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天日謙作HCの現場復帰で士気が上がる大阪エヴェッサ チャンピオンシップ初進出に向け視界は良好

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
名古屋D戦で試合前に円陣を組む大阪エヴェッサの選手たち(筆者撮影)

【いよいよラストスパートに入るB1リーグ】

 第96回天皇杯日本バスケットボール選手権決勝ラウンドが週末に実施され、決勝で川崎が宇都宮を76対60で下し、NBL東芝時代の2014年以来7年ぶり通算4度目の栄冠に輝いた。

 天皇杯のためバイウィークになっていたB1リーグは17日から再開されるが、今回がシーズン最後のバイウィークとなるため、各チームは5月2日のシーズン最終日まで残り18試合を戦い抜くことになる。

 トラックレースで例えるならば、第4コーナーを回りホームストレッチに突入したラストスパートの段階だ。東西両地区ともにチャンピオンシップ進出の8枠を賭けて熾烈な戦いが繰り広げられることになる。

【初のチャンピオンシップ進出を狙う大阪と秋田】

 チャンピオンシップに進出できる8チームは、まず東西両地区の3位までに入った6チームが自動的に進出でき、残り2枠は両地区合わせて勝率上位の2チームに与えられる。

 そのため現時点で3位に入れていない26勝16敗の富山を筆頭に、24勝18敗の秋田まで計5チームが2ゲーム差内で2枠を争う混戦模様で、シーズン終盤まで予断を許さない状況だ。

 上位に顔を並べているチームのほとんどが、過去にチャンピオンシップ進出経験している中、秋田と、現在名古屋Dと同率ながら西地区3位に入っている大阪が初のチャンピオンシップ進出を目指している。

 特に大阪は昨シーズンもチャンピオンシップ進出圏内の西地区2位につけていたにもかかわらず、新型コロナウイルスによるシーズン中断で念願を叶えることができなかっただけに、チャンピオンシップ進出に懸ける選手たちの思いは相当なものがありそうだ。

 前節で迎えた、地区3位を争う名古屋Dとの直接対決となった第2試合には、今シーズン最多の2616人が集結。ブースターも並々ならぬ思いでチームを応援しているのが理解できる。

【天日HCの復帰でチームの士気は急上昇】

 大阪にとって本当に重要なラストスパートを迎えるにあたり、チームを支える重要な人物がベンチに戻ってきた。シーズン開幕直前に悪性リンパ腫の診断を受け、ずっと闘病生活を続けていた天日謙作HCが3月3日の信州戦から現場復帰を果たしたのだ。

悪性リンパ腫の闘病生活を終え現場復帰した天日謙作HC(中央/筆者撮影)
悪性リンパ腫の闘病生活を終え現場復帰した天日謙作HC(中央/筆者撮影)

 まだ体調は万全ではなく長距離の遠征には帯同しないなどの制約があるため、天日HCは補佐役に回り、これまで同様竹野明倫ACが指揮をとっていくことになるが、天日HCがベンチに座ることでチームの士気は上がっているのは間違いない。

 前述の大事な名古屋D戦でも連勝を飾るなど、天日HC復帰以降は3連勝している。しかも前々節の信州戦で、チームの得点源の1人、橋本拓哉選手が右アキレス腱を断裂し、長期離脱が決まった中で名古屋D戦に連勝しできたことは、さらにチームとしての自信を深める結果になった。

 それだけ天日HCの現場復帰が、チームに好影響をもたらしていると言えるのではないか。

【天日HCがチームにもたらす好影響】

 だが名古屋D戦2試合を見る限り、ベンチにいる天日HCはどちらかと言えば控えめにしており、選手たちに声をかけることもなかった。あくまで竹野ACの補佐役に徹していたように見えた。

 それでも竹野AC、そして選手たちは、間違いなく天日HCの存在感を実感できているようだ。

 「(天日HCの助言を受けながら)仮に自分が将来またACに戻った時に、こういう風にしてもたったらHCは助かるんだなというのを僕の中で感じることができました。

 その立場になった時には、そのようにコーチを助けられるような言葉を言えるようにしたいなと思います。(天日HCがベンチにいるのは)大いに心強いです」(竹野AC)

 「彼は我々の船長だ。そんな存在をずっと失ってきた。彼はすべてにおいて厳格なタイプで、そんなリーダーが戻ってきたのは我々にとって大きな意味がある。

 彼は選手に対し積極的に声をかけたりはしない。彼がそこに存在していること自体がすごいことだ。彼は選手たちに甘えを許さない厳しさがあり、まさにコーチらしいコーチだ。彼にとってベンチに座ることは大きなリスクを伴うが、自分にたちにとっては大きな支えになっている。

 (彼が直接指揮をとらなくても)コーチ陣に新たな視点が加わることで、指揮にも好影響をもたらす。我々にとって大きなことだ」(アイラ・ブラウン選手)

【天日HC「いいチームに成長している」】

 ブラウン選手が指摘するように、シーズンを開幕する上で天日HCを失ったのはチームにとって大きな痛手だった。

 オフに大幅に選手を入れ替え、昨シーズンから残った選手は6人のみ。特に日本人選手に関しては、ほぼプロ未経験の若手選手たちにシフトした。その中で天日HCの長期離脱が余儀なくされたことで、チームは厳しいスタートを切ることになった。

 だが療養中の天日HCと連絡を取り合いながら竹野ACが少しずつチームをまとめ上げ、12月頃から徐々に白星が先行するようになり、1月以降の成績は12勝5敗と、リーグの中で最も勢いのあるチームの1つになっている。

チーム一丸となって戦う姿勢を見せる大阪エヴェッサの選手たち(筆者撮影)
チーム一丸となって戦う姿勢を見せる大阪エヴェッサの選手たち(筆者撮影)

 現場復帰した天日HCもチームの成長ぶりを評価している。

 「昨日、今日のゲームに関しては、いいチーム(名古屋D)相手に前半負けていてというところでも、ネガティブになることもなくファイトして、DJ(ニュービル選手)といういいリーダーがいて、なかなかエネルギーのあるいいチームに成長してきているなと思っています。

 選手をどれだけ助けられるかだとか、チームが一丸になる助けをするだとかが僕らの仕事なので、方向性をしっかり出してコーチングスタッフの1人として、選手たちにいいサジェスチョンができたらと思います」

 今も体調は不安定で「手探りの状態」だと説明する中でベンチに座るのは、生易しい覚悟ではないはずだ。そんな天日HCという確固たる船長が加わった大阪は、このまま一気にラストスパートをかけそうな雰囲気を醸し出している。チーム初のチャンピオンシップ進出が、いよいよ現実味を帯びてきた。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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