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「夫婦別姓選択」問題、同姓・通称使用可への法改正派が最大多数派に

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
現行法上は婚姻状態にある夫婦は同じ名字(姓)を名乗らねばならないが(写真:アフロ)

日本の現行法では、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗らなければならないことになっている。これについて「現行制度と同じように夫婦が同じ名字(姓)を名乗ることのほか、夫婦が希望する場合には、同じ名字(姓)ではなく、それぞれの婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めた方がよい」、さらには「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべき。しかし婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めた方がよい」との意見がある。

内閣府が2022年3月に発表した「家族の法制に関する世論調査」(※)によると、これらの意見について現行法の維持も併せて3つの選択肢を提示し、自分の意見・意思にもっとも近いもの一つを選んでもらった結果、次のグラフのような結果となった。

↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(2021年12月)
↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(2021年12月)

全体としては「現行法維持派」が27.0%、「旧姓選択可能に法律変更派」が28.9%、そして「通称選択可能に法律変更派」は42.2%。1.9%ポイントの差をつけて、「現行法維持派」よりも「旧姓選択可能に法律変更派」が多い結果が出ている。

男女別では男性が現行法の維持をより強く望む一方、女性は男性よりも旧姓選択可能となるように法律を変更すべきとの意見が強くなっている。現状では結婚に際して女性が名字(姓)を変える対象となる事例が多いだけに、それに対する抵抗感も強いのだろう。

続いて色々な属性別に区分し直し、その動向を見ていくことにする。まずは男女の上での年齢階層別。概して若年層ほど「旧姓選択可能に法律変更派」が多く、年齢が上がるに連れて「現行法維持派」が多くなる。

↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(2021年12月)(男女、年齢階層別)
↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(2021年12月)(男女、年齢階層別)

女性では40代までさほど意見の内容が変わらないのに対し、男性は18~29歳では「現行法維持派」が2割台とやや多いものの、30代で大きく減少し、それ以降は少しずつ「現行法維持派」が増えていき、70歳以上で大きな増加を見せるのが興味深い。もっともどの属性でも、「旧姓選択可能に法律変更派」が過半数となることはない。「現行法維持派」も「通称選択可能に法律変更派」も、「夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべき」との点は変わらないことから、現状では「法的に現行法の通り、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべき」との意見が多数であると判断できる。

これを結婚状態や子供がいる・いない別で区分し直したのが次のグラフ。「未婚で同居パートナーあり」とは要するに内縁状態にあることを意味する。

↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(2021年12月)(結婚状態、子供の有無別)
↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(2021年12月)(結婚状態、子供の有無別)

内縁状態の人で「旧姓選択可能に法律変更派」が多いのは、法的な婚姻状態となるのを躊躇する理由の一つに、自分の名字(姓)を変えねばならないからとの理由があるからだと考えられる。

他方子供がいる・いない別では子供がいる人の方が「現行法維持派」は多い。これは詳細は別の機会に解説するが、「仮に制度が変わるとしたら、どのような状況になるか」、そしてそこから生じるマイナス点を「自分の問題として」想起しやすいからだと思われる。実際、今調査別項目において「夫婦の名字(姓)が違う場合、子供に何か影響が生じる」とする意見は69.0%に達している。

経年推移ではどのような動きを見せるだろうか。選択的夫婦別氏制度に関する調査はおおよそ5年おきに実施されているが、1996年より前の調査はそれより後のものと比べて選択肢の違いが大きく、単純比較は困難。そこで1996年以降今回発表分もあわせ6回分を並べてみることにした。

↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(全体、経年推移)
↑ 選択的夫婦別氏制度に関する意見(全体、経年推移)

「通称選択可能に法律変更派」と「分からない・無回答」を合わせた値はほぼ変動が無かった。「現行法維持派」と「旧姓選択可能に法律変更派」がつばぜり合いを繰り広げていた状態。少なくとも1996年以降では2017年時点がもっとも「旧姓選択可能に法律変更派」の割合が高いが、実質的には2001年5月の時点とほぼ同じで、調査時の世論動向で多少のゆらぎが生じている程度だった。

ところが直近の2021年12月分では大きな変化が生じ、「現行法維持派」「旧姓選択可能に法律変更派」がともに大きく減り、「通称選択可能に法律変更派」が最大多数派となってしまう。これまでとは大きく異なる動きのようで、大いに注目したいところではある。「現行法維持派」「旧姓選択可能に法律変更派」ともに、1996年6月調査分以降では最小値となったことも特筆すべき。

選択的夫婦別氏制度に関しては1996年に法制審議会によって導入が答申(行政官庁への意見具申、あるいは問い合わせへの回答)されたが、法改正には至っていない(【選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について(法務省民事局)】)。説明によれば1996年と2010年に法務省側で改正法案を準備したが「国民各層に様々な意見があることなどから、いずれも国会に提出するには至りませんでした」とのこと。また2020年に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画でも国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進めるとしている。

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※家族の法制に関する世論調査

日本全国の18歳以上の日本国籍を持つ人の中から層化2段無作為抽出法によって選んだ5000人を対象に、2021年12月2日から2022年1月9日にかけて、郵送法によって行われたもので、有効回答数は2884人。男女比は1360対1524、年齢階層比は18~29歳が323人、30代324人、40代477人、50代458人、60代502人、70歳以上800人。過去の調査も同様の様式だが、2021年12月調査分までは20歳以上を対象としている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項のない限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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