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牧場のしごと発見サイトBOKUJOB。牧場の人事担当者と直接面談できるイベントを競馬場で開催

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
北海道の牧場で働く田口沙耶さんにとってBOKUJOBは人生の分岐点だ(筆者撮影)

牧場で働くことに興味がある人にはうってつけのイベント

 人材確保が叫ばれている昨今、馬の業界もその例外ではない。とくに馬の生産や育成にまつわる仕事は、常に人手不足に悩まされている。牧場の仕事のポータルサイトであるBOKUJOB(https://bokujob.com/)は定期的に牧場の方と牧場で働きたい人をつなげるイベントを開催している。

 BOKUJOBを運営する公益社団法人競走馬育成協会の牧場就業促進事務局の近藤さんに話を聞いた。

「経験者でなければ馬の仕事に携われないのではないか、という声をよく聞きます。でも、そんなことはない。未経験者を歓迎する牧場はたくさんあるし、授業料が無料の育成機関(注:食事代は自己負担)もあります。」

 では、実際にどのような牧場が参加しているのか、数あるブースを見てまわった。

安田記念当日、東京競馬場で開催されたBOKUJOBのイベント(筆者撮影)
安田記念当日、東京競馬場で開催されたBOKUJOBのイベント(筆者撮影)

競馬通なら知っている方々が行き来する会場

 会場内には所狭しと多くの牧場や育成場の関係者が各テーブルで参加者と面談していた。その中の奥まったブースに下河辺牧場の下河辺隆行氏がいた。

 下河辺牧場は1933年の創業以降、数多くの名馬を輩出している名門牧場だ。生産馬には、2003年に牝馬三冠を達成したスティルインラブ、2014年にマイルチャンピオンシップを制したダノンシャーク、2017年の菊花賞を制し今年の宝塚記念にも出走するキセキなどがいる。

 下河辺隆行氏は「このようなイベントを通じて、実際に牧場で働いてみたいという方とお会いできる機会をつくれるのがいいですね」と当イベントに期待を寄せていた。

 実はこのイベントは下河辺隆行氏のような、競馬通ならその名前や顔を見ただけでピンとくるような有名な方々が普通に参加者の応対をしていることに驚かされた。わたしが取材しているあいだも、下河辺氏以外にも何人かの有名人が行き来しながら圧倒的なオーラを放っていた。

 実際に働く段階になれば、こういった方々の下で毎日を過ごすことになる。そんな牧場の人々の雰囲気を実際に味わえるという意味でも貴重な機会だと感じた。

宝塚記念出走のキセキを生産する名門牧場・下河辺牧場の下河辺隆行氏
宝塚記念出走のキセキを生産する名門牧場・下河辺牧場の下河辺隆行氏

「授業料無料で1年間、騎乗技術を学んでから働いても遅くはない」

 いきなり牧場で働くのは抵抗がある、という方には北海道浦河にある軽種馬育成調教センター(通称BTC)という育成施設で1年間の研修制度もある。

 毎年20名程度、BTCでまず半年は基礎的な知識と技術を学び、後半の半年は若馬の初期調教などを実践的に学ぶ。

 この研修はJRAの全面バックアップを受けているため授業料は無料(ただし、食費の負担あり)だが、研修後に3年以上軽種馬の育成にかかわる必要がある。

 BTCで教官を務める中込治氏によれば、「研修生の8割は乗馬の未経験者です。個々のレベルに合わせたカリキュラムで学んでいきます。未経験のまま馬の仕事に就くのが不安な方にはぜひこの制度を利用していただきたい」とのことだ。

 こういった学びの相談もできるのは、志願者にとってはありがたいことだろう。

「ここで1年間、騎乗技術を学んでから働いても遅くないと思いますよ」(中込氏)

 

BTC軽種馬育成調教センターで教育を担当する中込治業務部次長
BTC軽種馬育成調教センターで教育を担当する中込治業務部次長

「馬が好きで、好き過ぎて、馬の仕事をしたくなった」

 関西のイベントには参加しないが、取材した東京競馬場のイベントで目を引いたのは北海道・門別の白井牧場のブースだ。

 農作業のイメージとはかけ離れた可愛らしいモスグリーンのワンピースを着た華奢な女性が熱心に来場者に説明をしていた。筆者も声をかけたところ、彼女は1年前のこのイベントに体験希望者として参加したあと、白井牧場へ就職したという新人の牧場スタッフの田口沙耶さんという女性だった。

「関東近郊の競馬とは関係のない家で育ち、アパレルで働いていました。でも、馬が好きで、好き過ぎて、馬の仕事をしたくなったんです。」

白井牧場で繁殖スタッフとして働く田口沙耶さん。昨年、同イベントに参加し牧場への就職を決めた(筆者撮影)
白井牧場で繁殖スタッフとして働く田口沙耶さん。昨年、同イベントに参加し牧場への就職を決めた(筆者撮影)

 田口さんの採用を担当し、今年も白井牧場を代表してイベントに参加していた白井直樹氏にも話を聞いた。

「田口は母親と一緒にBOKUJOBのイベントへ来ました。とても熱心で、話しているだけで本気度が伝わりました。しかし、"牧場へ来たい"と"実際に働く"のは違う。まずは1週間ほど牧場にきて体験してもらいました。それでも我が白井牧場で働きたければおいで、というあくまでも"待ち"のスタンスで構えていたところ、田口自身が牧場で働くことを決意して単身やってきたんです。」

 現在は繁殖部門のスタッフとして働く田口さんだが、いまの生活について話すその表情は飛びぬけて明るい。

「わからないことは先輩が教えてくれますし、環境にもすぐに慣れてきました。何より馬と毎日一緒に居られるが最高に幸せです。」(田口さん)

 そして、白井氏は田口さんに「最低でも2年は続けて欲しい」と言います。

「2年後には今年生まれた仔馬が競走馬としてデビューするでしょう。成長した馬の姿を見たり、その馬が勝ったりしたときの喜びは"その時"にならないと味わえないですからね。田口に"その時"が来る日がこちらも楽しみです。」(白井氏)

 確かに。馬にまつわる魅力は年数を重ねるごとに味わいを増していく。まして、生業として携わるのだから感情の昂りはとてつもないものだろう。2年後、田口さんがどのような表情を見せているのかがとても楽しみだ。

BOKUJOB2019のイベント日程

 これから行われるBOKUJOB2019のイベントの日程は下記のとおり。

■大阪 6月22日、23日 JRA阪神競馬場 終了

■愛知 7月6日、7日 JRA中京競馬場

■静岡 7月23日、24日 御殿場市馬術スポーツセンター

■札幌 8月10日、11日 JRA札幌競馬場

■宮崎 8月25日 JRA宮崎育成牧場

■小倉 8月31日、9月1日 JRA小倉競馬場

 BOKUJOBを運営する競走馬育成協会の近藤総務部長は「興味本位でもいいので、ぜひ来場してみてください」と熱心に話す。

 競走馬の牧場で働くことに興味がある人はぜひ気軽に会場へ足を運んで欲しい。

 もしかしたらあなたも、BOKUJOBのイベントを通じて大きな人生の分岐点を迎えるかもしれないのだから。

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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