5割台が「厳しい」意識…生活意識の変化をさぐる(2020年公開版)
生活のゆとり感は個人の経済的な貧富実態だけでなく、心境や流布情報にも大きく左右される。厚生労働省の定点観測調査「国民生活基礎調査」(※)の公開値から、その推移と現状を確認する。
今回確認する生活のゆとり感、すなわち「生活意識の状況」は生活意識について「大変苦しい」「やや苦しい」「普通」「ややゆとりがある」「たいへんゆとりがある」の5選択肢から1つを選んでもらい、その回答を集計したもの。その経年変化を記したのが次のグラフ。全体構成比の変化の他に、個々の項目の動きを把握しやすいよう、各項目毎の動向を記した折れ線グラフも併記する。
景気動向による「ぶれ」はいくぶんあるものの、中長期的に見ると一貫して「大変苦しい」単独、そしてそれと「やや苦しい」を合わせた「苦しい派」(赤系統色部分)が増加していた(「やや苦しい」は前世紀末から大きな変化は無し)。1993年の大幅増加はイレギュラー的な感が強いが(バブル景気が崩壊した時期と重なるため、そのための景況感悪化の可能性もある)、それ以外は2009年まで漸増、それ以降は数年にわたり大きな増加率を示しているのが確認できる。特に「大変苦しい」の回答者率が2011年にかけて大きく増えたのが目に留まる。同時に「ややゆとりがある」がわずかだが減っているのも分かる。
これが2007年夏以降に具象化した金融危機(サブプライムローンショックやリーマンショック)によるものか、あるいは政治的失策によるものかまでは、今件調査結果だけでは判断できない。ただし経済的には大きなマイナス面での変化をもたらしたリーマンショック以降に大きな増加が起きており、景況感に多分な連動性があることは容易に推測できる。
また2011年に大きく「苦しい派」が動き、2012年から2013年にかけて多少なりとも戻しているのは、2011年における震災の影響と、その反動によるものと考えられる。
さらに2014年は再び「大変苦しい」が増加し「ややゆとりがある」が減っている。これは消費税率引き上げが2014年4月に行われ、その直後の2014年7月に今項目の調査が実施されていることから、心理的な重圧感が多分に作用したものと考えられる。それ以降は景況感の変化を受け、「大変苦しい」は大きく減り、結果として「苦しい派」は減少。生活意識の変化傾向に大きな変化が起きている感はある。直近の2019年では金融危機ぼっ発前後と同じ水準、むしろそれ以上のよい状況に至っている。
いずれにせよ現実問題として、「いわゆる『一億総中流意識』はすでに過去のもの」「生活に苦しさを覚える人は5割台」との結果には違いない。この現状は覚えておくべき。「中流意識は遠くになりにけり」である。
ちなみに2019年における世帯種類別の割合は次の通り。
全世帯よりも高齢者世帯の方が「苦しい派」は少なめ、児童のいる世帯の方は多めとなっている。そして母子世帯の生活感の苦しさは注目に値する。あくまでも回答者の心理的な部分が多分にあるとはいえ、下側2項目の属性における傾向には、大いに留意を払い、状況改善の施策への優先順位を押し上げるべきだろう。
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※国民生活基礎調査
全国の世帯および世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2019年6月6日に世帯票・健康票・介護票、同年7月11日に所得票・貯蓄票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収の上集計が可能なデータは世帯票・健康票が21万7179世帯分、所得票・貯蓄票が2万2288世帯分、介護票が6295人分。今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2019年分)は大規模調査に該当する年であり、世帯票・所得票以外に健康票・介護票・貯蓄票の調査も実施されている。
また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分はデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。
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