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わいせつ動画、米国サーバでもアウト! その理由は?

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
サーバ・ルーム(本文と関係ありません)(写真:アフロ)

■はじめに

無修正の有料わいせつ動画サイト「カリビアンコム」を通じてわいせつ動画を配信していた被疑者らが、警視庁によって逮捕されました。被疑者らは、日本人の女優を使って制作したわいせつ動画を、台湾にある別会社を経由して、アメリカにあるとみられている「カリビアンコム」の運営会社に納品し、アメリカにあるサーバから配信していたようです。

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台湾と米経由でわいせつ動画配信の疑い 社長ら逮捕

アメリカにあるインターネット・サーバにアップロードされたわいせつ画像は、他の世界中のアダルトサイトにある画像と同じように、もちろん日本からも見ることができますが、今回、警視庁が被疑者らを逮捕した理由はどのようなものなのでしょうか。

■刑法の適用についての原則

日本の刑法は、犯人の国籍を問わず日本の領土内で行われたすべての犯罪行為に対して適用されます(刑法1条1項)。これは、「属地(ぞくち)主義」と呼ばれる原則です。刑法は一定の地理的な基準によって、その適用範囲を決定しています。

ただし、犯罪行為のすべてが日本国内で行われることは必要ではなく、少なくとも犯罪行為の一部が日本国内で行われるか、あるいは犯罪の結果が日本国内で生じれば〈国内犯〉として日本の刑法の適用は可能です。

また、犯罪行為がすべて日本国外で行われた場合、〈国外犯〉として処罰される行為が例外的に規定されています(刑法2条~4条の2)。

しかし、ここで問題になっている刑法175条のわいせつ物公然陳列罪や頒布罪は、その例外の中には含まれていません。したがって、外国人が外国で日本人にポルノ画像を販売したり、公然と見せた場合はもちろんのこと、日本人が外国で日本人や外国人に対してポルノ画像を販売したり、公然と見せた場合であっても、日本の刑法は適用できません。

■外国のサーバにわいせつ画像をアップロードした場合

インターネットにとっては物理的・地理的な〈国境〉は意味をもちません。国境を超えてあらゆる情報・文化が混ざり合うのがインターネットの特徴です。〈わいせつ〉も文化の問題ですから国によってその基準は異なりますが、外国で違法な画像も日本から見ることができますし、逆に、日本で合法な画像も、それを違法と判断する国でも見ることができます。このような厄介な問題には、まだ根本的な解決はないような状況です。

かつて、最高裁は、コンピュータ・ネットワーク上でわいせつ画像を公開することは、わいせつ画像が記録されたコンピュータが「わいせつ物」であり、それを不特定多数の者に対して公開することが「陳列」であるとして、刑法175条のわいせつ物公然陳列罪が成立するとしました(最高裁平成13年7月16日決定)。これが議論の出発点です。

わいせつ画像が存在するサーバが国内にある場合には、「わいせつ物」が国内に存在することになりますから、わいせつ物公然陳列罪が成立することに法的な問題はありません。わいせつな映画を国内で上映することと問題は同じです。

問題は、そのサーバが国外にある場合です。そして以前は、(1)国内から国外のサーバにわいせつ画像をアップロードした場合と、(2)国外で国外のサーバにわいせつ画像をアップロードした場合が、分けて考えられていました。

(1)国内から国外のサーバにアップロードした場合

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わいせつ画像をネットのサーバにアップロードすることは、わいせつ物公然陳列罪の実行行為の一部だと評価することができます。すると、この場合は、犯罪行為の一部が国内で行われていることになり、〈国内犯〉として処罰することが可能になります。実際に、裁判でも有罪となったケースがあります(山形地裁平成10年3月20日判決)。

なお、日本から海外の(合法な)ネットカジノ・サイトにアクセスしギャンブルを楽しむことに対しても、同じ論理で刑法の賭博罪が適用されます。

(2)国外で国外のサーバにアップロードした場合

サーバにわいせつ画像のデータをアップロードし、不特定または多数の者がアクセスすればパソコン画面上で見ることができるように設定した時点で実行行為は完了し、刑法175条の罪は終了したということになります。そうすると、このアップロードやその他の機器の設定等、サイト運営全般がすべて国外で行われた場合は、犯罪行為や結果のすべてが国外で生じているため、国内犯として処罰することは不可能になります。

ネットの中には、日本語で運営されている有料のアダルトサイトが多く見られますが、そのサーバが海外に存在するために、明らかに日本からアップロードされたという証拠がない限り、それは日本の刑法の適用外であり、事実上放置されてきました。

ところが、平成23年に刑法175条が次のように改正され、状況が一変しました

(わいせつ物頒布等)

第175条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

2  有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

新しい条文で、「電気通信の送信」によって、わいせつな電磁的記録を「頒布(はんぷ)」する行為が処罰されることになりました

従来は、「頒布」とは、わいせつな写真やDVDなどの「物」を配布するという意味でした。そうすると電子メールの添付ファイルとしてわいせつ画像や動画といった「情報」を有料配信したケースでは、「物」の移動がないために処罰できず無罪判決が出されていました。そこで、刑法175条が抜本的に見直され、「電気通信の送信」(インターネット)でわいせつな情報を配信することも「頒布」に当たるとされたのでした。

■今回の事件以前にすでに別件で有罪判決は出されていた

今回の事件は、おそらくサーバへのアップロード行為は海外で行われていたと思われます。しかし、実は、このような事案について(新しい)刑法175条が適用されることは、すでに最高裁(平成26年11月25日決定)で確認されていたのです。

事案は、日本にいるAが、わいせつ動画を、アメリカにいるBに送信し、Bが依頼を受けてアメリカにあるサーバにアップロードして、日本人の顧客に有料で配信していたというものです。

これを従来のように「陳列」行為と解すると、犯罪行為のすべてが国外で完結していますので、それに刑法の適用は難しく、たとえAとBが共謀していてもAの処罰はできません。

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最高裁は、(新しい)刑法175条の「頒布」の意味を、ネットを通じて不特定多数の者のパソコンにわいせつ情報を記録させることだと解釈し、被告人は客が配信サイトにアクセスし、ダウンロードの操作をすると自動的にダウンロードされるように設定したので、このような行為は「電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した」といえるとしました。そして、日本にいる顧客のパソコンにわいせつ情報が保管されたので、「頒布」という犯罪行為の結果が日本で生じたことになり、〈国内犯〉として日本の刑法の適用は可能であると判断したのでした。

今回の逮捕も、この最高裁判例の考え方によったものといえます。

ただ、最高裁判決については、「電気通信の送信による頒布」といっても、客がいつでもダウンロードできる状態にすることが「頒布」であり、ダウンロードという客の新たな別の行為を含んで被告人の「頒布行為」と言うのはおかしいのではないかという疑問があります。学説においても、同じ問題点を指摘する見解も少なくありません。

さらに、最高裁のような考えに従った場合、世界中のアダルトサイトに日本の刑法が〈国内犯〉として適用可能だということになりますし、逆に、日本人が日本にあるサーバに合法な画像をアップロードしても、それを違法だと評価する国がその日本人にその国の刑法を適用しても、日本は国として反論はできなくなるということになりますが、それでも良いかという問題もあります。

私自身は、このような状況で、善良な性的秩序・性道徳を維持するという意味でのわいせつ規制はもはや維持できるものではなく、わいせつなものを無理やり見せられないという個人の権利を保護するとか、あるいは青少年保護といった観点から、規制を根本的に考え直すべきではないかと思っています。

なお、児童ポルノをダウンロードして保管することは、児童ポルノ禁止法7条3項に該当しますが、成人のポルノの場合は、そのような処罰規定はありません。(了)

〈参考記事〉

大正時代、銀幕に映ったわいせつな映画は光線による「幻影」だから無罪だと主張された裁判があった

〈追記〉

最初の記事に、事実関係において不正確な表現がありました。お詫びして訂正いたします。

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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