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バルセロナ、パリSG、シャルケ……。サッカークラブがeスポーツに参画する本当の狙いは何か?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

Jリーグも本腰を入れるeスポーツ市場

「eスポーツは世代や性別、障害の有無を超えてさまざまな方に親しまれており、サッカーの楽しみ方を伝えていくうえではひとつの有効な手段。eスポーツを通じてサッカーの魅力が少しでも多くの人々に伝わればと、共催を決めました」

 モバイルゲーム『ウイニングイレブン 2019』を競技タイトルに使用したeスポーツ「eJリーグ ウイニングイレブン 2019シーズン」を、株式会社コナミデジタルエンタテインメント(コナミ)と共同開催することを発表したJリーグ村井満チェアマンは、Jリーグがeスポーツ事業に参画する狙いについて、そのように説明した。

 Jリーグは、昨年もエレクトロニック・アーツ(EA)社のサッカーゲーム『FIFA18』を競技タイトルとして「eJ.LEAGUE」を開催するなど、ここにきてeスポーツへの参画に積極的な姿勢を見せている(今年も『FIFA19』グローバルシリーズに参戦することを発表)。

 近年急拡大を続けるeスポーツ市場の現状からすれば、そこに自ら足を踏み入れてJリーグの新しいファンを開拓し、ブランド価値を高めたいと考えるのは自然の流れと言えるかもしれない。

 ただ、世界のサッカーシーンとeスポーツの関係性は、その先を行く。

 たとえば昨年の「eJ.LEAGUE」の勝者が参加した『FIFA eWorld Cup 2018』は、その象徴だろう。

 同大会を主催するのはFIFA(国際サッカー連盟)であり、彼らとパートナー契約するEA社の世界的サッカーゲーム『FIFA』シリーズを競技タイトルとした前身の『FIFA Interactive World Cup』は、2004年12月にスタート。テクノロジーの進化とともに、近年はその規模を急激に拡大させている。

 とりわけ、ジャンニ・インファンティーノ現FIFA会長が、2016年10月に発表した基本方針「FIFA 2.0」のなかでeスポーツ事業の強化を明記したことで、2018年大会からは『FIFA eWorld Cup 2018』に改称。昨年8月にロンドンで行なわれたグランドファイナルには各予選を突破した19カ国計32人のeスポーツプレーヤーが『FIFA18』で世界の頂点を争い、優勝者には賞金25万USドル(約2800万円)が与えられた(賞金総額は40万USドル=約4400万円)。

 ここまでくると、もはやeスポーツは単なる娯楽というより、ひとつの競技としてとらえるほうが自然だろう。

クラブとeプレーヤーの良好な関係

 では、なぜそこまでしてサッカーはeスポーツにエネルギーを注ぐのか? その理由は、ヨーロッパの一流サッカークラブがひと足先に推進してきたeスポーツ事業の例を見てみるとわかりやすい。

 たとえば、フランス随一のビッグクラブとして世界的に知られるパリ・サンジェルマン(PSG)は、2016年10月にeスポーツ事業を推進する新部署「PSG eSports」を立ち上げ、『FIFA』シリーズのプレーヤー2人と契約。その他、サッカーゲーム以外にも、世界で最大の人気を誇るとされるアメリカのライアットゲームズ社のPCゲーム『League of Legends』のチームを結成し、ヨーロッパの大会(European Challenger Series)に挑戦するなど、本腰を入れてeスポーツに取り組んでいる(現在は『League of Legends』以外の6競技のチームが活動中)。

 もちろん、彼らがeスポーツ部門を立ち上げた最大の理由は、PSGブランドを世界に広め、バルセロナ、レアル・マドリー、マンチェスター・ユナイテッドといった世界トップのビッグクラブに追いつくためだ。本業のサッカー以外のアプローチによって認知度を高め、とりわけゲームに夢中になっている若者を中心としたファン層を獲得したいという狙いが見え隠れする。

 チャンピオンズリーグでの活躍、あるいは夏のアメリカツアーやアジアツアーなども、フランス以外の各地域のファン獲得には重要な要素ではある。しかし、グローバルに急拡大するeスポーツ市場への参入には速効性という大きなメリットがある。

 しかも、サッカーゲーム以外のチームを持てば、たとえば『League of Legends』の国際大会でPSGのユニフォームを着たプレーヤーが戦っている姿を見せることにより、まだ特定のサッカークラブを応援していないサッカーファン以外の層を取り込める可能性もある。

 一方、eスポーツプレーヤーにとっても「PSG eSports」に所属するメリットはある。それまでは自分だけの判断に頼って腕を磨くことに励んでいた彼らは、フィジカルや食事面で的確なアドバイスを受けながら、一流のプロサッカークラブが与えてくれる環境でトレーニングを積むことができ、より高いレベルに成長することができる。

 実際、「PSG eSports」が2017年からPC製品などで世界的に知られる台湾の「ASUS(エイスース)」社とスポンサー契約を結んだことで、所属プレーヤーたちはゲーミングPC、ラップトップ、モニタといったASUS社の製品を使って、ベルリンのゲーミングハウスでトレーニングを行なっている。

 また、クラブから安定した報酬を受け取ることで、プロのeスポーツプレーヤーとして社会的に認知されることも、彼らにとっては大きな魅力となる。

eプレーヤーがクラブ間移籍をする時代

 そのパリ・サンジェルマンは、昨年7月にシンガポールのeスポーツチーム「Team Flash」とパートナー契約を締結。トップチームがインターナショナルチャンピオンズカップのシンガポールラウンドに参戦するタイミングで、eスポーツ部門の『FIFA』シリーズチーム2名を同行させ、「Team Flash」と共同で『FIFA』のエキシビション大会「PSG eSports Challenge 2018」を開催した。

 その大会に注目したゲームファンが、同時にシンガポールで行なわれたリアルのサッカー大会、インターナショナルチャンピオンズカップを戦うPSGにも興味を注いだ可能性は十分にあると見ていいだろう。

 もちろんPSG以外にも、積極的にeスポーツに力を注いでいるクラブは多い。2015年からeスポーツチームを立ち上げたドイツのヴォルフスブルクをはじめ、シャルケ(ドイツ)、ウェストハム(イングランド)、バレンシア(スペイン)、最近ではスペインのバルセロナも参画するなど、多くの有名クラブがeスポーツ部門を立ち上げている。

 日本のJクラブを含め、現在eスポーツに参画するクラブは世界で150以上とされるが、そのなかには彼らが野蛮と判断したシューティングゲームを対象から排除するクラブもあれば、デンマークのFCコペンハーゲンの「Team North’s」ように、地元以外の地域でのブランディングのためにはそれも辞さないという哲学を持つチームもある。

 eスポーツプレーヤーもクラブを選ぶ時代が到来しており、リアルのサッカー選手のようにクラブ間を移籍するケースも出てきている。

 ますます親密になっているサッカーとeスポーツ。今後は、世界で5Gの普及が進むことによって、eスポーツを取り巻く環境が劇的に変わることは必至だ。

 そんな近未来に向かって、サッカーはリアルとバーチャルの世界がより密接な関係で、ともに進化を遂げていくことになるだろう。

(集英社 Web Sportiva 3月12日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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