路面電車に代わる札幌市「AIデマンド水素バス」は何が問題か 関係者のみの「密室協議」が方向性を決める
札幌市は、2022年9月に、それまで検討を続けてきた路面電車のJR札幌駅方面への延伸を事実上断念した。
これまで札幌市では、2010年に「札幌市路面電車活用方針」を定め、市電の延伸について検討を開始。都心地域、創成川以東地域、桑園地域の3ヵ所が延伸先の候補として挙げられ、2015年12月に都心地域の一部、西4丁目―すすきの間の450mが延伸開業。札幌市電のループ化が実現した。
しかし、その後札幌市は、2022年9月、自動運転の水素燃料バスなど、新しい交通システムを合わせて検討するとして、採算性や用地買収の困難さを理由に路面電車のさらなる延伸構想を事実上断念することになった。
非公開で開催された水素バスの協議会
2023年6月になり札幌市は、北海道新幹線の札幌延伸開業を念頭に置いた新公共交通の導入に向けた協議会を非公開で開催。NHKや地元テレビ局の報道によると、札幌市内で開催された会合には、札幌市の担当者のほか、国土交通省や経済産業省、北海道庁の担当者などが出席。
新しい公共交通機関は、具体的にはレールや架線がなく、環境に配慮した水素燃料車両を使いAIを活用した予約制のデマンド交通を想定していて、2024年度から創成川の東エリアで実証実験を行った後、北海道新幹線の札幌延伸が予定される2030年度までに実用化を目指すとされた。
車両のデザインイメージとして、LRT(次世代路面電車システム)の電車に似たデザインの連接バスが路肩を走るイメージ図が公開された。
しかし、路面電車に詳しい市民団体関係者からは「路面電車と比較して地価上昇などの社会全体としての経済効果が考慮されていない」「市民が異論を挟めないよう情報公開もほとんど行われていないのは問題ではないか」という声が上がっている。さらに同関係者は「自動運転についても、路肩に雪がたまる冬季間においてはゴムタイヤ方式の連接バスでは安定した運行に不安があり、100年来の運用実績により技術的に確立している鉄軌道方式のほうが信頼度が高いのではないか」と続けた。
路面電車の総合的な経済効果は考慮せず
札幌市電の延伸が事実上断念された理由については、大きく採算性と用地買収の困難さの2点だ。しかし、札幌市が2023年3月に公開した「札幌市路面電車の延伸検討結果」によると、採算性については単純な収入と支出の比較のみしか実施されておらず、例えば、沿線の地価高騰など路面電車を延伸することにより得られる社会的な経済効果について評価が行なわれている項目はなかった。
用地買収の困難さについても「沿線の商業施設への荷物搬入のトラックに支障が出る」などの理由が主として挙げられており、路面電車を延伸し社会的な注目を集めることで沿線の商業施設に集客効果をもたらすといった経済に対して前向きな理由についても具体的な検討を行った記述は見られなかった。
大注目の宇都宮ライトレールでは地価や家賃の上昇も
一方で、栃木県宇都宮市ではこの8月26日に、路面電車の新規路線としては75年ぶりとなる宇都宮ライトレールが開業し、全国的に大きな注目を集めており沿線の地価や家賃相場が上昇している。
関東信越国税局が2023年7月に公表した路線価によると、宇都宮ライトレールが乗り入れる宇都宮駅東口前ロータリーの路線価が4年連続首位をキープしており、変動率も3.2%増と4年連続で上昇している。
さらに沿線の家賃相場についても上昇を続けている。不動産情報サイト「ライフルホームズプレス」によると、2023年4月の沿線の平均家賃相場は6万7626円と前年同月比10.9%増。賃貸物件の問い合わせ数も前年同月比で1.5倍に増えているという。
札幌市の密室協議は俯瞰的な視点を欠く
路面電車開業の全体的な効果を考えれば、まち全体が活気づき地価の上昇を促したほうが、行政的にも税収がプラスとなりメリットがあるはずであるが、札幌市ではこうした俯瞰的な視点に欠き、矮小化した議論を密室で続ける今の姿勢は問題ではないだろうか。
(了)