Yahoo!ニュース

アカデミー賞「視覚効果賞」受賞の『ゴジラ-1.0』の進化と『キング・コング』の進化を比べてみた

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー
イメージ

(※本記事には独自の解釈や個人的な主観が多く含まれます。また、端的に言うと『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞「視覚効果賞」受賞を喜んで浮かれているだけの内容です。細かなことは気にせず一緒に楽しんでいただける方だけお読みください)

昨日、ついに映画『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』が米国のアカデミー賞で視覚効果賞を受賞しましたね。

視覚効果賞は、その名の通り最も優れた視覚効果を使った作品に送られる賞です。映画のヴィジュアル面が素晴らしかったために受賞した。つまり、映像の迫力やゴジラの怖さが高く評価されたということでしょう。ある意味では「ゴジラという怪獣」が受賞したと言っても過言ではないかも知れません。

視覚効果賞の歴代受賞作

歴代の受賞作を見返して見ると、当然ながら世界的な名作ばかりで、どれも圧巻の映像が記憶に残っている作品の名前が並んでいます。ざっと例を挙げると、『インターステラー』(2015)、『ロード・オブ・ザ・リング』(2002)、『タイタニック』(1998)など。ここにゴジラが加わると思うと、なんだか感慨深いですね!

そんな歴代受賞作の中に、気になるタイトルを見つけました。『キング・コング』(2005)です。この作品は2006年のアカデミー賞で視覚効果賞を受賞しています。

キング・コングはアメリカを代表する怪獣で、しかも、ゴジラとキング・コングはアメリカのメディア・フランチャイズ『モンスター・ヴァース』の中心となる存在です。

後輩「ゴジラ」とキング・コング パイセン

第1作の『ゴジラ』は1954年で、『キング・コング』はそれより前の1933年に公開されています。つまり、キング・コングの方が21年先輩になるわけです。

そして、キング・コングは『キング・コング』(2005)で一足先に視覚効果賞を受賞し、ゴジラが『ゴジラ-1.0』でキング・コング パイセン(先輩)に追いついたわけです(視覚効果賞に限って言えば)。

しかも、両者とも過去からの続編ではなく、第1作のリメイク的な作品であるという点も共通しています。そう思って見ると、第1作の発表の時間差と、視覚効果賞受賞の時間差とが、いずれも約20年というのがなかなか面白いと思いませんか?

そんなことを考えていると、しばらく見ていない『キング・コング』(2005)が見てみたくなりました。ということで、今回は『キング・コング』(2005)を見直してみて、『ゴジラ』と『ゴジラ-1.0』の違いと、1933年と2005年の『キング・コング』の違いについても考えてみようと思います。

『ゴジラ』(1954)、『キング・コング』(1933)を見たときのことはこちらの記事をご覧ください。
日米の“元祖”怪獣映画『ゴジラ』、『キング・コング』を見直してみると・・・

キング・コング(2005)

キング・コングは『キングコング』(1976)でも1度リメイクされていて、本作(2005年版)が2度目のリメイク作です。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでも知られるピーター・ロバート・ジャクソンで、ナオミ・ワッツ、エイドリアン・ブロディ、ジャック・ブラックなどそうそうたる顔ぶれが出演しています。そして、アカデミー賞「視覚効果賞」他を受賞しています。

本作は『キングコング』(1976)と比較して、より初代(1933版『キング・コング』)を意識したストーリーになっていました。途中の流れや描かれ方は違いますが、展開や結末はほぼ初代と同じです。

ただ、初代と明らかに違っていたのはコングの造形でした。初代のコングは半人半獣の巨大生物という姿をしていましたが、本作は巨大なゴリラの姿をしています。また、アンと心を通わすシーンもありました。
初代コングのキャラクターは野蛮な害獣のように描かれていましたが、理性を持った神秘的な動物という描き方へと変化しているように感じます。

ゴリラ
ゴリラ

『ゴジラ-1.0』と『キング・コング』(2005)が目指したもの

「キング・コング」はコングは毛並みなどが生き生きとリアルで、恐ろしいだけでなく愛嬌のあるキャラクターになっていました。そのおかげで、映画のワクワク感がとても強く感じられました。また、冒険シーンの過酷さや自然のダイナミックさもインパクトがあり、ロマンチックなシーンの美しさもとても魅力的でした。

初代の「アドベンチャー+恋愛」的な要素を煮詰め、アドベンチャー作品としての魅力を最大限にまで引き出したかったのかもしれません。そして、その映像表現が、「視覚効果賞」受賞の要因となったのでしょう。

一方、「ゴジラ」は、初代(1954年版『ゴジラ』)も怖いですが、『ゴジラ-1.0』のゴジラはより怖くなっているように思います。そして、初代は「もしかしたら世界のどこかにいるんじゃないか?」と思えるような見た目をしていましたが、『ゴジラ-1.0』のゴジラは極めてリアリティのある映像でありながら、実在しそうもないほど恐ろしい見た目になっていました。

まとめ
まとめ

『ゴジラ-1.0』と『キング・コング』(2005)の両者とも初代のリメイク的な作品でありながら、キング・コングは親しみやすく生まれ変わり、ゴジラはより近寄りがたく生まれ変わるという違いがとても面白かったです。

そして、『ゴジラ-1.0』ゴジラがあれだけ恐ろしくリアルな映像で描かれているのに、生々しい描写がほとんどないのもすごいことだと改めて思いました。

行き交う人たちもろとも街が吹き飛ぶシーンなど、本来なら死屍累々の惨状が描かれているべきところですが、目を覆うような残酷な描写は全くありませんでした。
そのうえで、あれだけの迫力と恐ろしさを描いたのですから、今にして思うと視覚効果賞を受賞するのも当然と言えるでしょう(受賞前にはドキドキしていましたが)。

来月には『ゴジラxコング 新たなる帝国』も公開予定ですが、それまでにもう一度、劇場公開中の『ゴジラ-1.0』や、配信等で見られる初代『ゴジラ』やキング・コングの初代と2005年版を一気に見直しておくのも楽しそうです。

上記リンクの他、X(旧Twitter)や過去の記事でも、関連する情報を発信しています。興味のある方はご覧ください。

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

渡辺晴陽の最近の記事