアパートを提供されているギリシャの難民の数は――。
2万2700人(15年11月以降では5万5755人)
紛争が絶えない中、国内で避難生活を強いられている人は世界で4000万人、難民は2540万人、難民申請者は310万人にのぼっています。
筆者の目には2人が輝いて見えました。圭さんがあこがれる「国際弁護士」にはこんな生き方もあるのです。
(おわり)