「安ければ安いほどいい」と考えるお客が、結局はソンする理由
価格交渉は商談の醍醐味ですが……
私は営業のコンサルタントです。現場に入り、これまで多種多様の企業の営業支援をしてきています。そのせいでお客様の心理のみならず、営業の心理もよく理解しているつもりです。
お客様が個人であろうが、組織であろうが、営業の世界で価格交渉というのはよくあるイベントです。「駆け引き」「腹の探り合い」は日常茶飯事。お客様はできるだけ安く購入したいですし、営業はできるだけ高く販売したいと考えるものです。私は営業コンサルタントですから、営業に年間目標を達成させるため「できるだけ高く販売できる」よう指導します。当然のことながら、お客様に対しては「価格交渉はほどほどにしてほしい」と期待します。
お客様にとってよい価格交渉とは?
価格交渉というのは、いろいろなシチュエーションで発生します。
● あらかじめ予算が決まっているケース
● 予算は決まっていないが値切ることを目的としているケース
一番理想的なのは、すでに予算が決まっていて、お客様がそれを営業に正しく伝えてくれるケースです。これはもちろん営業にとっても良いことですが、お客様にとっても得策です。たとえばお客様から、
「当社は1000万円しか年間でIT投資する予算は確保できないので、予算内の提案をしてほしい」
と言われれば、営業は、その予算内で最大限、お客様のニーズに応えられるよう提案を考えます。競合他社との差別化を「提案内容」のみに限定できるため、お客様により良い提案がしやすくなります。
ところが、
「当社の予算額を教えることはできません。安ければ安いほどいいに決まってる」
などと言われると、営業はどれだけ費用をかけてよいのかわからないため、「腹の探り合い」になります。「もし500万円かけてよいのなら、この内容」「もし3000万円までかけてよいなら、この内容」等と、3つぐらいの提案をもってうかがうことになります。当然、お客様のニーズに沿った提案になりづらくなります。
一般消費財で考えればわかりやすいでしょう。車を購入に来たお客様に、「ご予算はいくらぐらいですか?」と聞いて、「いくらでもいい」と言われると営業は困ってしまいます。軽自動車を提案していいのか、高級車を提案していいのか判断がつかないからです。600万円ほどの高級車の説明をしたあとで、「後出しじゃんけん」のように、「そんな高い車、買えるわけないでしょう」と言われたら営業もやる気を失います。
価格ドットコムなどのサイトを見て商品を購入するなら別ですが、営業という人間を通じて商談をするのであれば、商品カタログやホームページなどの情報を参考にしてもわからない情報を営業から引き出すことが重要です。もしカタログに記載されているような情報しか営業が知らないというなら、その営業にバリューはありません。「できない営業」ということです。お客様にとって「できない営業」に当たると残念な結果になります。
普通なら、価格交渉よりも、その商材をどう活用すべきなのか、どう問題を解決するか、他社はどうやって成功しているのか、等の情報を引き出すことのほうがお客様にとってお得なことです。ですから、まずは相手に正しい予算を伝え、その範囲内で一番の提案をしてくれとお願いしましょう。営業のスキルが高ければ、(予算を含めた)限られた条件においてうまく提案してくれるはずです。
価格以外のバリューにも目を向けよう
「安ければ安いほどいい」と思われやすい商材は、日用品などの一般消費財です。同じ銘柄のティッシュペーパーや乾電池、缶コーヒーを買うなら、通常、安いほうがいいという心理が働くものです。しかし、営業を介した商談をするケースの大半は、価格だけが判断材料にならないはず。「安ければ安いほどいい」と考えるお客様ほど、相手に予算を伝えない傾向がありますが、その考え方は改めたほうがいいと私は考えています。
営業をしたことがない人は想像できないかもしれませんが、営業も人間です。いくらお客様だからとはいえ「最終的に売れればいいんだろ」「どうせ買うんだから、いくらでもワガママが許される」などと考えるのは、どうでしょうか。営業がやる気を失うほど、あまりに価格交渉に集中すると、結局はお客様ご自身が損をするケースが多いのです。