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韓国国会議長の「元徴用工解決案」が非現実的な理由

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
日本企業に賠償を求める元徴用工と遺族ら(写真:ロイター/アフロ)

 20カ国・地域(G20)国会議長会議に出席するため来日していた韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が私案と断りながらも独自の徴用工問題解決案を提示した。

 内容は、日韓の企業に加えて両国の国民も参加する案となっている。即ち、両国の国民からも寄付を募り、元徴用工らを金銭的に支援するというものだ。韓国政府のこれまでの「1プラス1」(日韓の企業が自発的に基金をつくり慰謝料を支払う)案ではなく、「両国民(民間)からの寄付」を加味した「1+1プラスα」案である。

 さらに、元徴用工への支援金には旧日本軍の慰安婦問題を巡る2015年末の日韓合意に基づき設立された「和解・癒し財団」の残りの財源60億ウォン(約5億6千万円)を含めることもアイデアとして提示されている。

 文議長は日本企業の負担については最高裁の判決に従っての賠償ではなく、何らかの名目による「自発的な寄付」と位置付けている。日本企業からの自発的な寄付を日本企業の賠償責任に代わるものとみなすとの解釈だ。

 仮に文議長の「私案」が韓国政府の意向を反映しているならば、韓国はこれまでの「日韓企業が折半する案」を修正したことになるが、この修正案でも日本は呑めないだろう。理由は簡単だ。

 裁判所の判決に基づく支払いでも、寄付という形にせよ、日本の企業は支払う必要がないとの立場に立っているからだ。何よりも、日本の企業に支払いを命じた韓国の最高裁の判決を「国際法違反」とみなしていることに尽きる。

 日本は54年前に交わした日韓請求権協定に基づき元徴用工らへの補償金を含んだ3億ドルの無償援助をしているので当時、支払い義務を怠った韓国政府に責務があるとの立場を一貫して貫いている。従って、どのような形にせよ、日本の企業が金銭を出せば、韓国の国際法違反を認めてしまうことになるだけでなく、日本自らが国際法に反する行為を行うことになってしまう。

 また、文議長の「私案」は日本国民にも自発的な寄付を要請しているが、これにも無理がある。

 一つは、どうして国民が敗訴した日本企業の金銭負担を負わなくてはならないのかとの単純な理由と、村山政権下で民間から寄付を募って「アジア基金」を設け、元慰安婦への支援金に充てたのにその後も元慰安婦問題が解決しなかった苦い経験がある。従って、日本国民の賛同を得ることはできないだろう。

 韓国国民もまた、この「私案」には賛同しないだろう。

  一つは、韓国の最高裁が支払いを命じたのは日本企業であって、法に則って日本の企業が応じるのは筋と捉えているからだ。加害者である日本企業の責任を韓国政府であれ、国民であれ分担するのは道理に合わないとの考えだ。また、最高裁の判決を反故にする形の手打ちは法治国家としての存立に関わる問題と捉えている。

 次に、元徴用工や支援団体が日本企業を相手に裁判を起こした目的は「適切な補償」と同時に日本政府の「責任認定」と「誠意のある謝罪」を得ることにある。

 文国会議長の「私案」は補償金の支払い方法に焦点を当てているが、2015年12月の元慰安婦問題を巡る「日韓合意」に基づき、日本政府が新たに設立された「和解・癒し財団」に10億円を拠出し、元慰安婦へのお見舞金として充てたにも関わらず、今また、蒸し返された理由こそが、元慰安婦及び支援団体が「日韓合意」に納得せず、「責任認定」と「誠意のある謝罪」を日本政府に要求したことにある。

 従って、文政権としても、被害者らの同意を得ず「慰安婦合意」を交わしたことで世論の反発を買った朴槿恵前政権の二の舞になりかねないだけに下手には妥協はできないだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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