【K-POP論】LOVELYZスジョンの新曲“Tiger Eyes”。これが「今、しっくりくる」理由
”気怠くもクールな猛獣”を表現
2020年という年の、5月下旬という時間。
テンションを静かな方にセットして黙々とやるべきことをやるべき時ではないか。
日常生活の制限はまだまだ続く。ここから梅雨が来る。なかなか「パーッと発散」とはいかない。だから次に良い時が来るのを虎視眈々と伺うのだ。
そんな折にリリースされたばかりのK-POP楽曲をひとつ。
“Tiger Eyes”。
LOVELYZのリードボーカル、リュ・スジョンの初のソロ曲だ。5月20日18時に公開された同名ミニアルバムのタイトル曲でもある。
”気怠くも、クールに異性を狙う猛獣を表現した楽曲”。魅力的な相手の視線を’Tiger Eyes’に比喩。虎の目線から見える自分の思いや動きを表現している。
作詞にはLOVELYZの「Ah-Choo」も手掛けたソ・ジウム、作曲にはSean Alexander(少女時代「Lion Heat」など), Mayu Wakisaka(Twice「Knock Knock」など), Phil Schwan(Produce X 101「To My World」など)の3人が携わった。
相手の目線から見える自分を表現
楽曲はかなり短いイントロの後、静かなテンションから始まる。
Tiger Eyes セッカマン ノエ マム(真っ黒なあなたの心)
’Tiger Eyes’とは「魅力的な相手(男性)の視線」を比喩したもの。
虎の目で見ているあなたの視線からは、私も「気怠くクールにあなたを狙う野獣」に見えるでしょう? 最後には逃れられない濃密なトラップにハマっていくのよ。
そんな世界観が始まっていく。
歌詞は相手を突き放しつつも、やっぱり魅了されている、というフレーズに続く。
ノヌン ノーラン ピョジョンウロ アムマル モッタゴ クドボリン チェロ(あなたは驚いた表情で何も言えずに固まったまま)
クジ キン マルン ピリョ オンヌン Game(あえて長い時間は必要ないGame)
注目すべきはこの次のパートだ。よくある楽曲の構成だと、”サビ部分の盛り上がり”へと繋がる。
ましてや今回はタイトルに「虎」が入る。さらに彼女自身は過去に自身のプロフィールで「高低差がある歌を歌える」と言っていた。清純派として知られてきた彼女の「イメチェン」からして強めのリズムとともに「心の内の叫び」などを歌いそうだ。
しかし…そうではないのだ。予想外がある。このパートを静かに歌う。
ウンミョンウン タラナルス インヌンゲ アニャ(運命からは逃げられるものじゃないわ)
あら? 一度も”ドン”と盛り上がるパートがないの? 静かなまま終わるの? そんな印象も抱く。
その後、「あなたの目からは野獣に見えるはずの私に、惹かれているでしょ?」という歌詞へと続く。
あなたが緊張して視線を移した瞬間
かすめていった黒いシルエットを見た?
背筋がゾクッとしたでしょ?
頭の先からつま先まで(Come down)
さらに「私の味方になったほうが賢い。分かるでしょ?」と言い、ラスト近くではいわゆる”Aメロ”部分のパートが、違う歌詞で歌われる。
Tiger eyes 蜂蜜みたいに甘い
でも危険なこの視線(もっとこっちに来て)
Tiger eyes 夢みたいに朦朧としてる
でも痺れるこの視線(Come down)
これで”濃厚なトラップ”が完成、というところだ。
制作サイドが表現したかった点はこうだ。
魅力的な相手の視線を ‘Tiger Eyes’に比喩。これを眺め、深くハマっていく過程を「猛獣の気怠くもクールな動き」で描写した感覚的な歌詞が印象的。POPを基盤にEDMの要素をほどよく溶かし込んだ洗練された印象を与える。そこにリュ・スジョンの魅力的なボイスと幻想的なイメージが合わさり、特別な個性を見せる(所属事務所のプレスリリースより)
流行りのガールクラッシュに多い、強い主張のあるものでもない。清純派でもない。独特の存在感だ。細身の168センチの長身が妖艶に舞い、これを表現する。
少女時代「Lion Heart」を手掛けた作曲家も制作に参加
静かに始まり、静かに終わる。「虎」と聞くと「猛獣の叫び」あたりを想像しそうだが、そうでもない。
もちろんすべての’楽曲が季節や時代性を反映したものではない。ただ、この”Tiger Eyes”で多く繰り返されるフレーズから感じるところがある。
「運命からは逃げられるものじゃないわ」(ウンミョンウン タラナルス インヌンゲ アニャ)
リュ・スジョンはこれを「私からは逃げられないのよ」というニュアンスで歌う。ただ、2020年5月の今この時に聞くと筆者自身は「運命」の言葉に”含み”を感じ取った。
繰り返しになるが、”Tiger Eyes"という、あちらの目から見える世界観を表現している(この楽曲を理解するのに非常に重要なポイント)。そこに乗ってあげるわ。でも最後に罠にはめるのはこっちなのよ。これ、今の時代の状況と重ねて「あちらにコントロールされるしかないから、あちらに合わせる。でも最後に勝つのはこちら」という話ではないか。読み過ぎだろうか。
「この、静かに過ごすべき時間」にしっくりとくるなと感じた。黙々とやれることに取り組む心理をそっと代弁してくれるような楽曲。ちょっと暗い気持ちにもなるこの時、「音楽だけでも明るく」となりそうだが、そこにはいかない独自性。前述したこの曲の作曲家のひとりSean Alexanderは、少女時代「Lion Heart」で静かな楽曲を見事に聴かせたものだが、ここでも手腕を発揮したというところか。あのときはライオンで、今回は虎。
韓国のサイトではこんな解釈もある。’Tiger Eyes’は宝石の名にも似ている。石英系の宝石で「虎眼石(そのまま「タイガーアイ」としても知られる)」。石英系の宝石は「水晶」と同じ系列という定義もある。「水晶」は韓国語で読むと「スジョン」。ここを引っ掛けているのではないかと。こちらも深すぎる読みにも見えるが! ちなみに彼女の名前は「洙正(スジョン)」と書く。
ひとつだけ、ファクトに即したこの楽曲の読み方があるとすればこの点だ。
”ギャップ”
再び制作者の意図を。事務所側のリリース。
2014年のデビュー後、「アンニョン(Hi〜)」、「Ah-Choo」、「Destiny」など特有の叙情的なダンス曲で独歩的な地位を確立してきたLOVELYZのリードボーカル、リュ・スジョンが最初のソロアルバムを披露する。
LOVELYZのメンバーの中で二番目にソロアルバムを発売するリュ・スジョンはかわいらしい顔と相反するハスキーボイスでリスナーたちの支持を受けてきた。リュ・スジョンのボーカルだけで満たされた今回のミニアルバム[Tiger Eyes]への期待感が増している。
タイトル曲「Tiger Eyes」は、LOVELYZの代表曲「Ah-Choo」の作詞家が手掛けた。猛獣の「気怠くもクールな動きを描写した感覚的な歌詞」と、リュ・スジョンの濃厚なボイスが一体となって完成度を高める。派手なパフォーマンスと破格的なビジュアル変身。目を背けられない魅力を披露した。
彼女が東京でのオフで行った場所は?
このギャップという点は、本当のことだ。”Tiger Eyes”ではクールな曲を表現しているが、取材を通じて知る彼女はとても表情豊かな人だ。
2014年、LOVELYZとしてのデビュー当時は17歳になる直前。前髪を揃えた丸顔が、力いっぱい歌う姿が印象的だった。後に筆者は2018年秋、LOVELYZのメンバーとしての活動時に作曲家にインタビューしたが、こんなエピソードが出てきた。
「レコーディングの際、“撮り直し”をお願いすると、泣きながら笑顔で「はい」と答え、泣きながら歌うんですよ~」
その後、2019年2月にLOVELYZのメンバーの一員として本人にインタビューした際には、こちらが何を喋ってもものすごくよくウケてくれた。本当によく笑う。「泣きながらレコーディングするらしいですね」と言うと、「2回だけですよ~」といいながらまた笑っていた。
いっぽう、この時(日本でのプロモーション活動時)のオフには「原宿のビンテージショップ巡り」をしていたそう。渋い趣味を持っているんだな、と思っていたところ、2019年5月の「Beautiful Days」の活動時にはあっという間に大人っぽい表情を見せるようになっていた。今回の楽曲ではその流れを継ぐ、劇的なイメージチェンジを披露している。
一人の女性がグッと20代前半で成長していく瞬間を見ること。これもまた楽しい楽曲だ。
ここから韓国の音楽番組での活動が始まる。少しずつ衣装、ステージ設定の違うバージョンが楽しめる。ぜひぜひYouTubeなどで
RYUSUJEONG
で検索を。
Tiger Eyesから見える美しい野獣が、静かに、それでいて強く舞っているので。
(了)