北朝鮮のエリート情報部員ら「金正恩の秘密」を調べた容疑で逮捕
太平洋戦争中だった1942年、当時日本の植民地支配下にあった朝鮮の朝鮮放送協会(現在のKBSの前身)の京城放送局や開城(ケソン)送信所の職員や民間人ら300人が逮捕され、75人に有罪判決が下され、7人が獄死した。
彼らが問われた罪は、大韓民国臨時政府の放送や、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)など海外の短波放送を通じ、日本に不利な内容の放送を聞いていたというものだ。
「銃殺ものだ」
この一連の事件を「短波放送密聴事件」といい、韓国では独立闘争の一つとみなされている。
それから80年が経った2023年。北朝鮮で同じような事件が発生した。デイリーNK内部情報筋が詳細を伝えた。
事件の部隊となったのは国家保衛省(秘密警察)の10局。自国民が携帯電話を使って海外と通話しているのを探知するなどの役割を担っているが、この部署の複数の職員が逮捕された。
その容疑とは、常習的にインターネットにアクセスしていたというものだ。
北朝鮮はインターネットへの接続を禁止している、おそらく世界で唯一の国だ。一般国民に使用が許されているのは、海外のコンテンツを見ることができない、国内専用のイントラネットのみ。ネット接続ができるのは高位幹部、技術者、対外向けプロパガンダ担当者などごく一部に限られている。
国境地帯で中国キャリアの携帯電話を使う人々も、北朝鮮でネットに接続できる数少ない人々だ。中国や韓国とのやり取りにメッセンジャーアプリを使用しているが、当局は国内情報の国外流出、国外情報の国内流入のルートと見て、国家保衛省に厳しい取り締まりを行わせている。
国家保衛省10局の場合では、関連ソフトのインストールと閲覧依頼書を作成し、管理者の承認を受けてようやくネットに接続が可能だ。しかし、職員らはその立場を利用して、閲覧が記録されないようにした上で、ネットに頻繁に接続していた。それを見つけた同僚の通報で逮捕に至った。
逮捕者はいずれも、龍山(リョンサン)保衛大学を卒業し、昨年末に10局に配属になったばかりの中尉と上尉で、国内からのネット接続を遮断するプログラムの開発、リモート接続、盗聴システムの管理を担っていた。
彼らが最も頻繁に検索していたワードは「金正恩」。その目的について情報筋は触れていないが、内部では「銃殺にされてもおかしくない」との噂が出回っている。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
これについて情報筋は次のように語っている。
「首領(金正恩総書記)保衛の城壁を築くはずの電波探知保衛員たちが、外国のネットに簡単にアクセスできる任務を悪用し、腐敗、堕落した思想を隠し持っていたことは、保衛戦士として不適格だと指摘された」
北朝鮮の考え方では、金氏一家に関連する事柄すべては神聖不可侵のもの。意図がどうであれ、みだりにネット検索を行えば、重罰の対象となってもおかしくない。偶然であろうとも、金正恩総書記に批判的な記事を表示させ、その記録が残っているだけでも命取りとなるだろう。
これに伴い、彼ら全員が過誤除隊(不名誉除隊)の処分を受けるものと、情報筋は見ている。
国家保衛省は「内部の規律と秩序を立て直せ」という指示を下し、国境沿いに展開している携帯電話の電話盗聴部署に対して、「このようなことは二度と起こすな」と釘をさした。
北朝鮮では、禁じられた韓流コンテンツをパソコンや携帯電話で視聴できないようにするソフトを開発しているIT技術者たちが、裏ではそのソフトを迂回するソフトを開発し、密売している。保衛員が取り締まりで没収した韓流コンテンツのソフトを見て楽しんでいるとの情報もある。
法律を振りかざし国民を抑圧する側の人間が、その法律に反した行為を行うのは、決して珍しいことではないのだ。