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G7広島サミットは第三次世界大戦への「進軍ラッパ」か 米国軍事安全保障シンクタンク公開書簡から

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
G7広島サミット(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 G7は「平和」を名目に、徹底してウクライナ戦争を加速させ、世界の分断を一気に深めただけでなく、第三次世界大戦をも招来させる役割を果たした。米国軍事安全保障関連シンクタンクの公開書簡から読み解く。

◆中国で報道されたアメリカ軍事安全保障シンクタンクの公開書簡

 5月18日22時32分、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVが<元米国当局者:アメリカとNATOはロシアの安全保障要求を無視し、その結果、ロシアとウクライナの現在の状況が発生した>という見出しで、米国のシンクタンクが発表した衝撃的な書簡と、そのシンクタンクの一員への米国メディアによるインタビューを報道した。シンクタンクの正式名称は「アイゼンハワー・メディア・ネットワーク(Eisenhower Media Network=EMN)」で十数名の元米軍高官や国家安全保障当局者から構成されている。

 信用して頂くために、先にその書簡の英文原文のリンク先をご紹介する。

 公開書簡のタイトルは<The U.S. Should Be a Force for Peace in the World(米国は世界平和のための力になるべきだ)>なので、まずこれをクリックして、CCTVのタイトルが真実であるか否かを確認してから、以下のCCTVに関する紹介にお目通しいただきたい。

***CCTVの報道内容の概略***

 (5月)16日、十数人の元米軍高官と国家安全保障当局者が、ロシアとウクライナの紛争の平和的解決を促進するために懸命に働くよう、米国政府に求める公開書簡を発表した。

 17日、公開書簡の署名者の一人である元米空軍将校のデニス・フリッツが米国メディアのインタビューを受け、「米国はウクライナに武器を提供し続けており、それはウクライナの人々に、より大きな災害をもたらすだけだ。米国とNATOはロシアの安全保障上の要求を無視しており、それこそが、状況がここまで来た理由だ」と述べた。

 この書簡は16日にニューヨーク・タイムズに掲載され、「米国は世界平和の力になるべきだ」というタイトルで、ロシアとウクライナの紛争の外交的終結を求めた。書簡は、「ロシアとウクライナの紛争は多くの死傷者を出し、環境と経済に深刻な損害を与えており、紛争が核対立にエスカレートすると、被害は指数関数的に増加する」と指摘した。

 デニス・フリッツは、17日の米国メディアとのインタビューで、「ロシアとウクライナの紛争は、ウクライナ国民を犠牲にした米国とロシアの代理戦争である」と断言した。

 デニス・フリッツは「私たちはウクライナに、より多くの武器を送り続けているが、それはより多くの死と破壊を引き起こすだけであり、ウクライナの人々を犠牲にして、ロシアを弱体化させるために、ロシアとの代理戦争を戦っている。同時に、死と破壊の両方がウクライナとウクライナの人々に起こる」と述べている。

 デニス・フリッツは、ロシアとウクライナの紛争について交渉が行われる場合、最初のステップは「米国とNATOがロシアの要求に耳を傾けることでなければならない」と述べた。「ロシアは、NATOの東方拡大がロシアの安全保障上の利益に触れることを米国に警告しようと何度もしてきた」と強調している。

 デニス・フリッツは「動物を追い詰めると、動物は反撃して身を守る。もし、ロシアの武器や人員がカナダやメキシコに配備されれば、米国は間違いなく発狂するだろうし、これが、ロシアがいま直面している状況だ。米国は真っ赤な嘘に基づいてイラク戦争を開始し、その戦争でイラクは破壊された」と続けた。

 デニス・フリッツは「NATOの拡大について考え、これらの進行中の戦争について考えてほしい。そこから利益を得る人々は常にいる。われわれの目標は、アイゼンハワー元大統領が私たちに警告した軍産複合体の利益を制限することだ。われわれの目標は戦争を制限し、戦争から利益を得る人々を制限することなのである。私たちがウクライナのために武器を購入するために支払うお金、このお金が動くための場所がある。誰がこれらの武器を作っているのか。誰も戦争によってお金を稼ぐべきではない」と締めくくった。

***CCTV報道内容の概略は以上***

 CCTVの報道にある「公開書簡」を掲載したニューヨーク・タイムズ報道以外に、米国のResponsible Statecraftというウェブサイトが5月17日に<National security experts: War in Ukraine is an ‘unmitigated disaster’(国家安全保障専門家:ウクライナ戦争は「軽減されない災害」>というタイトルで、アイゼンハワー・メディア・ネットワークの公開書簡に関して論評を掲載している。そこでは書簡にある

真実を見ることは弱さではない。それは(人類の)知恵だ。

という言葉が強調されている。

 正に、その通りだ!

 人類は、人類に真の幸福をもたらすために真実を直視しなければならず、それこそが、人間が「考える力を持つ生き物」であることの証しではないだろうか。

◆G7広島サミットは第三次世界大戦をもたらすための「進軍ラッパ」だ

 然(しか)るに、今般広島で開催されたG7サミットは、ひたすらウクライナ戦争におけるウクライナに対する武器提供を加速させるための内容になっており、バイデン大統領はG7サミットでウクライナに対して「アメリカはF16戦闘機をヨーロッパの同盟国による供与を通して容認する」旨の発言までしている。

 戦闘機の提供まで始めたら、第三次世界大戦に突入するとしてヨーロッパは慎重だった。しかしEUのボレル外相は、「いつも同じことだ…最初は誰もが気が進まないが、最後には絶対に必要なものだとして、軍事支援を提供するという決定を下すことになる」とした上で、「5月23日からヨーロッパの複数の国(たとえばポーランドなど)においてF16戦闘機のウクライナ人パイロットに対する訓練が始まった」という趣旨のことを語った。

 もっとも、原文<EU welcomes F-16 jet decision for Ukraine>を詳細に見ると、どうやらポーランドの国防部長が、「すでに訓練が始まったのではなく、訓練をする準備をしている段階だ」とボレルの発言を訂正したとある。

 注目すべきは、その記事に、「バイデン政権は、ロシアとの緊張が高まる可能性があるという懸念から、航空機の譲渡の承認や訓練の実施を1年以上拒否してきたのだが、ここに来て(G7広島サミットで)、突如、急激な逆転を遂げた」と書いてあることだ。

 すなわち、F16戦闘機の投入は時間の問題で、これは第三次世界大戦に突入するゴーサインを出したに等しい。すなわち、G7広島サミットは、第三次世界大戦への「進軍ラッパ」を鳴らしたに等しいのである。

 広島で開催したのだから、当然「核軍縮」が中心になければならないはずだが、G7で出された「広島ビジョン」は「安全が損なわれない形で、現実的で実践的な責任あるアプローチ」という魔法のような言葉で、「核を持つことによる抑止力=核抑止力」を肯定している。

 米陣営を守るためなら「核」保有は許され、「米国が優位に立つ為の平和」は「戦争によって勝ち取る」という精神が貫かれている事実を、日本の大手メディアは見ようとしない。

 「広島ビジョン」で非難の対象となっているのはロシアや中国あるいは北朝鮮の核戦力であって、米陣営の核戦力は、米陣営の「平和」を守るために許容される。

 もちろんロシアのウクライナ侵略は絶対に許されない。しかし非米陣営の人口は、人類の85%を占めている。この85%の命は、米陣営15%の命より軽いと見ているのに等しい。

 ブラジルのルーラ大統領はゼレンスキー大統領と会談するために、会談の部屋にウクライナの旗まで立てて待っていた。しかしゼレンスキーは現れず、記者団にルーラと会えなかったことに「失望したか?」と聞かれたゼレンスキーは「失望したのはルーラの方だろう」と笑いながら答えたと、ブラジルのメディアは怒りを込めて報道している。

 G7広島サミットは、世界の分断を深めただけだ。グローバルサウスは、人類85%の中におり、中露と関係を深めている非米陣営だ。

 G7広島サミットは、米陣営に都合がいい方向にウクライナでの「代理戦争」を加速させ、第三次世界大戦へと突入する「進軍ラッパ」を鳴らした。そのことに目を向けるだけの知力を持った日本人がおられることに期待したい。

 最後に「国際平和拠点ひろしま Nuclear Weapon 2022世界の核兵器保有数(2022年1月時点)」に掲載されている世界の核兵器数一覧表を転載させていただく。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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