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新型コロナデマをGoogleとFacebookが表で消し、裏で支える

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By Matt Hecht (Public Domain)

新型コロナのデマ排除を表明するグーグルやフェイスブックは、一方でそのデマ拡散を支える主要なサービス提供者でもあった――。

英オックスフォード大学がまとめた報告書が、そんな実態を明らかにしている。

クラウドからウェブツール、ユーザーの行動を追跡するトラッカーまで。ネット上の情報配信と収益化を影で支えるインフラを担っているのが、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォームだ。

インフォデミックを拡散する数々のサイトもまた、その恩恵を受けていたことになる。

表で火を消しながら、裏では薪をくべる――インフォデミックとプラットフォームの関係は、そんな構図になっているようだ。

●バックエンドで支える

グーグルとフェイスブックは、ソーシャルメディア上のコンテンツについて、問題あり、とフラグを立てるとしても、その一方でそれらのコンテンツを支えるインフラを提供し、収益源を支えている。それによって、コンテンツ提供者を財政的に生き延びさせているのだ。

12月2日に公表された報告書「パンデミックで儲ける:新型コロナをめぐる反ロックダウン、詐欺、医療偽情報サイトの管理」は、そう指摘している。報告書まとめたのは、オックスフォード大学インターネット研究所の所長、フィリップ・ハワード氏と研究員のユン・オウ氏ら。

ハワード氏はフェイクニュース研究の第一人者として、これまでにも様々な角度からその実態を明らかにしてきた。

※参照:ロシアに加え中国も急浮上―人権抑圧・言論弾圧、「政治的武器」としてのフェイクニュース工作が世界を席捲する(新聞紙学的 10/03/2019

※参照:フェイクニュース、誰が拡散? 選挙に忍び込むボット(朝日新聞デジタル 4/15/2018

※参照:「ボット」が民主主義に忍び込む:オックスフォード大ハワード教授に聞く(新聞紙学的 10/28/2017

今回の報告書で取り上げたのは、新型コロナにまつわる誤情報・偽情報などの発信元となっている120サイト。ここに含まれているのは、米国におけるロックダウンへの抗議サイト、新型コロナに絡む詐欺サイト、そして新型コロナの偽情報サイトの3タイプがそれぞれ40件ずつ。

ハワード氏らが調べたのは、これらが利用しているサイト運営のためのバックエンドのサービスだ。

調査では、それらのサービスをレイヤー(階層)ごとに分類。

ドメイン名登録、ホスティング、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)から、いいねボタンや決済など幅広い用途で使われるウィジェットなどのサードパーティツール、そして特にユーザーの行動追跡を行うトラッカーについて、各サイトでの使用状況をまとめた。

そこで存在感を示したのは、グーグル、そしてフェイスブックなどのプラットフォームサービスだった。

●ホスティングからウィジェットまで

まずドメイン名登録で最も存在感があったのは、米レジストラ(ドメイン名登録サービス)の「ゴーダディ」。偽情報サイトでは、これに続くのがグーグルだった。

ホスティングとCDNでは、サイトの種別によって、傾向が異なった。

反ロックダウンサイトでは、最も多かったのはやはりゴーダディ、次いでグーグルクラウド、米CDNサービスの「クラウドフレア」の順。偽情報サイトでは、クラウドフレア、グーグル、アマゾンAWSの順だった。

詐欺サイトでは、それぞれ利用するサービスも、地域もかなり分散していた。

サードパーティツールについて、調査では反ロックダウンサイトで741件、詐欺サイトで1,692件、偽情報サイトで1万3,158件の、計1万5,591件の利用を特定した(のべ件数)。

3タイプのサイト群で共有して最も多く使われていたのはグーグル(反ロックダウン139件、詐欺228件、偽情報1,982件)で、ツールの総数は2,349件、全体の15%に上った。

これに次ぐのがフェイスブック(反ロックダウン32件、詐欺23件、偽情報806件)の861件、クラウドフレア(詐欺21件、偽情報546件)の567件、アップル(反ロックダウン34件、詐欺67件、偽情報366件)の467件、アマゾン(反ロックダウン9件、偽情報334件)の343件などだった。

調査では、サードパーティツールの中でも、さらにユーザーの行動追跡を行うトラッカーについてさらに詳しく分析している。

トラッカーは、複数サイトをまたがるユーザーの行動も追跡でき、その行動履歴に基づいたターゲティング広告の表示などに利用することができる。

ハワード氏らは、トラッカーを「広告」「分析」「管理」「ウィジェット」の4つに分類し、サイト種別ごとに分析している。共通して存在感を示しているのはグーグルとフェイスブックだ。

「広告」ではグーグル・ダブルクリック、「分析」ではグーグル・アナリティクス、「管理」ではグーグル・タグマネージャ、「ウィジェット」ではフェイスブック・コネクトが、3つのサイト種別に共通して、最も多く使われていた。

●相次ぐインフォデミック対策表明

新型コロナの世界的大流行を受けて、プラットフォームは相次いでインフォデミック対策を表明してきた。

3月には、グーグルフェイスブック、マイクロソフトなどが連名で、新型コロナ関連の詐欺情報や誤情報排除の共同声明を発表。

グーグルフェイスブックはその後も、政府などとの連携も含めて、偽情報対策を表明している。

だが、ハワード氏らは、8月に公表した別の調査で、新型コロナ関連の偽情報サイトの6割が、グーグルの広告配信サービスで収益をあげている実態を明らかにしている。

また、ブルームバーグが6月に報じたNPO「グローバル・ディスインフォメーション・インデックス」の調査によると、新型コロナに関する根拠のない情報を発信していた49サイトのうち、84%はグーグルが配信する広告を掲載し、推計で毎月13万5,000ドル(約1,400万円)の売上の大半をそこから得ていた、という。

●表で排除し、裏で支える

この調査結果について、ワシントン・ポストの取材に対し、ハワード氏はこうコメントしている。

(グーグルやフェイスブックは)コンテンツ管理の第一歩は踏み出せている。次のステップは新型コロナの誤情報と詐欺行為を支えるバックエンドのサービスを止めることだ。

ただ、もしグーグルやフェイスブックが徹底的な対応を取ったとしても、それだけでは問題の解決にはつながらない。詐欺サイトが、幅広い国々の多様がサービスを利用していたことが、その難しさを示す。報告書はこう指摘する。

代替サービスへの移行は、スムーズかつ迅速に行える。ウェブマスターはさほどの面倒もなく別の司法管轄のプロバイダーに乗り換えることさえできる。このことから、効果的な抑止を行うには、企業と司法管轄を超えた連携の取り組みが必要であることがわかる。

この調査結果について、フェイスブックの広報担当、アンディ・ストーン氏はワシントン・ポストにこんな声明を出している。

当社は新型コロナの誤情報拡散を抑制し、ユーザーに信頼できる情報を届けるため、積極的な対策を取ってきた。虚偽の主張や、新型コロナワクチンを含むワクチン接種を阻止するような広告の掲載も拒否していく。

グーグルは同紙の取材に対して返答はなかった、という。

(※2020年12月29日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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