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ネットとプライバシー ー利用者の個人情報を追跡しない検索エンジン、DuckDuckGoが人気

小林恭子ジャーナリスト
個人情報を保存しない検索エンジンDuckDuckGo (ウェブサイトより)

利用者の検索情報を保存・追跡しないという検索エンジン、DuckDuckGo(ダックダックゴー)の人気が急上昇中だ。6月初旬、米政府が大手ネット企業のサーバーに「直接アクセス」し、個人情報を収集するプリズムと呼ばれる行為を行っていると、英ガーディアン紙が報道してから、トラフィックがあっという間に増えたという。

英ガーディアン紙の記事(7月10日付)が、DuckDuckGoの創業者ガブリエル・ワインバーグ氏(33歳)への取材を通じ、詳細を報告している。

ワインバーグ氏によれば、プリズムについての報道が出る直前、DuckDuckGoの検索エンジンは1日に170万件ほど利用されていた。米NSA(国家安全保障局)による大規模な個人情報収集が実行されていたとする報道が連日続き、6月半ばには300万件を超えるようになったという。

DuckDuckGoという社名は、子供用ゲーム「DuckDuckGoose」をもじったものだ。

米フィラデルフィアにベースを置くDuckDuckGoでは、約20人が働いている。

ネット利用者がDuckDuckGoを検索エンジンとして使う確率は低い。デフォルトで入っている検索エンジンをそのまま使い続ける人が圧倒的に多いからだ。

それでも、クッキー(サイトの提供者が、ブラウザを通じて訪問者のコンピュータに一時的にデータを書き込んで保存させる仕組み。ユーザーに関する情報や最後にサイトを訪れた日時、そのサイトの訪問回数などを記録しておくことができる***)を使わない、利用者のIPアドレスを保存しない、ログインを必要としない、接続が暗号化されているなどの特徴があるDuckDuckGoは、次第に利用者を増やしてきた。もしNSAが利用者情報の引き渡しをDuckDuckGoに命じても、渡すべきものがないのだ。

―「グーグルでは探しだせなかったものがあった」

ワインバーグ氏はこれまでに、友人を探すサイトOpoboxや同様のサイトClassmates.comなどを立ち上げ、売却。時間に余裕が出来たのでステンドグラスを学ぶ教室に参加したところ、先生が参考用のウェブサイトのリストを渡してくれた。このリストに載ったウェブサイトがグーグルの検索では出てこないものであることを発見し、グーグルよりもよい検索エンジンを作れるのではないかと考えた。

そこで、ウィキペディア、米クチコミ情報サイトYelp、その欧州版Qypeなどを使って、より質の高いエンジンを作ろうと思ったという。

利用者の検索データを保存しないことに決めたのは、個人の情報が外に出てしまいすぎると思ったからだ。2006年にはAOLが65万人の利用者によるグーグル検索履歴を流出。この情報の一部を使って、ニューヨーク・タイムズの記者が特定の個人に取材を行う事態が発生した。

ガーディアンの記事によれば、パソコンを使ってグーグル検索をしている場合、グーグルはコンピューターのIPアドレスを知っている。これによって、どのインターネットプロバイダーを使っているかやコンピューターの位置情報も持っている可能性があるという。もしログイン状態だと、これまでの検索履歴も知っている。

携帯端末でログインしている場合、位置情報の履歴についても把握しているかもしれないという。

検索行為は非常に個人的な行為だという認識から、ワインバーグ氏は、政府がこうした情報を欲しがるだろうと想像した。「AOLの情報流出の事件を見て、政府が情報を必要とするのは避けられない動きだと思った。検索エンジンやコンテンツの制作側がデータを渡すケースも増えるだろう」。

「検索データは最も個人的なデータだと思う。自分が抱える問題や欲しいものを入力しているのだから。ソーシャルメディアで公的に何かを入力している場合とは違う」とワインバーグ氏。

では、グーグルは何故検索履歴などを保存しているのだろう?

ワインバーグ氏によれば、「グーグルが、利用者についてこれほど様々な情報を保存する必要があるというのは神話だ。検索行為からグーグルが得る収入のほとんどが、利用者が検索エンジンに何を検索するか、から生じている。これ以外にはない」。

グーグルメールやユーチューブ(グーグル傘下)など、検索以外の利用から収入を得ることは難しい、とワインバーグ氏。結果として、「ネットを利用する間、常に広告が出ている」状態となる。ガーディアンは、ディスプレー広告のサプライヤー最大手ダブルクリックをグーグルが所有することを指摘する。

―「たいがいの人はグーグルを信頼」

検索エンジンについてのニュースを集めるサーチ・エンジン・ランドのダニー・サリバン氏は、「大多数の人は、プライバシーについて懸念を持つものの、検索をプライベートにしたいという人はほとんどいない」とガーディアンの記事の中で指摘している。グーグルの検索エンジンの利用は一日に130億件であるのに対し、DuckDuckGoは300万件なのだ。

その理由は、「たいがいの人は、グーグルを信頼しているからだ」としている。

***クッキー情報参考サイト

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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