私大から留学生が大量行方不明に~不法就労の抜け道か
東京福祉大学から留学生が消えた?
東京福祉大学から留学生、それも非正規の研究生が大量に行方不明になった、と話題になっています。
東京福祉大で留学生700人所在不明 会計検査院が調査(産経新聞2019年3月15日)
東京福祉大(東京都豊島区)が今年度、「研究生」として受け入れた留学生約3200人のうち、約700人が所在不明となっていることが15日、関係者への取材で分かった。中には就学ビザが切れ、不法残留となっている留学生もいるといい、法務省入国管理局や大学を所管する文部科学省も実態調査に乗り出した。
東京福祉大では平成28年度から、正規の学部へ入学するための準備課程として日本語を学ぶ外国人を「研究生」として受け入れている。1年間修了し、試験を受ければ正規の学部に進学できる。
関係者によると、30年度は社会福祉学部でベトナムや中国などから3179人を受け入れたという。産経新聞が入手した内部資料によると、昨年4月以降、授業に出席せず連絡が取れなくなるなどして「所在不明」として除籍された研究生は688人。在留延長が認められなかったなどの事情で退学した研究生は313人で、1年間の課程を修了できなかった学生は計1001人に上った。東京福祉大は12年に群馬県伊勢崎市に開学した私立大学で、現在は全国4拠点に3学部を展開している。同大の研究生を含めた留学生数は27年度の1403人から3年で約3・7倍に急増。日本学生支援機構によると、30年度は早稲田大学に次ぐ全国2位の5133人を受け入れた。社会福祉学部がある北区の王子キャンパスでは銭湯の2階やアパートの一室を使用するなど教室不足が深刻化しているという。
所在不明になった留学生数十人は、就学ビザが切れるなどして不法残留になっているといい、入国管理局と文科省が詳しく調べている。
また、会計検査院も今月13日、同大への調査を開始した。国からの補助金が留学生支援に適切に使われているかなどについて調べているとみられる。
産経新聞の取材に対し、東京福祉大は「多数の研究生が所在不明なのは事実。誠に残念なことで、今後は所在不明になる学生が現れないよう管理態勢を徹底したい」とした。
介護福祉分野で学ぶ、という理由?
研究生は社会福祉学部などに入ったとのこと。
社会福祉学部は名前の通り、社会福祉業界を目指す学部です。
関連の国家資格は社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士の3つ。
このうち、社会福祉士は福祉業界の管理職を目指すうえでは必須の資格です。社会福祉士の2018年(第30回)合格率は30.3%。かなりの難関資格であり、外国人留学生が社会福祉士を志望していたとは思えません。
精神保健福祉士は精神保健分野に限定されており、こちらも志望していたとはちょっと思えません。
その点、介護福祉士は社会福祉士に比べれば合格率は高め。2018年(第30回)合格率は70.8%でした。
それから、介護分野は人手不足が続いており、2017年9月から介護の在留資格がスタート。2021年までは経過措置として、外国人留学生は不合格(または未受験)でも5年限定の介護福祉士として登録ができます。
外国人留学生は介護分野で増えていることは2018年9月18日の日本経済新聞朝刊も報じています。
介護留学生倍増、1000人超え 養成校入学の6人に1人
介護福祉士を養成する専門学校や大学に2018年4月に入学した外国人留学生は1142人で、前年から倍増したことが、公益社団法人「日本介護福祉士養成施設協会」の調査で18日までに分かった。日本人を含む入学者は6856人となり、6人に1人を外国人が占めた。一方、日本人は5年前の半分以下に減少し、5714人だった。
「研究生は介護分野ではない」
東京福祉大学の留学生激増の背景にあるのが介護福祉分野で学ぶ、という理由であれば納得できます。
実際、東京福祉大学以外にも介護福祉士養成の大学・短大・専門学校に外国人留学生は増加しています。
2018年4月3日付・北國新聞朝刊「介護留学生を囲い込み」記事には介護施設の運営会社と養成校が連携する模様が描かれています。記事見出しには「北陸三県 求人難、養成校と施設連携 奨学金支給、バイト・就職先を世話 富山福祉短大が参加」とあり、もうこれだけで福祉業界は大変なんだな、と理解できます。
ところで、記事には
「初年度の今年は中国、インドネシア、フィリピンの3カ国の12人が支援を利用する」
「今春は富山福祉短大に中国人6人、金沢福祉専門学校に中国人3人、インドネシア人2人、フィリピン人1人が入学する」
「富山福祉短大では今年、社会福祉学科介護福祉専攻で学んでいたモンゴル、フィリピン、韓国の外国人留学生3人が介護福祉士国家試験に合格した」
とあります。
記事にある「支援」とは養成施設が奨学金(2年間で170万円)を支給、アルバイトや生活相談なども支援する、というものです。かなりの厚遇ですが、それで12人?東京福祉大学の所在不明1400人とは人数が違いすぎます。
と思って、日本介護福祉士養成施設協会に電話取材したところ、
「東京福祉大学の研究生は介護福祉士を目指しているわけではない。目指すとしたら東京福祉大学ではなくグループ内の専門学校に入学しているはず。この問題が介護養成と結びつく、と誤解する方も多く困惑している」(広報担当者)
とのこと。
そもそも、介護福祉分野で日本の養成校に入るには、
「現地で日本語を学び、さらに日本語検定(N2)以上を取得するか、日本の日本語学校で半年から2年間、学ぶ必要がある。どちらにしても研究生のように簡単に入れるものではない」(広報担当者)
とのこと。
すみません、私も思いっきり誤解していました。
他のマスコミ関係者の皆様も介護分野と結び付けたが最後、マスゴミと呼ばれかねないのでご注意ください。
研究生の選考がザルすぎる
介護福祉と関係ない、ということであれば研究生の大量受け入れ、なお謎が深まるばかりです。
たとえば、同じ留学生の研究生受け入れをしている筑波大学だと選考は書類審査のみ。来日する必要はありません。
とは言えこの書類審査を受けるためには、指導教員を決めておく必要があります。しかも、筑波大学サイトによると、
出願にあたっては,あらかじめ本学の教員が指導教員となる旨,内諾している必要があります。出願前に, 自ら本学の教員と研究計画,日本語能力等について充分な連絡をとり,指導教員の内諾をもらってください。指導教員は、内諾をだすにあたって、出願者との連絡状況を記載した「指導教員連絡状況調書」(指導教員内諾書)を作成し、本学学生交流課に提出するとともに、出願者にはリファレンス番号を通知します。
希望する指導教員と連絡をとる場合,いきなり「指導教員になってください。」というのでは,指導教員も驚いてしまいます。自己紹介のほか指導教員と手紙等で連絡をとる場合の基本的な事項を以下に記します。(省略)この他,指導教員から手紙に対する質問等があるので,手紙のやり取りは数回必要になるでしょう。このため,Web出願の2~3か月前には1回目の連絡をとる必要があります。
要するに、書類審査だけとは言え、実際には高度な日本語能力と関連分野の知識が求められます。
しかし、
「大学の研究生制度は、中には審査が甘いというか、ザルのところもある。そもそも研究生は勉強時間が短く、個別指導も手厚いわけではない」(外国人留学生に詳しい大学関係者)
とのこと。
そこで、改めて 東京福祉大学の「大学学部外国人研究生 国内入学選考募集要項 」を見ると、出願資格には
日本語能力試験(JLPT(N3 以上))、生活・職能日本語検定試験(GNK(中級以上))、または J-TEST (D 級以上)の者。または本学が相当と認める日本語力を有する者。
参照URL www.tokyo-fukushi.ac.jp/abroad/images/pdf/domestic_19.pdf
とあります。日本語能力試験のN3とは「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」(日本語能力試験サイト)とのこと。
ただ、他の大学は同じ日本語能力試験でもN1かN2以上。N3以上としている東京福祉大学はレベルを落としていることが見て取れます。
エッセイ漫画で大人気となった『中国嫁日記』シリーズのスピンオフ作品『月とにほんご 中国嫁日本語学校日記』(井上純一、アスキー・メディアワークス)でも、この日本語能力試験についての記載があります。
「大学入学や専門学校で内申書にプラスになるのはN1だけでN2以下は取ってても飾りみたいなものなの」
「N5からN2までは同じくらいに難易度が上ってるんだけど…N1だけが異常にレベルが高いのよ」
同書にもある日本語能力検定試験のレベルを考えると東京福祉大学の研究生選考が実はたいした選考ではなかった可能性が高い、と言わざるを得ません。
そして、この研究生が結果として不法就労の抜け道と化しており、これについて東京福祉大学の責任は問われることになるでしょう。
留学生の大量行方不明は過去にも
外国人留学生が行方不明になっていた、という事態は東京福祉大学が初めてではありません。
2001年には山形県の酒田短大で事件化。もともと、歴代の理事長による乱脈経営などで定員割れが続いていた同短大は中国人留学生増加策に活路を見出しました。
ところがその大半が通学せず首都圏で働いていたことが判明し社会問題化します。
その結果、経営難で授業ができなくなり、2004年には文部科学省が運営をしていた学校法人に対して解散命令を出しました。大学・短大を経営する学校法人に対して文部科学省が解散命令を出すのは史上初のことでした。
この酒田短大事件の前後から現在まで、外国人留学生の行方不明・不法就労はたびたび事件化していきます。
2001年 七尾短期大学(石川県)で14人が失踪→2004年廃止
2002年 萩国際大学(山口県)で中国人留学生の除籍、風俗店などでの不法就労が発覚→2007年・2014年にそれぞれ改称(現・至誠館大学)
2004年 城西国際大学(千葉県)で220人の幽霊学生疑惑が浮上
2011年 青森大学(青森県)で約140人の留学生が大量除籍
2018年 日中文化芸術専門学校(大阪府)で大量除籍。ベトナム人留学生7人が学校側を提訴
2018年 西日本新聞が九州の私立大37校を調査。過去5年の留学生4551人中、卒業以外の理由では20.1%が除籍・中退(2018年1月8日朝刊「留学生2割消えた 九州私大37校の退学・除籍 受け入れ急増で「ひずみ」も 少子化穴埋め焦る大学」)
2019年2月 専門学校の東海学院文化教養専門学校(茨城県取手市)が定員3倍超の外国人留学生を受け入れ。入学予定の留学生の在留許可を取り消し
東京福祉大学の元留学生全てが不法就労をしている、とまで断じるわけではありません。が、そうなる可能性がきわめて高いことは過去の事例を考えても明らかです。
非正規を大量にかき集めるのは制度の想定外
同じ話を何度、繰り返すのか、というところ。
ただ、これまでの大学・短大・専門学校はいずれも正規学生を無理に入れて大量に除籍としていました。それも多くて100~200人程度。
東京福祉大学は約700人ときわだって多い点がまず違います。
それと、研究生、つまり非正規の学生を大量に入れている、という点がこれまでの事件と異なります。
大学設置基準は正規学生の定員を定めて、そのためのキャンパス・施設・設備から教員までをがっちりと固めていきます。これに違反した場合、補助金減額などのペナルティがあります。
ところが、研究生を含む非正規学生はそもそも大量に入れる、ということを想定していません。研究生は聴講生や科目等履修生と同じ、正規学生になる前の、言うなれば「慣らし運転」的な位置づけです。そこまで多く入ることを文部科学省は想定していません。
結果的に東京福祉大学はこの盲点をうまく突いた、とも言えます。
留学生増加は必要だが改めてガイドライン強化を
2008年の福田内閣以降、留学生は国策、ということもあり増加しています。
私も日本の大学、短大、専門学校が留学生を受け入れることには賛成です。それによって国際交流も進むでしょう。
ただし、これまでの留学生大量失踪・不法就労事件が起きた大学・短大・専門学校や、今回の東京福祉大学のような事態はあってはならないことです。
不法就労目的で来る留学生を入れてしまうと、犯罪等にもつながりかねません。実際にかつて事件化した大学・短大等から失踪した元留学生が犯罪を起こして逮捕・起訴もされています。
それから、今回のような事態が起き続けると、間に入ったブローカー等が儲けるだけ、ということもあり得ます。せっかく、日本が好きで日本に来た外国人留学生が日本に幻滅して日本嫌いになって帰国する、ということにもなりかねません。
もう一点、研究目的の留学生を受け入れて支援している大学や、丁寧に生活ケアも含めて支援している大学などからすれば、いい迷惑でしょう。
正規・非正規を問わず、留学生受け入れを真面目にやっている大学・短大・専門学校が「正直者はバカを見た」とならないよう、ガイドラインの見直しなどが求められます。