2ちゃんねる商標権裁判 今までのあらすじ
「ひろゆき氏主張の”2ちゃんねる”乗っ取りを認定、元運営法人に2億円超賠償命令 知財高裁」というニュースがありました。
ということです。
現時点では、知財高裁の判決文は公開されていません。一般に知財高裁の判決文のほとんどは裁判所のウェブサイトで公開されます。ただし、個人情報や企業の機密情報の黒塗りの手続等により公開まで時間を要することはありますので、気長に待ちたいと思います。
判決文公開前に憶測で書くことは好ましくないので、本記事では、今まであったことをまとめておきましょう。
大まかな経緯について
今回のもめ事の発端は、西村博之氏が、2ちゃんねるの運営を個人からNTテクノロジー社パケットモンスター(追記:ひろゆきさんにツイッターで指摘されてしまいましたので訂正します)というサーバー管理会社に移譲したことにあります。真相は不明ですが、当時、2ちゃんねるに対しては、様々な民事訴訟が提起されており、個人としての責任を避けるために一時的にNTテクノロジー他社が運営していたという体にしたかったという苦肉の策と見られています。その時に、ほとぼりがさめたらまた権利を戻すという話を口約束レベルでしかしていなかったので言った言わない問題になっているわけです。その後いろいろあって外部からはよくわかりませんが、西村博之氏としては「乗っ取られた」ということであり、運営会社としては「当事者の合意の下に事業承継された」ということになってしまっています。
なお、2ちゃんねる(現在の5ちゃんねる)掲示板の運営は、NTテクノロジー社(N.T. Technology Inc.)→レースクイーン社(Race Queen, Inc)→ロキ社(Loki Technology, Inc)と事業承継されていますが、経営者はずっとジム・ワトキンス氏(関連Wikipedia記事)のままで実質的に同じです(本記事で「運営会社」と総称することがあります)。
商標権について
「2ちゃんねる」「2ch」の商標権は西村博之氏個人が所有しています。これについては記事を書いています(関連過去記事1、関連過去記事2)。その後、運営会社が無効審判を請求していますが、棄却され、いずれの商標権も現時点で西村博之氏が正当な権利者となっています。今回の訴訟はこの商標権に基づくものです。
ドメイン名について
今回の判決には直接関係ないと思いますが、2ch.netのドメインは運営会社が所有していると思われます。2016年に、西村博之氏がドメインを奪還すべくWIPOの調停を求めましたが認められていません(関連過去記事)。
差止請求について
2018年に、2ちゃんねるは5ちゃんねるに名称変更されていますので、差止請求はもう関係ありません。問題とされているのは、過去の侵害行為に対する損害賠償だけです。
地裁判決について
今回の知財高裁の原審(東京地裁)の判決文(令和元年12月24日)は公開されています(原告名はAと匿名化されていますがまったく意味がないですね)。
いくつか争点がありますが、最も重要なのは運営会社による先使用権が認められたことで商標権侵害が否定されたことです。商標における先使用権とは商標の出願前からその商標を使用して周知の状態にしていた場合には商標権の効力は及ばないという規定です。西村博之氏の商標登録出願は2014年ですが、それ以前から運営会社(当時はレースクイーン社)が2ちゃんねるの商標を使用して周知の状態にしていたと認定されています。
おそらく、知財高裁判決ではこの先使用権に関する判断が覆ったものと思いますが、判決文公開を待ちたいと思います(公開されたら速攻で記事化する予定です)。
ところで、誰もが思うことだと思いますが、運営会社は損害賠償支払いをばっくれて「死刑になるなら支払う」とか言い出しそうな気がします(同社が日本国内に差し押さえ対象になる資産を持っていればまた別ですが)。