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最新研究「ヒアリ」防波堤的駆除の方法とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 環境省は2019年10月21日、東京港の青海ふ頭においてヒアリ(Solenopsis invicta)の働きアリ300個体以上、羽を持つ女王アリ20個体、幼虫10個体を確認したと発表した。2017年6月に初めて国内で確認されて以降、現在まで14都道府県で45事例が報告され、繁殖可能な女王アリが広範囲に飛び散った危険性がある。世界各国で外来害虫になっているヒアリだが、そのせいで研究も多く駆除の方法もいろいろなものが模索されている。

アジア諸国にもすでにヒアリが侵入

 米国テキサス州では1956年にヒアリが侵入し、その生育域拡大を防げなかったため、現在では1年に1300億円以上の対策予算が投じられるようになっている。ヒアリは、在来の昆虫の生態系に影響を与え、地上に営巣する鳥類も甚大な被害を生じることが知られている。すでに米国各地にヒアリは定住しているということだ。

 アジアでもヒアリが広がりつつある。香港には15年前に侵入し、在来アリの多様性を失わせ、農業作物へもかなりの被害を及ぼしているという研究(※1)がある。この研究によると、香港北部の新界地区を中心にヒアリが確認されているが、この地区は中国の深センとの境界のため、中国本土にも広がっている危険性がある。

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香港のヒアリ生息域の地図。南部の九龍半島や香港島では確認されていない。Via:Kin Ho Chan, Benoit Guenard, "Ecological and socio-economic impacts of the red import fire ant, Solenopsis invicta (Hymenoptera: Formicidae), on urban agricultural ecosystems." Urban Ecosystems, 2019

 お隣の韓国にもすでにヒアリが侵入している。本格的に定住しているわけではないようだが、気候変動による温暖化が続けば、韓国の広い範囲にヒアリの生息域が拡散すると予測する論文(※2)が出ている。この研究では、現在の分布から将来の潜在的な分布を予測する種分布モデル(Species Distribution Models、SDM)を用いて温暖化状態でのヒアリ分布を推定している。

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韓国の研究では、2100年以降も大量の二酸化炭素の排出が続く最悪モデル(RCP8.5)で2040年代には韓国の沿岸部の広い地域にヒアリが拡散すると予測する。地図で暖色が強いほど個体数が多くなる。Via:Sunyong Sung, et al., "Predicting the Potential Distribution of an Invasive Species, Solenopsis invicta Buren (Hymenoptera: Formicidae), under Climate Change using Species Distribution Models." Entomological Research, 2018

 ヒアリの侵入と気候変動との関係は無視できない要素のようだ。もちろん、気候変動が必ずしも外来種に有利に働くわけではない。だが、特に温暖化などの影響で在来種が脆弱化し、外来種に有利な環境に変化している場合、容易に侵入を許してしまう(※3)。

最新研究での駆除法

 日本にもヒアリが侵入しつつあるが、どうやって防御すればいいのだろうか。ヒアリは、果実や野菜などを入れたコンテナ内に紛れ込み、海上輸送によって移動するようだ。そのため、コンテナ内で薬剤で燻蒸し、駆除する方法が採られている。

 従来の害虫駆除では臭化メチルを使っていたが、臭化メチルはオゾン層破壊物質として規制され、現在では使用に制限がかかっている。代替として、クロルピクリンという薬剤、ヨウ化メチル、リン化水素などが燻蒸剤として使用され、薬剤を用いないパルス放電やイオンビームなどを使った技術なども発達しているようだ。

 最近の研究では、臭化メチルの代替としてヒアリの駆除にギ酸エチルによる燻蒸法が検証されている(※4)。これは米国のエネルギー省所管のオークリッジ科学教育研究所(Oak Ridge Institute for Science and Education)などの研究グループによるもので、ヒアリの侵入を防ぐためにはコンテナの検疫とともに、コンテナ内での駆除が必要不可欠という理由から、ギ酸エチルによる有効性を検証した。

 結果は、コンテナ内のギ酸エチルの濃度と燻蒸時間、燻蒸温度が増すごとに、ヒアリの働きアリ、羽を持った女王アリ(Female Alates)への殺虫効果が上がっていくことがわかったという。特に女王アリに対して効果的で、ギ酸エチルを使ったオレンジの燻蒸殺虫よりも低い濃度で短時間での作用が示唆された。また、ギ酸エチルは電子機器に対して重大な影響を与えず、農作物以外での燻蒸にも使えるという。

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最新の研究では、ギ酸エチルによる燻蒸法で、濃度、時間、温度に応じて小型のアリから女王アリまで効果が上がっていくことがわかったという。Via:Byung-Ho Lee, et al., "Ethyl formate fumigation for the disinfestation of red imported fire ants Solenopsis invicta Buren." Journal of Asia-Pacific Entomology, 2019

 ギ酸エチルによる害虫駆除では、パイナップル、バナナ、イチゴ、グレープフルーツなどで輸入作物への悪影響や残留毒性などが検証されている(※5)。また、ヒアリ以外の害虫ではすでに使用されて効果が実証されているようだ(※6)。これらの燻蒸法はあくまでもコンテナ内で、事業者が行うのが望ましい。

 ヒアリ駆除といって殺虫剤をまくのは在来種へも悪影響を及ぼし、ヒアリの侵入を容易にしてしまうため、確実にヒアリの巣と明確になった場合以外は避けたい。また、ヒアリに刺されると焼けるような痛みや痒みが生じ、体質によってアナフィラキシーショックを引き起こすこともある。刺されたらすぐに救急搬送して治療を受けるべきだ。

 特定外来生物であるヒアリの見分け方は、環境省のHPに詳しい。巣の外で集団で活動する働きアリは体長2.5〜6mm、身体はつやつやしていて赤茶色なので、集団かどうか、大きさや色でまず最初の区別ができる。さらに、昆虫なので身体は頭部・胸部・腹部の3つで構成されるが、胸部と腹部の間にコブが2つあり、腹部の背側後部にトゲがなく、触覚の先端の節が2つというのもヒアリの特徴となる。

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ヒアリの特徴。ヒアリによく似たアカカミアリ(Solenopsis geminata)も毒性を持つ特定外来生物だ。Via:環境省の「特定外来種ヒアリに関する情報」HPより

 もちろん、細部を観察する際に刺される危険性があるので、ヒアリの判別が難しい場合、ヒアリ相談ダイヤルや自治体に写真を送ったり相談するほうがいいだろう。ヒアリの侵入は、水際での防御を突破されるかどうかの瀬戸際にある。ここ数年が正念場だ。

※1:Kin Ho Chan, Benoit Guenard, "Ecological and socio-economic impacts of the red import fire ant, Solenopsis invicta (Hymenoptera: Formicidae), on urban agricultural ecosystems." Urban Ecosystems, doi.org/10.1007/s11252-019-00893-3, 2019

※2:Sunyong Sung, et al., "Predicting the Potential Distribution of an Invasive Species, Solenopsis invicta Buren (Hymenoptera: Formicidae), under Climate Change using Species Distribution Models." Entomological Research, doi: 10.1111/1748-5967.12325, 2018

※3:Cleo Bertelsmeier, et al., "Invasions of ants (Hymenoptera: Formicidae) in light of global climate change." Myrmecological News, Vol.22, 25-42, 2016

※4:Byung-Ho Lee, et al., "Ethyl formate fumigation for the disinfestation of red imported fire ants Solenopsis invicta Buren." Journal of Asia-Pacific Entomology, Vol.22, 838-840, 2019

※5:Takashi Misumi, et al., "Influence of Gas Mixture Fumigation of Ethyl Formate and Carbon Dioxide on Several Characteristics of Fresh Fruits and Vegetables (Bananas, Pineapples, Strawberries, Grapefruits, Satsuma mandarins, Squashes, and Other Vegetables) ." Research Bulletin of the Plant Protection Service Japan, No.49, 19-27, 2013

※6:R Smit, et al., "Ethyl formate fumigation: Its effect on stone and pome fruit quality, and grain chinch bug (Macchiademus diplopterus) mortality." Scientia Horticulturae, Vol.261, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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