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コロナショックにオリンピック延期、翻弄されるホテル業界 今後はどうなる?【#コロナとどう暮らす

瀧澤信秋ホテル評論家
観光バブル崩壊ともいえる状況が続く(破綻したロイヤルオークホテル)(筆者撮影)

Yahoo!ニュースでは新型コロナウイルスを経験した社会が今後どのようにしていくのか、皆さんが不安に感じていることをコメント欄に記載する記事を公開している。その中から「コロナ禍以降、宿泊業や観光業はどうなるか」と不安に感じている人がいたので、私なりの見解を述べたい。

訪日外国人旅行者需要とコロナショック以前のホテル活況

乱高下-まさに近年のホテルを含む宿泊業界を表すワードだろう。リーマンショックに東日本大震災で打ちのめされたと思いきや見事に復活、近年の世界的な旅行ブームは訪日外国人旅行者需要を底上げ、観光立国という名のもとに宿泊施設の需要は急激な高まりをみせた。訪日外国人旅行者数が初めて1000万人台になったのが2013年。2016年には一気に2000万人台となりホテル不足が声高に叫ばれるようになった。その後も旅行者数は堅調に推移し2018年末には3000万人を突破した。

宿泊需要が差し迫る中、ホテル供給にはタイムラグの問題があった。一般的にホテルはプランから開業まで2~3年を要するとされており、訪日外国人旅行者の激増にホテル建設が間に合わなかった。他方、開業までの期間やイニシャルコストなどハードルが低いカプセルホテル、ホステルといった簡易宿所や民泊などが、リーズナブルな旅を求める旅行者の需要に呼応するかのように一般のホテルが建設されている渦中にあって激増し供給を後押しした。

訪日外国人旅行者の激増を商機と捉えたホテルの開業は2017年~2018年頃に相次いで見られたが、同時に宿泊施設全体が供給過多のフェーズに移行していた時期であったことも実態として指摘できる。観光庁の統計によると、2014年から2018年の5年間で約600軒のホテルが増加したとされるが、カプセルホテルやホステルなどが当てはまる「簡易宿所」に限っていえば、約7000軒の増加と桁が違う。民泊のインパクトも相当であった。

さらに、2018年以降に新規供給される客室数も驚愕の数字とされていた(いずれもコロナショック前の数字)。主要9都市(東京、大阪、京都、名古屋、札幌、仙台、広島、福岡、那覇)における2019年から2021年の供給客室数は約78000室。これは2018年末のストック数の24パーセントに相当するとされた(CBRE調べ)。

突如業界を襲ったコロナショックにオリンピック延期

ところが、2020年に入り、コロナショックと東京オリンピックの延期という宿泊業界の最大かつ決定的な懸念事項が発生した。これまで供給過剰に陥っていることは否めないとされつつも、宿泊業界では世界的に堅固な旅行人気と東京オリンピックが需要を下支えしてくれるという希望的観測に包まれていた。しかし、事態は一転。訪日外国人旅行者は皆無といっていいほどの惨憺たる状況で、インバウンドを商機と捉え、生きながらえてきた宿泊施設を中心に破綻が相次いでいる。

営業休止の措置をとる施設が増加する一方で営業を続けるケースでは、仕事や緊急の所用などどうしても宿泊しなければならない一定の需要や、一部のホテルが新型コロナウイルスの軽症者受け入れや医療従事者の優先的宿泊施設として活用されるなど、宿泊施設の社会インフラ的な需要も改めて認知される、思わぬ契機にもなった。

また、苦境に喘ぐホテルや宿についてクラウドファンディング的な動きもみられる。従前からの宿のファン、業界関係者、お得意さんといった人たちによる支援という応援メッセージ的な側面は強いだろうが、実際のインパクトは別としても非常時だからこそのホスピタリティマインドの連鎖が生まれ、宿そのものを応援したいという機運も高まっている。

国内へ目を向ける宿泊業界

感染者の減少傾向がみられるとはいえ第二波の発生を危惧する声は根強く、緊急事態宣言が解除されても日本全体としてはいまだ自粛ムードに包まれている。宿泊施設についていえば、営業自粛要請の緩和に伴い日を追う毎に営業再開する宿泊施設は増加しているものの、以前のような100パーセントフル稼働という運営はなかなか難しいようだ。そうした中でも、移動を抑えられるご当地のお得意さんやリピーターといった顧客を中心に誘客に努める施設や、徐々に軌道へのせようと舵を切るホテルや旅館も散見される。

実際にホテルの需要はいつ回復するのか。アメリカを見てみると、過去のリーマンショックでは稼働率が上向くまで約1年半かかったとされ、客室単価の回復までには4年近く、9.11全米テロの際には5年かかったというデータもある。一方で、コロナ禍は世界に新しい価値観をもたらしているが、こうした過去の例が通用しないともいわれ、日本でもインバウンド需要の回復は未知数であり、国内に注目する動きがみられる。

目下いま業界では一致団結してこの苦境を乗り越えようという機運が高まっており、ポジティブかつ積極的な情報発信や未来志向のストーリーも描かれつつあり一筋の光を見るようで勇気づけられる。そのひとつが「マイクロツーリズム」であろう。簡単にいうと地元の人々がご当地で過ごす旅と解せるが、地域へ目を向けるというのは訪日外国人旅行者が期待できない中で内需の喚起という点でも理解できる。

旅行消費額を見た場合、2018年度で総額約25兆円、うち訪日外国人旅行者によるものは約4.5兆円、日本人による国内旅行消費額は約20.5兆円と当然ながら日本人による国内旅行が多くを占めている。ちなみに2011年度を振り返ると訪日外国人旅行者の消費額推計は約0.8兆円、日本人の国内旅行の消費額は約19.7兆円と日本人に限ってみればこの10年間であまり変化はない(観光庁統計)。

すなわち、観光バブルの実態ともいえる訪日外国人旅行者による旅行消費の伸び代は単純計算で約3.7兆円となり、まずは国内需要という着眼も当然かもしれない。

写真:アフロ
写真:アフロ

 

旅とポストコロナの世界

ポストコロナの世界においては、これまでとは異なる価値観に支配されるという指摘がある。ソーシャルディスタンスやリモートワークが身についた行動様式の変化は旅の方法にも大きく影響してくるのは間違いない。ひとつに旅には“自慢”という側面がある。素敵なホテルに泊まったことや、美味しいご当地グルメを体験したことなど、SNSへ投稿し羨望の視線をもらえる喜びも旅へ出向く契機のひとつとなりうるが、いまのご時世では羨望どころか“非常識”と批判されかねず、これも旅への意欲を萎縮させるひとつの要素だ。いずれにせよ一定の回復がみられたとしても、様々なスタンスや考えを持つ人がいる中で、観光旅行についてもこれまでの常識は通用しないことは明らかである。

今後も宿泊施設の破綻や廃業は続く。債務超過による破綻という図式はある意味でわかりやすいが、後継者不足や経営者の気力が奪われたといったような理由による廃業もみられる。かようにコロナショックの爪痕は深刻だ。90年代、日本ではいわゆるバブル経済の崩壊により多くの“無駄(とされるもの)”が整理された。近年の観光バブルによる多くの宿泊施設誕生とコロナショックに相次ぐ破綻。ある種、往時のバブル崩壊とその後の整理という流れを彷彿とさせるところがある。

まさにバブル処理の時代に金融の現場にいたというある高名な経済学者に話を聞いたところ、「観光バブルは結局バブル崩壊と同様に、宿泊業や関連業界も含め“不必要”が一定期間の間で消えていく運命になる」という。「近いうちに倒産の第二波が来るのは避けられない」といい、既に危機に直面しているところは多いはずと話す。さらにグローバルな競争が進んでいく中で、デモグラフィクス(人口統計)という点でいえば高齢化と人口減少が進んでいくのも日本の現実であり、観光業界も避けては通れないと警鐘を鳴らす。

この話を聞いて想起したワードは“資本力”“合従連衡”“優勝劣敗”といったところだろうか。仮にホテルのブランド名はそのままであっても、経営会社や運営会社が淘汰されていく例は続出するのだろう。

※記事をお読みになって、コロナ後のレジャーについてさらに知りたいことや疑問に思っていること、自分なりの乗り越え方などのアイデアがありましたら、ぜひ下のFacebookコメント欄にお寄せください(個別の返答はお約束できませんのでご了承ください)

また、Yahoo!ニュースでは「私たちはコロナとどう暮らす」をテーマに、皆さんの声をヒントに記事を作成した特集ページを公開しています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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