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マイナ保険証が「マイナンバーを使う」という誤解はなぜ生まれるのか

山口健太ITジャーナリスト
マイナ保険証についてのリーフレット(筆者撮影)

マイナンバーカードと保険証の一体化を巡り、さまざまな議論が起きていますが、その中には「マイナンバーを使う」との誤解が見受けられます。このような誤解が生まれる背景として、マイナンバーカードの設計にも問題があると筆者は考えています。

マイナ保険証は「マイナンバーを使っていない」

マイナ保険証についてSNSやメディアの反応を見ていると、そもそも「マイナンバー」と「マイナンバーカード」の区別がついていない人がいるように見受けられます。

まず確認しておきたい点として、マイナ保険証では日本国内の全住民に振られている12桁のマイナンバー(個人番号)は使っていません。

これはデジタル庁などが配布しているリーフレットなどでも説明されています。

マイナ保険証でマイナンバーは使っていない(デジタル庁のリーフレットより)
マイナ保険証でマイナンバーは使っていない(デジタル庁のリーフレットより)

病院などの窓口ではカードを手渡すのではなく、読み取り機能を備えた端末にカードをかざして使います。物理的にカードの裏面を見られることはなく、システム上も医療機関のスタッフなどが患者のマイナンバーを知ることはできない仕組みです(顔認証に対応していない端末の場合はカードの表面を見せる必要があります)。

パナソニック コネクトによる「顔認証付きカードリーダー」(プレスリリースより)
パナソニック コネクトによる「顔認証付きカードリーダー」(プレスリリースより)

マイナ保険証が登場した背景として、2023年4月から病院などに「オンライン資格確認」の導入が原則義務化されます。現在の健康保険証も使えますが、医療機関のスタッフは保険証に書かれている記号や番号を手入力することになります。

そこでマイナンバーカードがあれば、ICチップ内の電子証明書と、「顔認証」または「4桁のパスワード」を用いて本人確認をした上で、オンラインの資格情報にアクセスできるというわけです。

追記:顔認証や職員による顔の目視確認だけで利用できる点は、通常の利用者証明用電子証明書の使い方と異なります。これは緊急時や、パスワードを忘れた高齢者などを想定していると考えられます)

オンライン資格確認の仕組み(厚生労働省の資料より)
オンライン資格確認の仕組み(厚生労働省の資料より)

もし、あらゆる情報のオンライン化に反対するといった立場であれば批判するのも分かりますが、そうでないのであれば、マイナ保険証自体は現在の保険証を安全かつ便利にするものと理解してよいでしょう。

セキュリティ面では、さすがに保険証を偽造する人はいないと思いたいところですが、うっかり有効期限を過ぎた保険証を使ってしまうとか、他人の保険証を不正に利用するといった行為はオンライン資格確認により防ぐことができます。

ただ、マイナンバーカードの普及率は50%を超えたばかりであることから、現在の保険証を2024年秋に廃止するという目標はチャレンジングといえます。このタイミングで期限を切ってしまったことで、無用な混乱を呼び起こした感は否めません。

また、マイナンバーカードの取得が義務化されるわけではないため、保険料をちゃんと払った上でカードを持たない人にどう対応していくかは、今後の検討課題となっています。

デジタル庁は一例として、保険証を紛失した場合に資格証明書を発行する仕組みを挙げています。しかし10月24日の岸田首相の答弁では、資格証明書とは別の新しい制度になるとしています。

その新制度が現行の保険証に近いものであれば、あえて保険証を廃止する意味がなくなってしまいます。どういう制度が望ましいかは、厚生労働省、総務省、デジタル庁による今後の議論に注目したいところです。

なぜマイナンバーを使うという誤解が生まれるのか

マイナ保険証にもいろいろと課題があることはたしかですが、少なくとも「マイナンバーを使う」というのは誤解といえます。

マイナンバーの用途は法律で決められており、具体的には社会保障や税、災害対策といった目的にしか使うことができません。

一方、マイナンバーカードのICチップ内の電子証明書を用いた公的個人認証(JPKI)サービスについては、広く民間での活用が進んでいます。

マイナンバーカードで利用できるアプリ(総務省の資料より)
マイナンバーカードで利用できるアプリ(総務省の資料より)

たとえばメルカリの本人確認はマイナンバーカードに対応していますが、これはマイナンバーを使っているわけではありません。

カードを読み取る方式では電子証明書を利用しています。自撮り方式もありますが、裏面を撮影する際にはマイナンバーが写り込まないよう、付箋などで隠すことを求めています。

ただ、こうした説明がなされているにもかかわらず、マイナンバーカードを使うことに不安を抱いている人は一定数存在するようです。

マイナンバーや公的個人認証の制度に詳しい人にとって、マイナンバーカードは複数の機能を兼ね備えた便利なカードといえます。

しかしこうした仕組みに詳しくない場合、「マイナンバーカード」という名前から受ける印象として、このカードを使うと何でもマイナンバーに紐付いてしまうと誤解している恐れがあるわけです。

このように誤解が広がっている状況でカードを普及させるには、必要以上に時間とコストがかかることになります。「反対派」にとっても、実態と違うものを想定して反対するのは建設的ではありません。

「ナンバーレス化」はあるか

10月13日のデジタル庁による説明を聞く限りでは、保険証廃止などのタイミングでマイナンバーカードのデザインを大きく変えることは考えていないようです。

これに対して、マイナンバーカードを「ナンバーレス化」してほしいとの声も定期的に上がっています。

すでにクレジットカードでは、ICチップやタッチ決済、アプリの普及により、カード番号を券面に記載しないナンバーレスカードが出てきています。その方が安心できるという声もあるようです。

マイナンバーカードについても、12桁のマイナンバーをアプリなどで確認する手段があれば、カードに記載しなくてもよいのではないか、というわけです。その際には、マイナンバーカードという名称についても再考を期待したいところです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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