細部は紙に宿る!?コクヨが新開発した3種類の紙(ノート)と筆記具の新ブランド「ペルパネプ」
○紙とペンとの間の相性問題
この数日、文房具関連の記事としてよく出てくるコクヨの新ブランド「ペルパネプ」。本文を読むとペンと紙には相性があって、そのベストが云々。コクヨが満を持して開発した組み合わせと、同ブランドの筆記具が云々という文言が並ぶ。
そして思う。
一般には、「紙とペンの相性、はぁ?」みたいな感じじゃないかと想像する。
そもそも、ボールペンはボールペンだし、紙は紙。そこに相性みたいなものがあるのか。だって、紙とペンとは、自作パソコンのマザーボードとグラフィックボードの関係とは根本的に違うだろう。
と思う気持ちもわからないではなかった、私も。手帳に触れるまでは。
私は2007年から「手帳オフ」というイベントをずっと開催している。最近では新型コロナウィルスの感染防止対策もあり、リアルでのイベントではやりにくくなってきた。それでも現在でもZoomを利用して、手帳とかふせん関連の勉強会的なイベントをずっとやっている。これについては機会があれば別に触れる。
そしてリアルでイベントをやっていたときに、ちょくちょく話題になっていたのが、この「紙とペンとの相性」だったのだ。
手帳に使われる紙には、実はいろいろな種類があり、それはメーカーでもブランドごとでも微妙に異なる。そして同じ紙でもペンが異なれば、書き心地が違う。それは、書いたときのなめらかさや適度な引っかかり、インクの発色などだ。また、裏写り(裏側に書いた文字が透けてみえてしまうこと)、裏抜け(インクが紙の裏に抜けてしまうこと。とくに万年筆を使う場合に多く見受けられるが一部ボールペンにもある)などは、とくにページの表裏に記入することが普通の、手帳やノートでは深刻な問題である。
私の手帳オフに集まっていた手帳のユーザー・文具の愛好家たちは、その分野のリテラシーが飛び抜けて高かったのだろう。私も多少はそれに感化される形となった。
そして、今回登場した「PERPANEP」(※以下ペルパネプ)、この紙とペンの相性の問題について、大手文具メーカー的なスタンスからリファインし、具体的な製品の形に落とし込んだものではないかと推察する。
先日オープンしたコクヨのライブオフィスでこのペルパネプを取材してきた。以下に詳しく見ていこう。そして、コクヨの狙いとか、この製品が現在登場していた意味を私なりに考えてみたい。
○「ツルツル」「サラサラ」「ザラザラ」3種類の紙の違いとは?
では、紙の違いとは何かをこのペルパネプのラインナップの観点から説明しよう。
ペルパネプのラインナップは、ノートとペンに大別される。
ノートは、3種類の紙のそれぞれに、5種類の罫線が用意される。3種類の紙は、それぞれ、「ツルツル」「サラサラ」「ザラザラ」だ。
ツルツルはその名の通り、なめらかな表面の紙で筆圧をかけずにかけるのが特徴だ。実際触ってみてもツルツルだし、表面には光沢すら見える。
書いてみるとほとんど引っかかりがなく、確かに力を込める必要はない。それは万年筆やゲルインクのボールペンで顕著だ。一方でたとえばシャープペンだとツルツルしすぎに感じた。これに推奨されるのが同ブランドでのオリジナル筆記具「ファインライター」だ。
サラサラは3種類の中では最もオーソドックスで適度な引っかかりがある。やはり万年筆やゲルインクのボールペンで書いたが安心感がある。シャープペンもそれなりに受け付けてくれる。推奨されるのは、サラサクリップだ。
ザラザラは、指で触ると凹凸が感じられるぐらいにはざらざらだ。引っかかりというより抵抗感がある書き心地は、そのフィードバック感を感じながら、筆圧がいらない万年筆で書くのには最適だろう。鉛筆やシャープペンだと、芯が削られ気味なのが感じられるほどだ。推奨筆記具は、プレピー(万年筆)となっている。
上記の3種類の筆記具についても説明しておこう。
「ファインライター」は、今回登場するコクヨオリジナルの筆記具。いわゆるミリペンに近い形状だがペン先は削ってとがっている。水性顔料インクを利用。
「サラサ」はゼブラ製品のOEM。ベストセラーゲルインクボールペンだが、ボディはブランドイメージに合わせて真っ白。またゼブラとペルパネプの両方のロゴが入ったダブルネームだ。他社のOEMである点は「プレピー」も同様だ。プラチナ万年筆のエントリー向け万年筆が、ペルパネプオリジナルの白いボディになっている。
そしてそれぞれの紙を使ったノートには、5種類の罫線バリエーションが用意される。
それが、3mm方眼、4mm方眼、5mm方眼、4mmドット方眼、6mmステノ罫の5種類だ。
要するに3種の紙×5種類の罫×3種類の筆記具の組み合わせから好きな組み合わせを発見してクリエイティブワークに活用してほしいということらしい。
○神は細部に宿る(ミース・ファン・デル・ローエ)
クリエイティブワークと書いたのは、実際に記入例として用意されたものが、建築関連の図だったり、雑誌の台割り(!)だったり、マーケティングプランのフローチャートだったりだからだ。
また筆記具は、ペルパネプブランド製品としては3種類だが、実際にユーザーが利用するものはもっといろいろだろうから、組み合わせは事実上無限ということになる。
ここで想定されているのは、「クリエイティブワークをするためには、デジタルではなく、紙とペンを使っている」ということだ。
タブレットでもなく、ペンタブでもなく、紙(具体的にはノート)であり、各種ペン類だ。
「神は細部に宿る」と言ったのは、世界三大建築家(※)の一人、ミース・ファン・デル・ローエだ(※あとの2人は、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライト)。
このクリエイティブワークには紙を使うべきであるという考え方の元にあるのは、つまり、“細部は紙に宿る”ということではないか。
紙にペンで書くときに得られる書き心地のフィードバックが、ペンを通じた情報の出力・固定の質に大きく関わっている、あるいはそれを左右するという考え方である。
確かなのは、紙にペンで書くことは、その後の情報の再利用や編集性を考慮しなければ、手軽でもあり、またそれ自体に心地よさは存在すると言うことだ。そしてペルパネプの3種類の紙と3種類のペンの組み合わせから体感される書き心地の差異は、そこに個人的な好み、すなわち愉悦が存在しうることを示唆している。
それはまた、よくできたキーボードで文章をタイプするのとは違う種類のものだ。
個人的な体験として言えば書き心地のよい紙とペンの組み合わせは存在するし、そういったものを手帳やメモ帳の選び方の基準としているところはある。
補足しておくと、デジタル化についても配慮されている。ペルパネプの各ノートは、フラット製本という、見開きで1つの面として利用できるような作りになっている。それは同時に、スマートフォンで撮影したときにきれいにスキャンできることを狙ってのことでもある。
○「ペンと紙の間にはエロスがある」が意味する紙の記録媒体の可能性
情報の出力をする際に、書いている感覚自体を心地よく思う事実はあると言える。
これを私は、「ペンと紙の間にはエロスがある」と表現している。(最初に私がそのことに公の場で触れたのはこの記事だと思われる。)
そもそも現時点において紙とペンにはどんなことができるかという問題がある。
スマートフォンが一人一台レベルで普及し、タブレットもPCもあるような状況、つまりイニシャルコストを無視すれば、記録の手段が偏在し、クラウド上に保存された情報はどこからでもアクセスできるような状況がある。
こういう時代に、紙の記録媒体であるノートにはどんな可能性があるのかと言うことの一つの答えはこれではないか。
すなわち、情報を記録・固定する際の官能性能である。
コクヨのペルパネプのラインナップにある「ツルツル」「サラサラ」「ザラザラ」と「ファインライター」「サラサ」「プレピー」の組み合わせはそれを象徴していると思えるのだ。
○ペルパネプ 各製品の価格
ノート(A5サイズ、60枚):各990円
ファインライター:220円
サラサクリップ:143円
プレピー:440円
※いずれも税込み
4月21日全国発売予定 ※一部店舗で3月17日より先行販売