Yahoo!ニュース

【将棋】女流棋士の全順位&戦法の傾向を徹底分析!~第1期ヒューリック杯白玲戦・女流順位戦 最終結果~

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
白玲戦では振り飛車が大人気だった。 記事中の画像作成:筆者

 2020年11月13日に記念すべき第1期が開幕したヒューリック杯白玲戦・女流順位戦は七番勝負を残して全対局を終えた。

 女流棋士の全順位が決まり、来期のクラス分けも確定した。

上位陣強し

第2期の予定順位。以下のクラスも同様。なお順位1位には七番勝負の敗者が入る
第2期の予定順位。以下のクラスも同様。なお順位1位には七番勝負の敗者が入る

 全員横並びのスタートだったが、結果的には非公式のレーティングで上位10名(8月14日時点、以下も同)がほぼAクラス入りして順当といえる結果におさまった。

 異彩を放つのはA級3位となるプロ入りわずか3年の加藤(圭)女流二段だ。順位決定トーナメントではあと1勝でタイトル戦出場、というところまで迫った。

 以前の記事で、タイトル戦の「第1期」はシンデレラが生まれやすい

と書いたが、まさにシンデレラストーリーを歩んだ第1期だった。

 最後は西山朋佳女流三冠、里見(香)女流四冠に連敗。「2強」の壁に当たった経験を次に生かしたい。

 Aクラスは20代8名と若手の天下である。その中で、Bクラス以上でも唯一の50代である中井女流六段のAクラス入りは見事だ。将棋の内容も良く、第2期以降も若手の天下に待ったをかける存在となるだろう。

 棋士でいうと増田康宏六段(23)と同学年なのが山根女流二段だ。そして石本女流二段はさらに山根女流二段の1学年下である。

 棋士でも20代前半でAクラス入りする人はほとんどいない。二人とも実績があるとはいえ非常に立派な成績といえよう。

 山根女流二段と石本女流二段には「2強」を崩す存在として期待がかかる。来期に注目したい。

次のAクラス入りをかけて

 Bクラスは2つに分けられる。

 一つはAクラスを逃したメンバー、もう一つはBクラス入りを喜ぶメンバーだ。

 レーティングで上位10名のうち、Aクラス入りを逃したのは上田女流四段と香川女流四段だ。今期は不本意な結果といえよう。

 逆にレーティングで上位20位までに入っていないのにBクラス入りを果たしたのが、伊奈川女流二段、北村女流初段、武富女流初段、小高女流初段の4名だ。

 小高女流初段は最終戦で室谷女流三段との順位決定戦に勝ち、Bクラス入り最後の切符をつかんだ。この対局は気持ちのこもった素晴らしい戦いで、終盤の二転三転を小高女流初段が制した。

 年齢でいうと、小高女流初段は藤井聡太二冠(19)と同学年である。10代で唯一のBクラス以上であり、いま最も期待される10代女流棋士といえよう。

 藤井二冠と同学年の女流棋士は他にも3名いる(加藤結李愛女流初段・大島綾華女流1級・山口(仁)女流2級)。

 「藤井世代」が女流棋界でも活躍するか、注目だ。

 来期の昇級争いはAクラス入りを逃したメンバーが中心となるだろう。しかし7~10位あたりの若手も実力を上げてきており、大化けする可能性も十分に秘めている。

上位を目指して

 Cクラスは若手とベテランが入り交じる結果となった。

 実績のある清水女流七段・矢内女流五段・本田女流三段は序盤から波に乗れずBクラス入りを逃した。

 最も意外なのは前年度タイトルまであと一歩と迫った室谷女流三段である。

 この辺りのメンバーは来期の昇級候補といえるが、野原女流初段など伸び盛りの若手女流棋士にもおおいにチャンスがありそうだ。

 唯一の外国籍であるカロリーナ・ステチェンスカ女流初段は、先日休場を発表した。

カロリーナ・ステチェンスカ女流初段、休場のお知らせ(日本将棋連盟HPより)

 コロナ禍で長い期間にわたり帰国が出来ず、また帰国すれば日本になかなか戻ってこられない状況である。

 いまは異常事態であり、家族との時間を大切にしてほしいと筆者は願っている。

 そのカロリーナ女流初段の休場直前の対局はこの白玲戦の最終戦で、素晴らしい内容の将棋で完勝だった。

 さてA~Cクラスに入らなかった女流棋士は全員Dクラス入りとなる。

 こちらは新女流棋士も加わるため、まだ人数が確定していない。

 聞き手として人気の山口恵梨子女流二段らがDクラスからのスタートになる。

 山口(恵)女流二段は第11期リコー杯女流王座戦では本戦準決勝まで進出しており、今期は物足りない結果となった。

 また先ほどの「藤井世代」の女流棋士も小高女流初段以外はDクラスからのスタートとなる(大島女流1級は第2期より参加)。

 新人の内山あや女流2級、山口稀良莉女流2級と共に、先輩女流棋士にどこまで食らいつけるか注目される。

振り飛車が大人気

 ここからは戦法の傾向について分析していく。

 第1期はここまで計319局が指されている。

 そのうち、振り飛車が60%を占め、さらに相振り飛車も20%程度ある。

 信じられないほど、振り飛車比率が高い。

 相居飛車は全体の20%程度。これは棋士の公式戦の数字と比べると驚愕の少なさといえよう。

 Aクラス入りした9名(七番勝負進出者を除く)をみてみると、居飛車党と振り飛車党の比率は半々である。Bクラスも同様だ。

 つまり下のクラスほど振り飛車党が多いということになる。

 振り飛車の中でも角道を止める指し方が人気で、振り飛車全体の7割程度を占める(分類が難しいものもあるため、おおよその数字)。

 棋士の公式戦でも振り飛車が増えており、その中でも角道を止めた三間飛車が人気だが、女流棋士の公式戦ではその傾向が顕著である。

 そして七番勝負に進出したのは、「2強」の一角で振り飛車党の西山女流三冠と、「2強」の一角を崩した居飛車党の渡部女流三段である。

 この頂上決戦は女流棋士の頂点を争うと同時に、女流棋界における居飛車と振り飛車の覇権争いという側面もある。

 女流棋士に振り飛車党が多いのは、長年頂点に君臨する里見(香)女流四冠の影響が大きい。

 ここでもし渡部女流三段が頂点に立てば、その流れが変わる可能性もおおいにある。

 七番勝負は9月11日(土)に開幕する。記念すべき第1期の頂上決戦をそんな視点から注目するのも面白いだろう。

 さて、第1期を盛り上げる一つの要因ともなった、BSフジで放送中の『白玲 ~初代女流棋士No.1決定戦~』。

 毎回様々な女流棋士に密着して知られざる素顔が見られると好評だ。

 次回は8月15日(日)に予定されており、筆者もちょっとだけ出演する。

 リンク先では過去の放送回を観ることも可能なので、合わせてご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事