終わりの見えない北朝鮮の食糧難「コロナのときより悪い」
「農業第一主義」を掲げ、穀物生産の増産を至上命題として掲げている北朝鮮。ところが今年の農業は、始まる前から躓いてしまっている。
ゼロコロナ政策下の3年間、貿易が完全にストップしたことで深刻な食糧難に襲われた。貿易は徐々に再開されているものの、食糧難の解決には至らず、それが農業生産に影響を与えている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
両江道(リャンガンド)の農村経理部門で働く情報筋によると、北部山間部にある両江道と慈江道(チャガンド)では、ゼロコロナ政策下にあった昨年よりも食糧難が深刻だ。地域の農場で働く農民の4割ほどは、空腹のため農場に働きに出られずにいる。
新型コロナウイルスが流行していた昨年5月、当局は人々の接触を避けるために、家族ごとに一定の土地を貸し与え、農作業を行うようにしていた。そのため、多くの人が農場に働きに出ることができた。
しかし、深刻な日照りと大雨により、ジャガイモとトウモロコシは大凶作となった。より南にある黄海北道(ファンヘブクト)や江原道(カンウォンド)の協同農場でも食糧問題が深刻だが、両江道や慈江道に比べるとまだマシだという。
ジャガイモの名産地として知られる両江道の大紅湍(テホンダン)では、深刻な日照りにより1ヘクタールあたりの収穫量が8トンから15トンに留まった。種イモの量が8トンだったため、プラマイゼロというところもあったということだ。また、窃盗事件が相次ぎ、畑に植える種イモが非常に不足しているという。
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その影響で、今月18日の恵山(ヘサン)の市場でのジャガイモ価格は1キロ2000北朝鮮ウォン(約32円)と、2015年以降で最も高くなっている。地域の食糧難がいかに深刻かを示している。
正確な数は不明ながら、現地では餓死者が続出しているようだ。
別の情報筋は、朝鮮労働党中央委員会から、地元の党委員会や行政機関の長に対して「餓死者を発生させた機関、協同農場の党委員会、行政責任者は厳罰に処す」との指示が今月8日に下されたと伝えた。
中央は餓死者の発生を深刻に捉えてはいるようだが、その対策は地域に丸投げしている。協同農場の管理委員長や党委員長は、飢えている人に分け与える食べ物がないため、トンジュ(ニューリッチ、進行富裕層)から、秋の収穫後に2倍にして返す条件で食べ物を借りて、餓死しかねない農民に分け与えている。
収穫物の多くは国や軍に供出しなければならないが、それに加えてトンジュへの返済もしなければならない。そうなると、農民への分配量が減り、また再び飢餓に苦しむことになる。
収穫量を増やすには、農民のやる気を引き出すインセンティブ制度の導入が欠かせないが、一部で試験的に導入されていたこの制度も廃止の方向に動いている。食物流通の主導権を民間から取り返そうとする動きの一環と思われる。
非効率な集団農場をやめて、全面的なインセンティブ制度に切り下げ、「支援はしても口出しはしない」方式で進めなければ、農業生産の回復が望めないことは火を見るよりも明らかなのだが、北朝鮮はなぜか逆を行っている。